第10話
晴海さんと森村さんの強い要望で、わたしたち&国枝先輩たちの計6人による突発的ボウリング大会が、急きょ開催されることになりました。
まぁ、“大会”と言ってもガチなものではなく、単にノリで決まっただけですし、そもそも此処へは遊びに来たのですから、別に構わないのですが……。
「はーい、じゃあみんな、
森村さんが、ボ●チの気質な人が聞いたら憤死しそうな台詞を、とてもイイ笑顔で宣告します。
(そもそも偶数の6人なんですから、余り者は出ないんですけどね)
自分がボッ●なつもりはありませんが、かと言って根っからの陽キャというわけでもないので、組み分けはなりゆきに任せようと思っていたところ。
「まず、恋人である陽光と私がペアになるのは当然として……」
「優勝狙いでいく以上、あたしと雪がコンビ組むのも決まりね!」
森村さんと晴海さんが、至極当然のような顔でそんな風に宣言されたため、わたしは先輩と組むことになりました。
(──いえ、わかりますよ? スポーツ万能の晴海さんと、筋力体力はやや不足気味でもやたら器用な雪さんに比べたら、わたしの運動能力なんて凡庸そのものですし、ボウリング経験もあまりありませんから。
森村さんにしたって、こういう時は相方に恋人を選ぶのが妥当でしょうし)
それでも、何となく腑に落ちない、何か「謀られた」感じはするのですが……。
「あはは、まぁ、いいじゃない。どうせお遊びなんだから、難しいことは考えずに楽しんだモン勝ちだよ?」
先輩のほんわかした笑顔を見ていると、ヘンに悩んでいるのがバカらしくなりました。
「そう、ですね──うん、切り替えます」
気を取り直して、ボウリング大会に臨むわたし。
ボーリング自体はペアプレイ時のオーソドックスな形式で、各フレームごとにペアを組んだどちらかが第一投、残りが第二投していく形になります。
他のペアでは、パワーのある晴海さんと立花さんが先に投げてストライクを狙い、それが失敗した場合は他の二人が残るピンを“掃除”してスペアを獲る方針のようです。
それに倣うなら、わたしたちも先輩が先に投げるべきなのでしょうが……。
「僕もストライクを狙える自信はないから、ここは手堅く最初からスペア狙いでいこう。朝日奈さんは、右か左にどちらかに寄せて投げてくれるかな? スプリットは厳しいけど、左右どちらかの残りなら、何とかなると思うから」
先輩は、あまりボウリングに自信がないわたしのことを気遣って、第一投を譲ってくださいました(二投目を任されたら、正直緊張してミス連発する気がしますし……)。
実際、この作戦自体はハマって、わたしが6~7本倒した残りのピンを先輩が巧く倒して、7フレーム目まで連続スペアになっています。
ただ──うん、相手が悪かったみたいですね。
立花森村ペアは、ストライクを3回とっているものの、残りはスペア3、8&G(ガーター)なので、まだ勝負になってるのですが……。
晴海さんと雪さんのコンビは、ストライク5回で、残る2回も着実にスペアとってるのですから、本当に手がつけられません。
結局、残る3フレーム、そしてもう1ゲームした結果も、ほぼそれまでと変わりなく、2位・3位に圧倒的な差をつけて、晴・雪ペアが優勝する形になりました。
* * *
2ゲームが終わったのち、ランチタイムですし身体を動かしてお腹も空いたということもあって、わたしたちは先輩たちと一緒に近くのファミレスに入ってお昼を食べることになりました。
「いやぁ、負けた負けた。ボウリングは久しぶりだったけど、調子は悪くなかったんだけどな!」
「鶴橋さんたちは何か体育系の部活をやってるのかな?」
注文して料理が来るまでのあいだ、4人掛けのテーブルに並んで掛けた立花さんと森村さんが、対面に座った晴海さんたちに話しかけています。
「正解……でも不正解でもないわね。あたしたちは、応援部に所属してるの♪」
「──いわゆる一般的な意味での“応援団”ではなく、他のクラブの助っ人やサポートに入る、人材派遣的な活動をしている」
なぜかドヤ顔の晴海さんの言葉を雪さんが補足します。
「察するに、鶴橋さんがスポーツ万能の代打選手、長津田さんが
森村さんに急に水を向けられて、わたしは一瞬言葉に詰まりました。
「えっと、そのぅ……皆さんのお手伝いというか雑用係というか……」
以前、
「恭子はね、料理とか裁縫とかが抜群に上手いの。いろいろ心配りもしてくれるしね!」
「──然り。朝日奈恭子は、私たちや他の応援部員の手の足りない部分を埋めてくれる、本当の意味での“サポーター”。いつも助かっている」
けれど、おふたりは、そんな私の自己卑下するような言葉を、すかさずフォローしてくれました。
(そんな風に思っててくださったなんて……)
普段は割とゴーイング・マイペースな晴海さんたちですが、“わたし”のこともちゃんと認めてくださってるんだ──そう思うと心が温かくなります。
(──て、アレ? 何かおかしいような)
一瞬なぜか違和感を感じたわたしでしたが……。
「へぇ~、朝日奈さん、お料理得意なんだ。手料理を作ってくれる女の子って、いいよね。男女差別って言われるかもしれないけど、ぼくは憧れるなぁ」
二人掛け席の向かいに座った先輩が、ニコニコしながらそんな言葉をかけてくださったので、些細な違和感なんて吹き飛んでしまいました。
「あ、あの、得意って言っても、プロの料理人とかパティシェだとかそういうレベルじゃ全然なくて、単に一般家庭の普通のご飯とかおやつが作れるってだけで……」
慌てて口から言い訳のような弁解のような言葉が飛び出します。
「いーじゃない。あたし、恭子の作るドーナツとかクッキー好きよ」
「──さば味噌煮や切干大根も絶品」
晴海さんたちの言葉はフォローになってるんでしょうか?
特に雪さんの方、せめて肉じゃがとかカレーって言ってくださいよ。そのメニューじゃあ、女の子の手料理というより“おふくろ”の味じゃないですか!
「あはは、むしろ“和食の作れる女子高生”はアピールポイントだと思うけど、どうかな逸樹くん?」
「ええ、ぼく的な好感度は大ですね。そういう子が恋人で、お弁当とか作ってくれたなら、友達に見せて自慢しまくりますよ」
からかうような森村さんの問い掛けにも、涼しい微笑で平然とそう答える先輩。
「も、もうっ、先輩まで……からかわないでください!(♪)」
その後、ランチを食べたあとも、この6人でカラオケに行って騒いだりして、その日はとても楽しい休日を過ごせたのでした。
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