月と6センス(仮タイトル)

@oyasuminasare

0人目

 思えば小学校の時から、ずっと好きでもないことを延々やらされ続けた。弾いて吹いて叩いて泳いで飛んで投げてぶら下がって回って走って喋って踊って殴って殴られて打って打たれて追い抜いて追い抜かされて勉強して勉強して勉強して勉強して。

 

 苦労して入った中学も、高校も、大学も、虚しさと辛さとほんの少しの出自不明の焦燥感に苛まれ続けて、心の底から何かに突き動かされるということが今までの人生で一切なかったように思えてきて。  

 

 体も頭もせわしなく働いていたが、心はいつも空っぽだったように思う。


 大学という新たな環境の中、同類の生ける屍たちが次々と自分の色を見つけていく中で自分だけが変わらず鈍色のままだった。 


 これまでの人生の通り、苦労して入った会社はきっとキラキラした虹色のエリートとそれに交じる…しかし俺よりもよっぽど優秀な鈍色たちに囲まれて、劣等感に苛まれながらつまらない人生を変わらず歩んでいくんだと、そう思っていた。


…あの日、入社式へ向かう電車で死神を見るまでは。


 4月1日、環境は変われどもいつもと変わらない空っぽな心に自分で嫌気が差し、電車に揺られて絶望していたところ、初めて自分の中で希死観念というやつが臨界点に達しようとしているのを感じた。


 不思議なものだと自分でも思う。死にたくなることは今までの人生で何度もあったが、あれほどの感情は今まで抱いたことがなかった。就活中から少しずつ呼吸が苦しくなってくる感覚はあったがそれも度々これまでの人生の中であったことで、環境が変われば霧散していた。


 これは予想というか自己分析だが、受験や選抜というものを経験していく過程で自分より圧倒的に優れた人間を見つけるとこの感覚に襲われていたような気がする。


 そして、いざ終わってみると呆気なくパスして、周りの人間は自分より成績が低いものばかりに戻ったため安心していたのではないだろうか。


 何を安心していたのか当時の俺は。学生時代を勉強だけに費やす馬鹿がどこにいる。中学高校はまだしも大学には間違いなく学業よりも重視するべきものが多くあった。多少無理をしてでも新たなことをやってみるべきだったのだ。その一歩を踏み出せず、自分の殻に閉じこもり続けたことで、お前は眼の前のその光景を招いたのだ。


 頭から3つめの車両の端の端、角の座席に陣取る俺の前に死神が立っていた。


 気付いたら立っていたという表現が本当に正しい。天から舞い降りてきたわけでもなく、地から這い出てきたわけでもなく、ただそこに脈絡なく現れた。


 思わず悲鳴を上げようとして、急いであたりを見回そうとして、そのどちらも行動には移されなかった。


 その死神に見つめられた瞬間から、体が生きようとするのをやめていた。その事実に対しパニックに陥ってはいたが、それが死神の力によるものでないのは薄々感じ取っていた。


 実際のところは悲鳴を上げる気力も、あたりを見回すような余裕もその日の俺には残っていなかった。詰んだからこそ死神が終わらせにやってきてくれたのだと心の底ではわかっていた。


 だからきっと、その日本当に俺は死んでいたのだろう。あのアホらしい大きさの鎌に首を切られて死んだのだ。


 イタイやつがひとり死にました。おしまい。


 だからここから始まるのは本当の意味で生ける屍になった男の話。死神を侍り、常に死相を顔に貼り付けて、自分勝手の呪いを振りまく人でなしの物語だ。


 忘れもしないあのエイプリルフール

 

 結局、俺は正午の鐘がなるまでに5000人殺した。


 嘘みたいな話だが


 脈絡がなくて申し訳ない。


 心から謝罪する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る