第6話 〈ポーションクリエイト〉はハズレスキルじゃない
リルリルさんは言う。〈ポーションクリエイト〉はハズレスキルではないと。
「では、本題の〈ポーションクリエイト〉についてお話しましょう」
「ハズレスキルではないんですか?」
リルリルさんが頷いた。
「はい。クリエイトするものがたとえば毒消しとか、あるいはポーションよりも上位の回復アイテムだったらハズレに近かったかもしれません」
私は首を傾げた。
「毒消しはなんとなく分かりますけど」
「毒消しは使うシーンが限定的ですもんね。毒を消す以上のことはできませんから」
「ですよね。でも、ポーションより上位の回復アイテムを作るスキルもハズレなんですよね。いったいなんでハズレなんですか?」
「理由はいくつかありますが、作るための素材を入手するのがとても難しいことと、スキルレベルを上げるのが困難なことが主な理由になるでしょうか」
「つまり、ポーションは簡単に作れてスキルレベルが簡単に上がるということですか?」
「はい。あと、私たち商人としましても、ポーションは仕入れても仕入れても在庫がすぐにはけてしまいますので――」
ピクッ。私の身体が分かりやすい反応を見せてしまった。ちょっとはしたないかもしれない。でもついつい目を輝かせてしまう。
「つまり、作れば作るだけどんどん売れるということですか?」
「はい。そういうことです」
下心丸出しでにやりとしてしまった。
リルリルさんもにやりとしてくれた。商売人が良い儲け話をするときのにやりだった。見た目は可愛いらしい子供みたいな種族の人だけど、しっかり商売人なんだね。
「なるほど。私、〈ポーションクリエイト〉が当たりスキルに思えてきました」
お金は大事だ。私は女子高生だからお金がぜんぜんないし、お金を稼げるのは良いモチベーションになるよ。ダンジョンに来た理由の一つがお小遣い稼ぎっていうのもあるし。
「そうでしょう。しばらくは得た経験値を〈ポーションクリエイト〉のスキルレベル上昇につぎ込むのがいいと思いますよ。性能の良いポーションの方が買値は上がりますし」
ちなみに、ダンジョンフォークの里でもポーションは作られているんだって。でも生産ペースは遅いらしくて、スキル持ちの人が作ってくれると凄くありがたいんだそうだ。
「というわけで、私ども商人は、〈ポーションクリエイト〉をお持ちの冒険者様とぜひビジネスパートナーになりたいと思っておりまして。喉から手が出るほど〈ポーションクリエイト〉をお持ちの冒険者様をお探していたのですよ」
「私がなりますよ。そのビジネスパートナーに」
「話が早いですね」
がしっと二人で握手をした。書面は何もないけど、これで私たちの商売契約は成立だ。
「ポーションができたらリルリルさんに優先してお売りしますね」
「そうしてもらえるとありがたいです」
いろいろと話をしている間に30分が経過したようだ。
私の視界の邪魔にならないところにメッセージウインドウがポップした。スキル〈ポーションクリエイト〉によってポーションの作成が完了したらしい。そして――。
『レベルアップしました。ステータスポイントが上昇し、スキルポイントを獲得しました』
「え――」
「どうかされました?」
「ポーションの作成が完了したら、なぜかレベルが上がったんですけど」
「ああ、そういうものですよ。クリエイトの系のスキルはクリエイト完了で経験値がたくさん入るんです。モンスターを倒すのが苦手な人にはとっても嬉しいスキルなんですよ」
「それは私に凄く向いているスキルですね」
「はい。よろしければ、先程ご説明したように、得たスキルポイントで〈ポーションクリエイト〉のスキルレベルを上げて頂けると嬉しいです。ポーションの性能が上がることで、お客様からのポーションの需要が上昇しますので」
初期のポーションだと回復量が心もとないらしい。だから少しレベルの高い冒険者になると回復量の高いポーションが欲しくなるんだって。
私はさっそくスキルポイントで〈ポーションクリエイト〉のレベルを2に上げた。次のクリエイト時からポーションの回復量が+10されるらしい。元々の回復量が10で+10されると20回復するようになる。けっこうな上げ幅だね。
「リルリルさん、できたポーションを売ってみたいんですけどいいですか?」
「はい。喜んで買い取らせて頂きますよ」
アイテム空間からポーションの入った瓶を取り出した。
「では、買い取り価格は250ポンになります」
「ポン?」
「ダンジョン内の共通通貨のことです。ポンっていうんですよ。今のレートですと1ポンが1円ですので、日本円で250円ですね。ダンジョンの入り口の広場に換金所がありますので、そちらで日本円に替えてください」
「分かりました」
「では、売買成立ということで」
リルリルさんの方にもステータス画面的なものがあるんだね。慣れた手際で操作すると、私の持つ瓶の中に入っていたポーションが消えた。そして、リルリルさんの持っている空き瓶の方に私のポーションが移動したようだ。あ、私の所持金が250ポンになったよ。
人生初体験の商売だ。
なんだか気持ちがいい。私、商売って向いているのかもしれないな。
「それでは紗雪さん、またポーションができましたときにはよろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします。あ、リルリルさんはお店とかあるんですか? どうやったら会えるんでしょうか?」
「ダンジョンの入口の広場にいらしてください。毎日露店を開いておりますので」
「分かりました。では、また明日……。いえ、後ほどうかがいますね」
まだ薬草とマナの輝石は残っている。だからこれからまたポーションを作ろうと思う。
「お待ちしております」
手を振って別れた。
リルリルさん、良い人だったな。これから仲良くなりたいって思った。
私、ダンジョンで上手くやっていけそうだ。〈ポーションクリエイト〉はハズレスキルじゃなかったんだね。私にちょうどいいスキルだったのが分かって本当に嬉しかった。
ステータス
■レベル2
・HP 22
・攻撃 1
・防御 2
・敏捷 2
・魔法 1
・技術 2
■スキル
〈ポーションクリエイト〉 レベル2
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