人生灰色な平凡人間【神眼】を手に入れて最強になる 〜星霊王から与えられた至高の瞳ですべてを見切って無双する〜
黒井カラス
第1話 星霊王の神眼
天体観測なんて、こんな時でもないと、きっと生涯することはなかったはずだ。
頭の遥か上空で星が衝突しては消えていく。幾たびも繰り返しては最期の輝きを瞬かせる。
世間ではこの未曾有の天体現象を大きく取り上げていて、全国中継もされているとか。
俺みたいに家の庭にゴザでも引けば、それで事足りそうだけど。
「すげぇ」
星が瞬くたびに、大気の衝撃が胸を打ち、夜空から煌めきが一つ途絶える。
それでも星は幾万とあって、尽きることなく消滅していた。
なにか壮大な、理解の及ばないようなことが、目に見える形で起こっている。
残念ながら、そのすべてを理解するなんてできないことが、もどかしくて堪らなかった。
その癖ただ寝転んで夜空を見上げるだけで、宇宙の一部にでもなった気分がして、気持ちが張裂けそうでもある。
なんだろう、この気持ちは。
「
「見ての通りだよ、ばーちゃん。騒がしくて、目まぐるしくて、何が何だか。でも、なぜか目を離しちゃいけないような、そんな感じ?」
「そうかい、そうかい。やっぱり、蒼鍵はばーちゃんの孫だね」
「ん? なに、どういう意味? ばーちゃん」
「それより、金平糖いるかい?」
「いる!」
話を色々と逸らされた気がするけど、まぁいいか。ばーちゃんの金平糖は絶品だ。
小袋に入ったそれを受け取って、またゴザの上に身を倒す。
星の衝突は激しさを増し、夜空は一瞬だけ昼間のように明るくなった。
「わおっ、星の見物と金平糖。最高だね」
次々に消えていく星々と金平糖の一粒を見比べて口に落とし、噛み砕いて弾ける甘みの爆発。
それと時を同じくして、一際大きな星が弾けた。
瞬間、大地に突き上げられたように体が跳ねて地球は重力を失い、小袋から金平糖が宙に投げ出され、甘味だけが口の中に留まる。
「金平糖が!?」
星よりも金平糖。
飛び散ったそれを眼で追うと、なぜか止まっていた。
失われた星々の代わりを務めるかのように、夜空に留まっている。
無重力の中にいるみたいに。
というか、他のものもだ。布いていたゴザも、この体さえも、空中に留まっている。
「なんだよ、これ」
時が止まった? 無重力? 流石に金平糖を気にしている場合じゃない。
わけのわからない状況下の中、ふと見上げた夜空から流星が降ってくる。
目の前で停止したそれは、とてもこの場にはそぐわない、とても奇妙なものだった。
星飾りの面だ。
人の顔を模して星が散りばめられたもの。
何処から来たか、時の彼方? 星の果て? 何処からでも有り得てしまいそうなほど、その星飾りは異彩を放ち、荘厳だった。
そんな見るからに貴重な品がなぜ?
