第35話 ダンジョン料理をご賞味あれ

 今日も放課後にダンジョンに来ている。

 そしていつものローテーションをいつものようにこなしてるよ。

 薬草とマナの輝石をゲットして、ポーションをクリエイトする。そしてポーションができあがる頃を見計らって広場に戻り、リルリルさんの露店でできたてほやほやのポーションを売る。このローテーションだ。


「あれ? 紗雪さん今日はもうお疲れですか?」

「いえ……、ちょっとお腹が空いちゃっただけです……」

「あらら、成長期ですもんねー」


 まさか表情に出ていたとは。げっそりでもしていたんだろうか。まだローテーションの1周目を終えただけなんだけどな……。


「ダンジョンフォークのみなさんも十代って成長期なんですか?」

「はいー。だいたい地球人さんと同じみたいですよ」

「そうだったんですねー」


 リルリルさんがリュックをごそごそしている。でも、がっかり顔になった。


「何も食べる物がないですねー」

「ああ、大丈夫です。腹ペコで動けないとかじゃないですし」


「大人っていうのは、若者がお腹を空かせているとどうしても何かあげたくなってしまうものなんですよ」

「リルリルさんはいい人ですね」

「大人はみんなそういうものですよ」


 ダンジョンフォークはいい人が多いんだろうね、きっと。


「私って筋肉がついたんでしょうか」

「筋肉? とてもスリムで可愛らしい体型ですが」

「筋肉がたくさんつくと必要カロリーが増えて、お腹が減りやすくなるのかなって」


「なるほど。可能性は大いにありそうですね」

「あんまり筋肉モリモリにはなりたくないですけどね」

「それはそれで可愛いですけどね」


 ふわ~んと、私の鼻に料理の香りが漂ってきた。これはなんだろう。誰かが近くで料理をしている? いや、そういうわけじゃなさそうだ。このあたりにはリルリルさんのと同じような露店があるだけだから。


「何かいい香りがしません?」

 鼻をクンクンする。


「いい香り? あ、そうか。食べ物を買うって手があるじゃないですか」

「売ってるお店があるんですか?」

「はい。料理を出すダンジョンフォークがいますから」


 なんと。この近くなんだろうか。


「彼らは気を使ってあっちの方の、こことは真逆のあたりでお店を出していますよ。商品に匂いがついたりしないようにしてくれているんです」


 私は振り返った。リルリルさんの教えてくれた方を見る。

 そこにはたしかに料理をしているダンジョンフォークがいるように見えた。かなり距離が離れているね。


「私、あっちの方には行ったことがなかったです」

「美味しい料理がきっといっぱいありますよ。自分で素材を持ち込めば、その場ですぐに調理してくれたりもします」

「素材?」


「ダンジョンに出てくるモンスターのお肉とか植物の実なんかですね」

「え、モンスターのお肉? なんでもいいんですか?」

「いえ、食べられるもの限定ですね。しかも、解体をしておかないとダメです」

「〈解体〉スキルはないです……」


 ちなみに地球の食材でも料理してくれるんだそうだ。どんなのができるのかは分からないらしいけどね。


「ちょっと行ってみようかな」

「ダンジョンフォーク料理は美味しいですよ。パワーが出るような美味しさです」


 よし、行ってみよう。というかもう足が勝手に料理店の方にふらふらーっと動きはじめてる。それだけ私は空腹を感じているみたい。


「リルリルさん、いってきます。あとでまた寄りますねー」

「はいー。いってらっしゃいー」


 てくてく歩いて行く。美味しそうな香りに誘われるがままだ。

 3分くらい歩いたかな。ずっと見えてたけど距離があるからなかなかたどり着かなかった。

 来てみればたくさんのお腹を空かせた学生たちがいた。みんな成長期だし、放課後はやっぱりお腹が空くみたいだ。私だけじゃなくてちょっと安心したよ。


 ざーっとお店を見てみる。

 串焼き屋さん、ケバブ屋さん、サンドイッチ屋さん、煮込み料理屋さん、定食屋さんに、甘いもの屋さん。他にもいろいろなお店が出ていた。雰囲気はお祭りのときの屋台って感じかな。


