6
島から帰ってきてから三日後、陽向は再び港に立っていた。八月下旬の風が頬に触れる。
街には、もっと一緒にいたい人がいる。こんな選択、間違っているかもしれない。
「あのさ、二人は帰っていいんだけど」
海を見て喜ぶ千宙と祐司にぼやくが、二人には聞こえていない。夏の青い海を見て、綺麗だとか広いとか感想を次々と口にしている。
「それで、どこに行ったらいいの?」
やっと千宙が振り向いた。彼女はバッグを肩に提げている。
「いや、できれば帰って欲しいんだけど」
「陽向、一人だけ遊びに行くつもりだろ」
「遊びじゃないって言ってるだろ」
祐司も軽口を叩いてくる。しっかり二人には説明したはずなのに、分かっていないようにしか見えない。
千宙と祐司には、暝島の妖やケガレについて、そして神志名のことまで全て語った。その上で、もう一度島に戻ると言ったのだ。すると何故か一緒に行くと言い張り、実際に駅までやってきて電車に乗り込んだ。
「本当に店はいいのか」
千宙に問いかけても、彼女は大丈夫と返事をする。
「千宙がいないと店が回らないんだろ」
「私がいても、赤字続きには変わりないんだから。早いか遅いかだけの違いだよ」
何が、とは言えなかった。彼女が見せた決意の表情には、とても口を挟むことなどできなかった。
踵を返して港を歩く。武藤の船は、見つかればきっとそれだと分かる。しかし彼が今日も港にいるとは限らない。港に船があっても、出航できないかもしれない。
だが、陽向の瞳は彼の姿を捉えた。いつもの場所に船があり、桟橋には武藤の姿があった。白く短い髪にキャップを被った浅黒い肌の老人。彼はこちらを見ると、「おう」と低い声を出した。
「さっさと来い、もう出るぞ」
その言葉が耳に届くと同時に、陽向は駆け出した。
「出るって、暝島に?」
「当たりめえだろ。他にどこに行くんだ」
そばで問いかけると、彼は言葉通り当然の顔をして言う。追いついた千宙と祐司は、武藤を見上げてそれぞれ名乗りぺこりと礼をした。
「客がいるとは、凪からは聞いてなかったんだが」
「凪? 凪が、船を出すように言ったってこと」
「ああ」武藤は難しい顔のままだが、この船頭は常にそんな表情だ。「あいつは分かってたぞ。おまえがまたあの島に行こうとするってな」
陽向は肺から大きく息を吐いた。凪には何もかもお見通しだ。だから武藤はここで準備をして待っていたのだ。
「ほら、行くぞ。うだうだしてると陽が暮れる」
武藤は船を指し示した。
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