女子高生のダンジョンライフ ~ポーション作りはとっても楽しいです~
天坂つばさ
第1話 ハズレスキル
「ごっめーん。あんたやっぱりパーティーにいらないや」
一緒にダンジョンに来た女子たちが高い声でキャハハーと笑い出した。
そして信じられないくらいにバカにされてしまった。
もう誰も私の目を見てはくれず、なんやかやと盛り上がりながら適当な言い訳をたくさん聞かされて――。
「ということで、じゃあねー」
ひどくバカにした顔で私に手を振ってきた。
「あ、そうそう。ここってダンジョン内でも特にやばいモンスターがいる危険地帯だから、ちゃんと気をつけて帰ってね。じゃないとマジで死ぬから。キャハハハハ」
それ酷くねーってゲラゲラ笑われてしまう。
そして私を置き去りにして友人たちは去ってしまった。
……いや、もう友人じゃないかな。知り合い……かな。いや、もっと下にしないとだ。同じクラスにいる名前だけ知っているイヤな人たち、くらいに格下げだね。
私、あっという間に一人ぼっちになってしまった。
「はあーあ……、高校でこそは友達を作ろうって決めてたのにな……」
私、
ぼっちってね、本当にいるんだよ。なんでかは分からないけど本当に友達ができないの。
まあ、私は表情が暗いからね。しょうがないところはあるかもしれない。
容姿だけならそう悪くはないと思うんだけどなー。なにせ大人たちがうらやむキラキラ美肌に、シャンプーのCMに出られそうな真っ黒なツヤツヤ髪だからね。
ただ、表情が暗いのがすべてを台無しにしている。
瞳なんてどう見てもハイライトが少なくて黒ばっかりなんだよね。普通の女の子みたいに輝く瞳じゃないんだ。
そんなだから夜道で会うとどうしても幽霊にしか見えないらしい。親族にすらそう言われるし、私としてもそう思うし。
「小学校の卒業写真とか心霊写真にしか見えなかったなー……」
あはは……。あはははは……。自虐的に笑ってしまう。
卒業写真でクラスメイトのなかに一人だけ幽霊がいると思ったら、自分の顔だったっていうね。
みんなの思い出の大事な写真を心霊写真みたいにしてしまった。とても苦い思い出だ。
「はあーあ……。高校でもぼっちかー……」
私はなんとなく空を見上げた。空って言っても茶色い土ばっかりの天井なんだけどね。
だって、ここはダンジョンだから。
ちなみに神奈川県内にあるダンジョンだ。
半年くらい前に唐突にできたんだよね。私の通う高校にすごく近くて、帰りに寄っていくのにちょうどいい場所にある。
今の時代、ダンジョンが唐突にできることは世界規模でよくあって、みんな思い思いに冒険をしているんだよね。
命の危険はあるけどそういうのは自己責任。うまくいけば億万長者になれるかもしれない。もちろんゲーム感覚で楽しむのもOKだ。
そんなダンジョンに、私は今日、初めて足を踏み入れたんだ。同じクラスの女子たちと一緒だった。さっき笑いながら私を置き去りにした人たちだね。
ダンジョンに足を踏み入れると1時間くらいでステータスを見ることができるようになるんだけど、そのときに自分の初期スキルが判明して――。
「私のスキルは〈ポーションクリエイト〉。かなり珍しいけど、ハズレスキルに分類されてしまうスキルだった……」
ポーションは普通に買えるからわざわざスキルで作る必要がないんだよね。しかもポーションって一番しょぼい回復アイテムだから回復量が少ないんだ。微妙なスキルって言われてもしょうがないよね。
がっかりだよね。
まあでも、当面の問題はそこじゃない。
「当面の問題は――。はたしてこんな危ない場所から私はいったいどうやって一人で帰るかってこと」
なんかね、突き当りの壁から二足歩行の大きなカエルが右半身を出してるんだよね。その目はジッと私を見つめていたりする。
あいつ絶対に私を食べる気だ。
なんとかしないといけない。
ササッと現状を確認する。私に武器はない。防具はブレザーの制服だけ。革靴はピカピカで履き慣れていないから実は絶賛靴ずれ中だ。教科書がたっぷり入っているカバンは重りにしかならない。
絶望ってこういうことを言うんだろうね……。本当にどうやって生きて帰ればいいんだろうね……。
「ふう……」
カエルと目が合う。カエルが私を見ながら、あいつ美味しそうだなって考えているのがなんとなく伝わってきた。
まあ、ダッシュするしかないよね。たとえ足の速さにも持久力にも自信がなくてもさ。
というわけで、私こと千湯咲紗雪、走ります。
「ふおおおおおおおおおおっ、食べられてたまるかーーーーーーーーーっ」
「ゲコッ!」
エサが逃げたと言わんばかりにカエルがショックを受けた顔になっていた。
しぶとく、しぶとく生き残ってみせる。
「絶対に、絶対に生きてやるんだからーーーーーーーーーーーーっ」
こうして、私、千湯咲紗雪のダンジョンライフが始まった。
ちなみに次の日、全身が筋肉痛になって動けなくなったから学校をお休みした。そうしたら、私を見捨てた冷たい女子たちは私が死んだと思って一様に青ざめたんだそうな。「あいつが勝手に一人で帰ったんだ」と口を揃えて言っていたらしい。
そんなつまらい言い訳を人づてに聞いて、私はその人たちを「同じクラスの名前だけ知っている人たち」から、「同じクラスの名前すら知らない冷たい人たち」へと格下げしたのだった。
△
「さて、私は再びダンジョンに来たよ」
高校から徒歩3分の広場にできているダンジョンだ。
もう筋肉痛は完全に癒えた。心配することは何もない。
相変わらず制服姿だけど、動きやすさを考えてリュックに変えたし教科書はぜんぶ学校に置いてあるから軽いよ。靴は体育のときのシューズだ。
「つまり、私の装備は完璧だ」
にやーりと笑んだ。
周囲の人たちが私を見てビクッとする。幽霊が笑ったみたいに見えたのかもね。フフフフフ。
「これからお小遣い稼ぎをしようかなって」
アルバイトとかイヤだし。スキル〈ポーションクリエイト〉でポーションを作って売ればお小遣いくらいにはなるかなって思ったんだよね。
「これで私も今どきの女子高生だろうか」
世界的なダンジョンブームだから女子高生の多くが気軽にダンジョン通いをしている。私もそんな今どきの女子高生の一員になれてるはず。
「はあ、できれば友達と来たかったけどなー」
ああ、暗くなりそうだ。友達のことは考えたらいけない。
目の前には茶色い土で覆われたダンジョンがある。ダンジョンのことを考えよう。元気を出して、いざ、行かん。
「たくさんお小遣いを稼ぐのと、友達をゲットすること、それを目標にやっていこう」
私はサメの形をしたリュックのストラップに両手を当てた。そして、たったったと小走りでダンジョン内へと前進を始めた。
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