答えは見つめ合った星飾りの眼が教えてくれた。
情報が目と目を通じて共有され、この不可解な現象と、夜空で巻起こった星の衝突の意味。
それが一瞬にして理解できた。
この一連の出来事はすべて星霊王という善の大いなる存在と、
両者は互いに敗北し、星霊王は力の源である装備を。禍津血は世界に牙を剥いた悪意を。
それぞれ世界中にばら撒いてしまった。
「星霊王の装備……集める……俺が」
その為に星飾りの面が目の前に。
「どうして俺?」
返事はない。
「そう」
正直、期待していた自分がいた。
星が弾ける特別な夜。自分にも特別なことが起こった。
なんと、尊き星霊王様の役に立てるのだ。選ばれた理由は? たぶん、その辺にいたから。
実は隠れた才能が? とか。実は特別な産まれ? とか。たぶん俺に限ってはあり得ない。
俺の人生はそのくらい灰色で、つまらないものだから。
「でも」
誰かがやるべきことなら、それは俺がやりたい。理由はどうあれ、どんな人選だろうと、選ばれたのは俺だ。
俺自身だ。
この胸に感じた使命感を誰にも渡したくない。この役目を星霊王様から賜るのは、俺だ。
「集めます。俺が全部」
その宣言の元、星飾りの面は装着された。
誰の邪魔建てもなく、滞ることもなく、星飾りの面は俺と重なり、眼と重なった。
その瞬間、この目に星霊王様の力が宿る。
千里を越えてすべてを見透かす、最強の瞳。
星霊王の神眼。
星霊王の装備をすべて見つけるにあたり、これほど適した能力もない。
星飾りの面は、そのまま透けるようになくなり、俺の内側に大切に仕舞われた。
「成し遂げます。必ず」
両手を広げ、宙に散らばった金平糖を掻き集める。決意表明みたいに。
すると時は進み、無重力は終わっていた。
街のそこら中で事故の音がする。
夢なんかじゃない。実際にあったことだ。この星の衝突よりも騒がしい街の声が、そう教えてくれていた。
俺には使命がある。
その事実を噛み締めていると、ばーちゃんや両親も家から飛び出てきた。
特別な夜はこれでおしまい。
もう弾けない星を眺めて、俺も家の中に帰る事にした。
§
星霊王の神眼を賜ってからというもの、噂には聞いていた程度の存在だった魔力が明確に見えるようになっていた。
魔力は時や風によく例えられる。
確かに存在するし、誰もが認めるところだけど、誰も見たことがないし捕まえることも出来ない。
でも、星霊王の神眼を授けられた俺には確りと見て触れることが出来た。
これを応用すれば、魔力で色々な物が作れてしまう。
例えば今朝、使命に浮かれてついうっかり割ってしまった食器とか、折れた箸、それに武器なんかも。
まぁ、包丁のことなんだけど。
切れ味はかなりのもの。
「蒼鍵や」
「はい。ばーちゃん」
朝食のあと、慌ただしく仕事に向かった両親を見送った後、珍しくばーちゃんの和室に呼び出された。
「星霊王様のところへ向かうのね」
我がばーちゃんながら、ぎょっとした。
「な、なんでそのこと」
「亀の甲より年の功よ」
意味はわからないが、マジで凄い。
昔から見透かしたようなことを度々言っていたのを覚えているけど、今回は本当に謎だ。
そんな素振り、見せたつもりないのに。
まぁ、でも、ばーちゃんだからな。
「いいかい? 星霊王様の元に向かうには今いるここから二つ世界を登らなきゃ行けないよ」
その事も知ってるんだ。
「わかってる、下界、中界、上界でしょ?」
その知識は神眼を授かった時に教えてもらった。
「じゃあ行き方もわかっているね? 」
「なんとなく」
「よろしい。でも気を付けること。この下界と違って、中界と上界では魔物が出る。もし出くわしたら、星霊王様の眼を頼ること。すべて教えてくださるはずだから」
「わかった。でも、なんでそんなに詳しいの?」
そう聞くとばーちゃんは笑って誤魔化した。
こうなった時のばーちゃんは何を聞いても答えてくれない。
諦めよう。
「さて、と」
昨日の時が止まった事件。
というよりかは大地に突き上げられて、無住力状態に突入した件によって、世間は昨日よりも大騒ぎになっていた。
街の至る所はまだ騒がしいし、学校も何日か臨時休校になっている。
不謹慎だとは思うけど、こちらとしては好都合でしかない。
「蒼鍵。これを持ってお行き」
「わぁ、おむすび!」
しかも醤油の良い匂いがする。
ずっしり重い。
「たくさんあるからね。お腹が空いたら食べな」
「ありがと。残さず食べるよ。じゃあ行ってきます」
俺が生涯においてやるべきことの一つ。
そんな大仰な使命感に背中を突き動かされるようにして魔力の流れを見る。
隙間を縫い、形を変え、曲げて伸ばす。
するりと手が通れば、思い通りの形になってくれる。
それは世界と世界の垣根を越えて移動する手段。階段だ。
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」
魔力の階段を上り、いざ中界、上界へ。
星霊王様の元へ。
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