まひろ@かみさま の勘違い

日出 隆

~はじまり~ 月と神様とサラリーマン

「なんでこんなことになっちまったんだろうな」


 眼の前には丸々とした巨大な青い星、母なる地球。

 宇宙空間に漂っているリヒトは、ネクタイを締めたワイシャツ姿。周囲は真空のはずなのに苦しくない。そもそも生身で宇宙にいるのになぜか生きている。


「地球ってさ、なんか儚くて頼りなくて可哀想だよね」


 そう言ったのは俺のすぐ近くに漂っている女子高生。本人曰く、神様らしい。女子高生神様。いや、神様女子高生か?


「可哀想―?」


「うん、だってさ、こんな真っ暗な空間にポツンって一つだけで浮いているんだよ?何十億の人間とか、その何倍ものいろんな生命とか、いろいろなものを載せて。背負いきれない程の重荷を載せているのに、頼れる人とかいなくって、じわじわと人間に侵食されている。可哀想だよ」


 リヒトの正面に存在する地球は、ちょうど海の部分が陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


「-そうかな。頼りない、とは思えないけど。むしろ雄大」


「そっかー。私は見飽きたからそう見えないのかも」


 そう言うと、女子高生は肩に乗せた猫と何か話す。

 広大な宇宙空間で、巨大な地球を前にしながら、ワイシャツ姿で、猫と戯れる女子高生と話す。生きていると何が起こるかわからないなーって思いながら一つ伸びをして後ろに倒れこむ。くるっと一回転して、また眼の前に大きな青い地球。そんな俺の肩を神様女子高生―GODJKが押さえてくれる。


「宇宙って止めるものがないから回り始めたら回りっぱなしになるからさ。気をつけたほうがいいよ。一生、回り続けることになっちゃうから」


 一生、っていう言葉がやけに軽い。俺より七つ、八つは年下に見えるGODJK-GKにサンキュゥって言って再び地球と相対する。GKの肩では猫が力を入れて踏ん張っている。回り出した俺とGKを何かの力で支えてくれているのかもしれない。


「えいっ」


 そう言ってGK―まひろって名前らしい―は俺に向かってぴんって指で何かを弾く。

 ふわふわと漂ってきたそれは指輪。鈍い金色で年代ものっぽい。


「それつけてみてよ。野望?希望?の第一歩」


「え?」


「つけて。どの指でもいいから」


「あ、ああ」


 出会って一時間も経ってない。

 でもここにいることも含めて全てがまひろのせいだっていうのは間違いない。

 俺は言われるがままに人差し指に指輪をはめる。ぶかぶかだ。でもまひろは、気にする風でもない。


「あれ」


「え?」


 まひろが指差した先には、俺の存在を忘れるな、と言わんばかりの巨大な月。


「ね、月に向かってその指でこう、弾いてみてよ」


「え?」


「軽く。ね?」


「はあ。こんな感じ?」


 要領を得ないまま、リヒトは指輪をはめた指をぴん、と月に向かって弾く。

 次の瞬間、リヒトの指の先から眼も眩む光が迸り、月を、太陽系第三惑星地球、唯一無二の衛星である月を、粉々に破壊した。

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