「こんなにたくさんのお店があったんだ」


 今までぜんぜん興味を持たなかったことをちょっと後悔した。この場所ってどの通路にも近くないし、意識しないと絶対に来ることはないんだよね。


「んー、どれも美味しそうだ」


 お値段もいい感じだし目移りしちゃう。

 花の女子高生としては甘いもの系で攻めたいところだけど……。今日はまだまだダンジョンを楽しみたいし、ここはお腹にたまってパワーがみなぎりそうな串焼きにしようかなって思う。

 ふらふらーっと串焼き屋さんに近づいていく。お肉が焼かれている香りは空腹には特にたまらないね。


「いらっしゃーい」


 ふくよかなダンジョンフォークの女性が串焼きを焼いていた。

 お肉から肉汁がたれて火に落ちて、じゅわーっと音を立てている。それがまた美味しそうだった。


「お嬢ちゃん、初めてかいー?」

「あ、はい」

「うちの串焼きは体力と攻撃力がアップするのばかりだよ。これからダンジョン攻略をするのなら特におすすめさ」


「え、攻撃力?」

「あれ、知らなかったのかい? ダンジョンフォークの料理は食べると一時的にステータスが上がるのが多いんだよ。特にモンスターの肉とか魚とかは効果が大きいね」


 へえー、ステータスアップ効果があるなんてゲームみたい。お腹を満たせるだけでも嬉しいのにそれはお得だね。


「串焼きを食べたいんですけど。えーと……」


 私はメニューをチェックしたり、ちょうど焼かれているお肉を見たりした。なんか一本で晩ご飯のおかずになりそうな大きいお肉だった。


「初めてならこの串焼きはどうだい?」

 店員さんがちょうど焼き上がったのを手に取った。

「鶏肉の串焼きだよ。クセがなくてぷりぷりで美味しいよ。うちの一番人気だね」

「美味しそう。それでお願いします」

 メニューとかを見てもまったく分からないし、一番人気なら問題ないと思う。ネギみたいな野菜がついてるのもヘルシーでよさそうだ。


「あいよ。まいどありー」


 お金と串焼きのやりとりをした。焼き鳥をでっかくしたような豪快な串焼きだった。

 串は次にダンジョンに来たときにでも回収ボックスに入れてくれたら嬉しいって。金属製だもんね。あとで返しにこようと思う。


 少し歩いて行く。あ、椅子とテーブルがたくさん並んでいるところがある。みんなそこで食べてるんだね。私もそこで食べようっと。私はみんなと違ってぼっちだけど……。いや、考えるまい。それは考えたらダメなことなんだ。


 隅っこの方に遠慮がちに私は座った。

 口をあーんと開けてぱくりとお肉を食べてみた。


「あ、味付けしてるんだ。香辛料がいい感じだ。あと、噛むと肉汁がじゅわーっと出てきて、お肉はぷりぷっりで甘くて、食べるとパワーがすごくみなぎってくるようで……、わあ……、これ……これ……、これ、すっごく美味しいー!」

 肉を食べる。野菜を食べる。肉を食べる。野菜を食べる。そして、肉を食べる。


「うわー、美味しかった~!」

 意味もなくバンザイしてしまった。キャンプでバーベキューをしたときくらい美味しかった。いや、それ以上かも。


「美味しすぎて力が溢れてくる感じがする。すぐに冒険に行きたい気分だよ」


 ステータスを確認した。うわ、HPと攻撃力が10%もアップしてる。持続時間は3時間だって。もの凄くいいじゃん。

 ……。……。……私はひらめいた。


「これ、レッドゾーンに行っても大丈夫かも」

 ステータスが上がってるし、レベルだって44だからじゅうぶん高いし。

「よし、行こう」


 私は覚悟を決めた。

 とりあえず美味しかったですと串を返す。お店の人はすごく嬉しそうにしてくれた。また行こうと思う。

 そして私はクエストの石版がある広場中央奥へと向かった。



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