第33話 空き瓶ゲットクエストを終えて
広場に帰ってきた。いろいろなことがあったからすっかりへとへとだ。
「リルリルさん、ただいまー」
リルリルさんは優しい笑顔で迎えてくれた。
「紗雪さん、おかえりなさいー。あれ、また服が燃えてしまったんですか?」
「今回はびしょ濡れになってしまいまして」
上下ジャージ姿で髪は後頭部でまとめている。クエストに行く前とはぜんぜん違う格好になってるし心配されちゃうよね。
「なるほど。小川での戦いでしたもんね」
「はい。水の中に落とされて死ぬかと思いましたよ」
「それでも勝ち切ったんですよね。凄すぎです。紗雪さんはとってもたくましくなってきましたね」
「そうなんですかねー」
リルリルさんが、リュックの横に紐でくくりつけてあったカンテラを手に取った。屋根みたいなのがついていて、とてもおしゃれなカンテラだ。
蓋を開けてリルリルさんが指先を近づける。
するとポッとカンテラに火が点いた。どんどん火が強くなってカンテラの中が明るくなっていく。
リルリルさんが蓋を閉めてカンテラを置いた。
「火の隣で少し温まっていきませんか? 唇の色が少し青くなってますよ」
リルリルさんが自分の隣をポンポンとした。
実はけっこう寒くなってきてたんだよね。髪はまだ濡れてるし、身体だってちゃんと拭いたわけじゃないから。
だから火があるのは本当に助かる。ありがたく温まらせてもらおうと思う。
私はリルリルさんにお礼を言って隣に座らせてもらった。
両手をカンテラに近づける。
「わあ、温かいです」
ぽかぽかする。身体の芯からぬくぬくになっていく気分だ。
「ところでリルリルさん、さっきどうやってカンテラに火を点けたんですか? 指を近づけただけでしたよね」
「あれは魔法ですよ。火の魔法です」
「あれが魔法――」
「はい。便利ですよ。紗雪さんも覚えてみてはいかがですか。ダンジョンの冒険を続けていくと、いずれ必ず火は必要になってきますし」
リルリルさんが指先を上に向けた。するとマッチの火みたいなのがポッと出た。手品みたいだ。魔法って凄い。
「魔法以外でも焚き火くらいの火起こしができるスキルがあるんですよ。それを習得するのも一つの手ですよ。そのスキルはとても便利でして、スキルレベルを上げていくことで、なんと薪を用意せずにまるで焚き火のごとく火を燃やし続けることができちゃうんです」
焚き火なのに薪がいらないって凄すぎるね。習得したらダンジョン内での野営にいいかも。あるいは
「でも、習得にはスキルポイントがいるんですよね?」
「残念ながらスキルも魔法も習得にはスキルポイントが必要で……。あ、そうでもありませんでした」
「え?」
「たまーにクエストの報酬に魔法書が出ることがあるんですよ」
「魔法書?」
「使用するとスキルポイントを使わずに魔法を習得することができるものです」
「え、それって凄く良いじゃないですか」
「ただ、本当に珍しいですよ」
「いつかチャンスがあればそのクエストに挑戦してみます。ちなみにスキルについても、スキルポイントを使わずに習得できることってあるんですか?」
「はい。たとえば――」
あ、お客さんが来ちゃった。女子学生だ。
「「いらっしゃいませー」」
リルリルさんの隣にいるし、私もついつい「いらっしゃいませ」を言っちゃった。
ポーションを買ってくれるらしい。私がリルリルさんに売ったポーションだ。誰かが買うところを初めて見たよ。
凄く嬉しいな。私のスキルが誰かの役に立っていたことが本当に嬉しかった。
△
う……。恥ずかしい……。
ダンジョン内では我慢できる範囲だったけど、外を歩くときはとんでもなく恥ずかしかった。
花の女子高生なのに上下ジャージ姿で帰るなんて……。
しかも、下着をつけていないっていうね……。
ジャージと肌の間にある空間が気になって気になってしょうがなかった。なんとも防御力が低いような恥ずかしすぎるようなそんなむずがゆい感じ。
あと、男性の視線がすごく気になってしまった。
どこか透けてないかなとか、チャックが開きすぎてないかなとか心配でたまらなかった。
こんなに恥ずかしいのは人生でなかなかないよ。
電車の窓に映り込む自分を見る。胸元を特にチェックした。
「大丈夫」
なにも際どいところは見えてない。ただの地味なジャージ姿の女子高生だ。
でも、やっぱり恥ずかしい。電車を降りると私は足早に家路を急ぐのだった。
家に帰るとすぐにお風呂を沸かして入った。髪と身体を丁寧に洗って湯船につかる。
「あー、やっと落ち着いたー」
今日はいろいろと大変だったな。でも楽しかった。
初めての水辺でのバトルだったし水中戦もあったし、ちゃんと一人でザリガニを倒せたのは嬉しかったし。しかも、念願の空き瓶をゲットできたのは本当に良かったよ。
「むふふ。これからはポーションを3個同時に作成できるんだね。経験値がよりたくさん入るからレベルアップが早くなるし、収入も増える。いいことだらけだ」
自然と笑みがこぼれてしまう。
あー、ぬくいー。お風呂大好きー。
「そうだ。他の人はあのザリガニをどう倒してるんだろう」
ワイルドクレイフィッシュだっけ。ちょっと調べてみようか。防水用のケースに入れてあるスマホを手に持った。
えーと……、スマホを操作してダンジョンの攻略ページを開く。
「あったあった。ワイルドクレイフィッシュの攻略ページ」
それによると、ワイルドクレイフィッシュは水の中にいると変色するって特徴があるらしい。そのせいでよほど注意深く観察しないと姿が見えないんだそうだ。
「それでかー。私、ぜんぜんザリガニを見つけられなかったんだよね」
変色して水と同じような色になってたから見つけられなかったし、いつのまにか後ろをとられていたわけだね。
「倒すときは複数人で挑むことを推奨。一人がガードをガチガチにして囮になり、ザリガニが攻撃しかけてきたら残りのメンバーで袋叩きにするべし」
えー。囮になる人が可哀想。でも、合理的だし効率が良さそうだ。
「見た目のわりに案外やわいから、武器さえまともなのがあれば攻略推奨レベルに届いていなくてもわりと倒せる。ただ、ハサミの力が強いから絶対に挟まれないように気をつけること。それと水中での動きがやたら速いから、できれば陸におびきよせてから戦うこと。みんなの健闘を祈っている。そうそう、あいつ、食ってみたらやたら美味かったぞ。ダンジョン神が食べたがるだけのことはあった」
へえー。食べてみたんだ。
「そんなに美味しかったのなら、私も食べてみたいかも」
でも、どうやって料理するんだろう。あんなに大きいザリガニを入れる鍋もフライパンもないよね。
モンスターのグルメサイトとかあるのかな。ありそうだな。探してみようっと。
探しだしたら面白くてたまらなかった。楽しくて楽しくてお風呂に1時間以上もつかってしまった。皮がすっかりふやふやになってしまったよ。
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