ゆきのちゃん

高坂 美月

ゆきのちゃん

 小学3年生の僕はこの街に引っ越して来たばかりだ。冬の時期に転校したので、仲良しグループがすでに出来上がっていてなかなか馴染めない。この学校で新しく誰かと友達になるなんて無理だと思っていた。

 そんなある日、学校から帰宅すると部屋に雪だるまがいる。どうせおもちゃか何かだろうと思っていたら、なんと動き出した。

「あたし、ゆきの。涼くん、よろしくね」

雪だるまは「ゆきの」と名乗る。僕は雪だるまが喋り出したことに驚いた。しかも僕の名前も知っていたのだ。

「どうしてここに……?」

僕がそう言うと、ゆきのちゃんは「住む場所を探してたんだけど、涼くんのお部屋、住み心地良くて気に入っちゃった」と言う。それ以外何も言わないので、ゆきのちゃんはいつまで僕の部屋にいるつもりかわからない。というか、ずっといるつもりな気がしてきた。

 話をするうちに僕とゆきのちゃんは仲良くなっていたのだ。学校で友達ができなかったとしても、家に帰るとゆきのちゃんがいるので寂しくはなかった。体育の授業でドッヂボールをしたこと。お調子者の遠藤くんが掃除時間に箒と雑巾で野球をして先生に怒られていたこと。僕はゆきのちゃんに学校であった出来事を話し、ゆきのちゃんはその都度僕の話を聞いてくれていたのだ。学校が終わってからは一緒に宿題をし、休みの日は一緒にゲームをした。転校して最初の1ヶ月はなかなかクラスに馴染めなかったものの、それ以降は仲良くしてくれる友達も増えてきたのだ。

 季節が冬から春に変わりつつあり、外も暖かくなってきた。そんなとき、ゆきのちゃんは深刻な顔をして言う。

「実は涼くんに伝えなきゃいけないことがあって……」

僕が「伝えなきゃいけないことって?」と言うと、ゆきのちゃんは「あたし、暖かくなると溶けて消えちゃうの……」と打ち明ける。「ゆきのちゃんが溶けて消えるなんて絶対に嫌だ!」と僕は泣きながらゆきのちゃんを抱きしめた。せっかく仲良くなった友達を失いたくなかったから。その晩、僕はどうしたらゆきのちゃんが溶けて消えずに済むか真剣に考えた。

 暖かくなると溶けて消えるとゆきのちゃんは言っていたけれど、3月になっても元気に僕の家で過ごしている。それは僕の努力の甲斐ーーできるだけ暖房は使わない、ゆきのちゃんの周りだけでも涼しくするなどーーや例年より寒いということもあると思う。3月にはゆきのちゃんは溶けて消えてしまうと思っていただけに、今でも元気に過ごせていることが信じられなかった。

 3月も下旬になり、暖かく過ごしやすい季節になる。ゆきのちゃんは「涼くん、今までありがとう。あたし、そろそろ行くね。また次の冬も会いに来るね」と言い、僕の前から徐々に消えていった。お別れは寂しいけれど、次の冬も会いに来るというゆきのちゃんの言葉を信じて冬を待つことにする。

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ゆきのちゃん 高坂 美月 @a-tmm1209

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