スプーン曲げ

友人のXくんの家でゲームをしていると「そういえば見せたい物があるんだった」と台所からある物を持ってきた。


「これなんだけど」


見せられたのは、くの字に曲がったスプーンだった。


「なにこれ。超能力でも使えるようになったの?」


「実は変なことがあって」


とXくんは話し始めた。



数日前に、不思議な夢を見たそうだ。それは、手にしたスプーンが次々と曲がる夢。


何かを食べようとスプーンを持つとグニャリと曲がる。代わりのスプーンを引き出しから取り出すとそれも曲がる。手に取る先から次々に曲がるので家に曲がっていないスプーンがなくなってしまう。仕方がないので100均にスプーンを買いに行くが、店のスプーンも手にするたびに曲がっていく。


あまりに曲がってしまうのでもう一生スプーンを使えないのでは、というところで目が覚めたそうだ。


起きた後、もしかして、とテーブルに置いてあったスプーンを持ってみたが、曲がる事はなかった。


そりゃそうだよな、とスプーンを片付けに台所に行く。スプーンを洗って食器が入っている引き出しを開けた時、くの字に曲がったスプーンを見つけたのだそうだ。



「で、このスプーンがさ、おかしいんだよ」


スプーンが勝手に曲がってる時点でおかしいだろと思ったが口にしないでいると、Xくんはおもむろにスプーンを掴んで触り出す。


「スプーン曲げって、てこの原理でやれるんだってな」


そう言うと、曲がっていたスプーンを元の真っ直ぐな状態に戻し、テーブルに置く。置かれたスプーン、確かに違和感があった。


「あ、裏表だ。」


先端の丸い部分を下にして置かれているスプーン、持ち手部分に「MADE IN CHINA」の文字が見える。普通、スプーンの表側に書かれるようなものではない。裏側が見えている。つまり、先端が表側、持ち手は裏側になっているのだ。だが、柄の部分が捻れているようにも見えなかった。


「な、おかしいだろ?これ、何なんだろうな」


Xくんはそう言いながら、不思議そうな顔をしていた。


結局、何故こんなスプーンができたのかは未だにわからないままである。

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