第8話
翌日の朝ごはんの後、わたしが掃除当番(3人で毎朝交代にしているんです)として、窓を開けて自分達の部屋を掃除していると、窓の外から聞きおぼえのある声をかけられました。
「昨晩ぶりだね、おはよう、朝日奈さん」
振り返ると、すぐ外の道に予想通りと言うべきか、昨晩わたしを助けてくれた少年──国枝逸樹先輩が、ニコニコしながら立っています。
「! お、おはようございます、国枝先輩……」
昨夜は結局簡潔なお礼のメールを一本入れただけで、それ以上のことはできなかったのですが、まさか早速逢えるなんて……。
(ん? “それ以上のこと”って──直接電話してお礼を言うとか?)
でも、旅館に帰って落ち着いた時にはだいぶ遅い時間になってましたし、そんな遅くに、たいして親しくもない後輩から電話されるのは迷惑かもしれません。
だから、アレで良かったんだと思いましょう──いくら先輩ともっとお話してみたかったとしても。
(あれ、また……)
「お部屋の掃除? 朝早くから偉いね」
自分の内心に微妙な違和感を抱いたわたしですが、そんな風に国枝先輩に労われたので、慌てて首を横に振ります。
「いえ、単にハタキと掃除機かける程度ですから。国枝先輩こそ夏休み中なのにお早いですね」
「ぼくって、元からあんまり夜更かしできないタイプでさぁ。その分、自然と朝が早いんだ」
「意外……ではないですね。むしろ先輩が自堕落にしているトコロの方が、想像しづらいです」
国枝先輩とそんなとりとめもない雑談を交わしつつ、サボっていると思われるとイヤなので、その間もキチンと手を動かしていると、狭い部屋なんて数分も経たずに掃除し終わってしまいました。
「あ……先輩、掃除が済んだので……」
「ああ、別の用事があるんだね? それじゃあ、ぼくもいくよ。またね!」
爽やかな笑顔を見せて、国枝先輩は喜多楼の斜め向かいにあるお土産屋さんに入っていきます。
うれしい偶然と言うべきか、国枝先輩が遊びに来て泊っている親戚の家って、まさに其処のお店なんだとか。
(うれしい……? うん、恩人の先輩と会うチャンスが多いことを喜んだって、別におかしくはないですよね)
またしても、何か引っ掛かるもの(と言っても悪い予感とかじゃなく、むしろ逆なのですが)を一瞬感じつつ、わたしも晴海さんたちと合流すべく、旅館のロビーへ向かいました。
「なるほど……」
その時、たまたま晴海さんが席を外していたので、由紀さんにさっきのコトを話すと、難しい顔をしてちょっと黙り込んでしまわれました。
「(「それは“変”ね!」とか言ってボケるのは当然無し。でも、そのまま「“恋”ね」と告げるのも時期尚早。ふたりにはもっと思いを熟成させてほしい──BL好き的な視点から♪)
特に問題ないと思う。昨晩の出来事からして、アナタが国枝逸樹に好感を抱くのは、むしろ当然の話」
熟考(?)の末、雪さんはそう断言されます。
「で、ですよね──そ、それはともかく、晴海さんは?」
「あたしなら此処よ!」
「きゃあ!」
唐突に真後ろから声をかけられて、思わずヘンな悲鳴を漏らしてしまいました。
「お、いいわね。やっぱり美少女の悲鳴は「きゃあ」に限るわ! 恭子もだいぶその辺りの機微が分かってきたみたいね♪」
──ええ、まぁ、こういう人だとは知ってましたけどね。
「ま、恭子をからかうのはこの辺にするとして──今日は、三人で猪狩沢メインストリートに
「──賛成。お土産を買うには早いが下見はしておきたいし、他にも此方でしか買えないものがあれば、購入するのも悪くない」
晴海さんの言葉に、雪さんは間髪を入れず賛同されます。
わたしとしても、いつもの晴海さんの(突拍子もない)行動案からすれば、まだしも穏当なので、賛成したいところなのですが。
「でも、わたし、お買い物するには資金面でちょっと不安が……」
一応、(本物の)朝日奈恭子の財布を持たされてはいますが、必要最低限以外のものをココから購入するのは、さすがに気が引けます。
「問題ないわ! 女将さんから、分割払いにしてもらって今週分のお給料を貰ってきたから──ほら、これが雪のでコッチが恭子の分よ」
そう言って、晴海さんは白封筒に入った現金を手渡してきました。
「ソレは、「アンタが働いて得たお金」なんだから、誰にも遠慮する必要はないのよ?」
「!」
どうやら晴海さんには
「あ、ありがとうございます。それなら存分に使わせてもらいますね」
「フフッ、いいのよ──それじゃあ、恭子も異論はなさそうだから、猪狩沢メインストリートへLET’S GO!」
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