冒険記
伊島カステラ
第1話
「ああ……、よくぞ生きて……よくぞ世界を救って戻ってきてくれました」
俺の目の前の初老の男性――……この国の王様は、涙を流していた。
「あー……まあ、一応【勇者】だしな」
そう。
俺は勇者なのだ。
そして、勇者としての使命である『魔王討伐』を達成して、故郷であるこの国に戻ってきたのだ。
「しかし……その、なんだ。だいぶ容姿がお変わりになりましたな……」
「あー、確かにそうだな」
泥だらけだし、血の痕だらけだし、髭は生えっぱだし、痩せたし……。
「……ところで、その他の……勇者パーティの皆様は?」
「え?ああ……」
俺には仲間もいた。
『戦士』に『魔導士』に『僧侶』
ありきたりなThe・勇者パーティだ。
だが、今この王宮にいるのは俺一人なのだ。
「あいつらは、死んだ。かつての勇者パーティで生きてるのは俺だけだ」
「え……?そんな……。何故……?」
「じゃあ、その辺も含めて俺たちの旅の話をしようかな」
◆
「やっぱ、人間の作った料理ってのは美味いなぁ……」
「もう、勇者様。はしたないですわよ」
姫様が少し咎めてくる。
「許してくれ。腹減ってるんだよ」
「では、コチラの品もいかがですか?美味しゅうございますわよ」
「ほーん。じゃ、いただこうかな」
俺は姫様が差し出してきた品を頬張る。
たしかに、美味い。
「も~、そんなに急いで食べると、詰まりますわよ?」
そう言って姫様は笑う。
あの日見た時と、同じ笑顔だ。
「勇者どの、そろそろ旅のお話を聞かせていただけませんかね?」
「あーそうだった。忘れてたわ」
俺は飯を食べる手を止めて、壇上へと移動する。
「んんっ。えーっと、勇者です」
自己紹介をすると、ざわざわとし始める。
「うーんと……どっから話そうか……。じゃあ、まずは……」
俺は記憶を掘り起こしながら、ゆっくりと話し出すのだった。
◆
「皆さん。皆さんの目の前には今、何がありますか?……そうですね。食べ物です。美味しい美味しい食べ物がありますね」
「勇者どの……、それは一体何の話ですか?」
国王様が口をはさんでくる。
「何って……飯の話だけど?」
「できたら、冒険のお話を……」
「冒険において、食事は最重要項目だぞ」
「す、すみません」
「さて、話に戻ります。まあ、この美味しい料理。俺も、久しぶりの料理をとても堪能させてもらいましたよ」
「久しぶりの料理……?それって……?」
今度は姫様が不思議そうな顔をする。
「そのままの意味だよ。久しぶりに料理を食べた。それだけ」
「じゃあ、普段は何を?」
「うーんとねぇ……。その辺の草とか、虫とかかな?あと、たまーに動物の腐乱死肉とか」
またも、少しざわつく。
「国王様、そんなものばかりを食べていたら、人間ってどうなっていくと思う?」
「……弱っていく……ですか?」
「大正解。じゃあ、弱っていったら最終的にはどうなると思う?」
「……死んでしまう……ですか……?」
おそるおそるといった様子で、国王様が答える。
「そうだね。それだよ」
「それ……?」
「弱っていたんだ。ロクに食べるものもないこの環境で、苦しみながら弱っていった」
そう。
弱っていったんだ。
そして……。
その先に待っているのは……。
「その日もな、ロクに食べることもできずに眠ったんだ。そして目を覚ましたら……」
悲しい気持ちが蘇ってくるが、いたって冷静だ。
「死んでたんだよ。『魔導士』は」
忘れない。
頬もこけて、骨が浮いて見えるほどにやせ細って冷たくなった魔導士の姿を。
「これが、勇者パーティにいた『魔導士』の’’終わり’’だ。意外にあっけないものだろう?強い魔物と戦って、英雄的に死んだワケじゃないんだ。ウケるよな」
「ウケるって……。なんなんですか!?仲間が死んでいるんですよ!?」
姫様が激昂しながら近付いてくる。
確か、姫様と魔導士は仲が良かったんだっけか?
そりゃ、キレるわな。
「あーあー。そういうの後ででいいから。黙って聞いててな」
俺が制止すると、渋々といった様子で姫様が自席に戻った。
「うーん……。じゃあ、次は『僧侶』についての話でもするか」
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