出会いから別れを振り返る (愛梨 中、高校生)

 初めて出会った時はビックリした。

 シュウには悪いけど、身体が大きくてちょっぴり怖い顔だったから、驚いたことと怖さで上手く言葉が出なくて……


 シュウとの出会いのきっかけは中学の文化祭。


 ある時、クラスメイトにCGなどを使い動画を作る真似事をするのが趣味だとうっかり話してしまい、それなら文化祭のステージ発表の時に私の作った動画を使いたいと言われてしまった。


 恥ずかしいし自信もないからと断るつもりだったが、クラスメイト達が色々とアイデアを出していくうちに話が盛り上がり、気付いたら断れないくらい話が進んでしまった。


 仕方なく作りかけだった動画をステージ発表で歌う曲に雰囲気が合うように作り直したり、新たに映像を加えたりと、あの時は不安と緊張で睡眠不足になって大変だった。


 そんな、自信はないけど私なりに一生懸命頑張って作った映像を…… 大袈裟なくらい褒めてくれたのがシュウだった。


 もう一度私の作った動画を見せてくれと何度も頼まれて、断り切れずに出会ったばかりなのに私の家に招待したり…… 

 正直男の子と二人きりで私の部屋で過ごしたのはドキドキしたが、シュウは私の家に来ても動画をたくさん褒めてくれた。


 あの時から意識してたのかな…… 学校でシュウを見かけたら自然と目で追っていたし。


 それから私達は、たまに一緒に帰って私の家で私の作った他の動画を見たり、同じ高校に進学するために一緒に勉強したりと、少しずつ仲良くなっていった。


 そして高校に進学して少し経った頃。

 何となくシュウも私のことを良く思ってくれているのは感じたが、なかなか告白してくれなくて…… ついつい話の流れで『私達、恋人みたい』なんて言っちゃって、それからお互いに告白をして交際がスタートした。



 毎日のように一緒に居て、デートしたり夜にはメールでやりとりしたり、たまに電話で話したりと、毎日が楽しかった。


 どんどんシュウの事が好きになって……交際が続けばいつかは求められると思っていたが、身体の関係も無事持てたりと、順調に私達は恋人としてステップアップしていった。


 そして交際中、一番嬉しくて今も大切な思い出になっているのはお揃いのペンダントをプレゼントしてもらったこと。

 シュウと私の絆を目に見える形で身に付けていられるなんて…… 幸せで、肌身離さず…… 身に付けていた。


 この頃には私達も慣れてきて…… 私の方からも積極的にシュウを求めてみたり、夏休みや冬休みにはお泊まりして何度も…… なんて事もあった。

 そのたびにお互いの肌とペンダントが触れ合って幸せな気持ちになる、そんな日々がずっと続くと私は信じていた。


 でも…… 私は進む道を間違えた。

 

 シュウが褒めてくれるからと調子に乗って、シュウとこれからも一緒に過ごすためにと、私は映像の勉強をする事を選んでしまった。


 専門学校を選ぶのも、シュウに相談もせず東京に行くことを選び、お母さんに高い学費を負担してもらえるよう頼み込み、進路調査終了ギリギリでお母さんが許可を出してくれたので私の進路は決まった。


 私の作った動画を喜んで見てくれたシュウだから、きっと私の進路も応援してくれると勝手に思っていた。

 二年間は遠距離恋愛になってしまうが、専門学校を卒業して、シュウに見守られながら映像関係の仕事をして、いずれ二人で生活出来るようにと、そんな未来を想像して……


 ただ、進路を伝えた時のシュウの顔で、私は間違ったと気付いた。

 シュウは笑顔で私の話を聞いてるつもりだったのだろうが、その笑顔がどんどん曇っていくのを私は感じた。

 もう二年も付き合ってるんだよ? 分かっちゃうよ…… シュウの事なら。


『別れ』という文字が頭をよぎり、それから私は必死にシュウを繋ぎ止めようと頑張った。

 母子家庭で生活も大変だろうお母さんに無理を言って、頭を下げて入学金も用意してもらったのに今更進路を変えられない。


 だから、甘えたり、毎日お弁当を作って尽くしてみたり、時には身体を使って私という存在を必要としてくれるよう、シュウに別れを告げられないように頑張った、けど…… 駄目だった。


 高校卒業までは、嫌な雰囲気がしたら逃げて避け続けていたが、東京へと向かう数日前、逃げ切れなくなった。


 泣いて抵抗したが、シュウの泣きそうな顔を見て諦めかけ、でも諦めきれず縋って…… それでもシュウは泣きそうなのを堪えながら、辛そうな顔をして私に別れを告げた。


 走り去り小さくなっていくシュウの姿を、一人その場に蹲り泣きながら見つめていた。


 どうして…… 何がいけなかったんだろう…… 何がシュウを傷付けたんだろう……


 調子に乗っていた私が邪魔になった? ……いや、シュウはそんな人じゃない、とても真面目で優しくて…… 誰よりも私を大切にしてくれた。


 大切にして…… だからなの? ……やだよ、シュウの考えていた事が今更になって分かるなんて…… 私、なんてバカなんだろう……


 私の夢は…… シュウが隣に居ないと叶わないんだよ? 意味ないんだよ? ……気付いていれば別れなくて済んだかもしれない、もっと逃げずに話し合えば…… 今も笑って過ごせていたかもしれない……


 そんな後悔と、将来の夢が失くなり絶望したまま、私は一人、東京へと進学した。




 ……いや、こんな話を今、シュウは望んでいない。

 きっと知りたいのは別れて再会するまで東京で何があったのか、冬矢とうやくんと私の関係…… 私の気持ちなんて今は関係ない、すべてを正直に話そう。

 たとえ許されなくても…… もうシュウには嘘をつきたくないから。


 そして私は深呼吸をして、専門学校時代の話と、冬矢くんと再会し何があったかを、罪を告白するために話し始めた。

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