元サンタクロースのプレゼント

かなちょろ

 元サンタクロースのプレゼント

 暦も既に12月。

 今年ももうすぐ終わる。

 でもその前にはクリスマスと言う大イベントが毎年ある。

 そのクリスマスの為にプレゼントを配っていたサンタクロースが私だ。

 今はそのサンタクロースは廃業しているがな。


 最近は煙突の無い家も多く、外も明るい。

 子供達も寝る時間が遅くなっている。

 私が用意したプレゼントも今の時代には合わない。

 だから廃業した。


 この時期、手紙は良く届く。

 サンタさんにプレゼントのお願いの手紙だ。

 今となっては意味の無い物。

 いつものように処分しようと思ったのだが、一通の手紙に目をやる。

 その手紙にはこう書いてある。


【サンタさんへ クリスマスはお父さんも一緒にお祝いしたいです。 だからお父さんを家に帰れるようにしてください】


 こんな内容だ。

 クリスマスにプレゼントでは無く、家族一緒にいたいと言うその手紙が私は気になった。

 そしてその子の父親がいる所へ行ってみることにした。

 トナカイとソリを使えばあっという間だ。


 その子のお父さんは単身赴任として一人で暮らしているようだ。

 私はその男性にそっと近づき観察した。


 朝は寝坊で慌ててコーヒーを飲み、電車に駆け込む。

 お昼は会社近くでサンドウィッチとコーヒーを買い、会社で食べ仕事に戻る。

 定時には上がり、夕食を買って家に帰り、仕事をし、映画を観ながら眠りについている。

 プレゼントを買っている気配は無い。

 そこで私は明日、その男性に声をかけてみることにした。


 今日も駆け込んで電車に乗り込む男性の後に乗り込み、同じ駅で降りる。

 仕事が終わるまで待ち、帰りにわざとぶつかり荷物を落とす。

「大丈夫ですか!?」 と手を差し伸べられ立ち上がる。

「いやあ、大丈夫ですよ。 貴方もプレゼントを買いに?」

「プレゼント? いえ私は別に……あ……」

 ぶつかった場所は丁度おもちゃ屋の前。

「そうですか、もうプレゼントは買っていましたか」

「い、いえ、そう言うわけじゃ……」

「買って無い? なら早く買わないと子供が待っているのでは無いですか?」

「そう……ですね……」

「おや? 何か訳ありで?」

「じつは……」

「そうでしたか……、もし何か困ったらこちらに連絡して下さい」

 男性に名刺を渡して、その場を去る。


 男性が家に帰れない理由は丁度クリスマスに大事な仕事が入ってしまったのだ。

 家族の為にはもちろん帰りたいが、早く終わらせても飛行機に間に合わないとの事。


 そしてクリスマス当日、男性は仕事を頑張っている。

 頑張った結果、思っていた時間より早く終わったのだろう。

 急いでタクシーに乗り込んで、空港に向かっているようだ。

 飛行機には間に合ったようだが、生憎急な天候不良により飛行機が飛ばなくなってしまった。

 男性はロビーでうなだれ、ポケットからチケットを取り出し、床に投げつける。

 すると、チケットと一緒に一枚の名刺がヒラリと落ちる。


 男性はその名刺を手に取り、名刺の電話番号にかけてみる。


「おや? どうしました?」

「じつは……」

 男性は聞いてもらいたかったようだ。

 サンタクロースの私に。

 名刺にはサンタクロースと書いてあった。


 男性の話しを聞いた私は最後に力を貸してあげましょうと、男性にプレゼントを買って家で待っているようにと伝えた。

 男性はプレゼントを買うだけ買って、家で奥さんとお子さんに電話で謝っている。

 そんな中、男性の家のベランダからはシャンシャンと鈴の音が聞こえてくる。

 男性が窓を開けると、そこにはソリに乗ったサンタクロースがトナカイを連れて待っていたのだ。

 驚いた男性は、目をぱちくりとさせて電話を落とした。


「フォフォフォ、さあ、乗りたまえ」

 白い立派な髭を生やした私は男性をソリに乗せ、トナカイを走らせる。


 トナカイぎ引くソリは雲を越え空高く舞い上がり、物凄い速さで走り抜ける。



「ママ、お父さん今日は帰って来れないの?」

「そうね、お父さんも帰ってきたかったみたいなんだけど、仕方ないわ。 今日は二人で祝いましょう」

「そっか……」

「ほら、元気出して、楽しみましょう!」

「う……ん……」

 その時、どこからとも無く鈴の音が聞こえてくる。


「おーーい!」

 二人が振り向いた先にはソリに乗ったサンタクロースと、隣には子供が楽しみに待っていたお父さんの姿が見えた。


 トナカイとソリは二人の前に止まり、無事にお父さんを送り届けた。


「サンタさん! お願いを聞いてくれたんだね! ありがとう!」

 私は子供の頭をなでながら、「メリークリスマス」と一言だけ言い、ソリに乗る。

 お礼を言う三人を見て、ソリを走らす。


 走はしれソリよ 風かぜのように

 雪ゆきの中なかを軽かるくはやく

 笑わらい声ごえを雪ゆきにまけば

 明あかるい光ひかりの花はなになるよ

 ジングルベルジングルベル

 鈴すずがなる

 鈴すずのリズムに光ひかりの輪わが舞まう


 悪天候だった空は雪がチラチラと降ってくる。

 その夜空に鈴の音が響き渡る。

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