モンスター剥製師アリー
かなぐるい
第一章 剥製師アリーと逃亡者カイン
第1話 剥製師アリー
深い森の中、木々を分け入って駆け抜ける若い男が一人。そして、それを追う複数の兵士の姿があった。
ここは王国の西側、モンスターの跋扈する森が広がる場所。よく知る者たちからは「森林型ダンジョン」もしくは「アリーの庭」と呼ばれる。
追われる男もここがダンジョンであることは知っていた。危険と隣り合わせの場所であることは承知の上で、それでも足を踏み入れたのだ。
どうせ捕まれば処刑されてしまう。だったら何が何でも逃げ切ってみせる。
男はそれだけを考えて必死に逃げた。脳裏には王国の中央広場で処刑された両親の姿がまざまざとこびり付いていた。
兵士たちは複数人とはいえダンジョンへ入ることに
しかし、生き残るにはまだ足りない。ダンジョンから抜け出して一息つける場所まで行かなければ逃げ切ったとは到底言えないだろう。
男が当てもなく
ダンジョンの中に洋館があるだなんて聞いたこともない。男は
もしかしたら、本当に領主の別荘かもしれない。ダンジョンの奥という立地に疑問は残るが、それでも早く決断しなければいけない。というのも、陽が沈み始めていたからだ。このままだとすぐに夜が来てしまう。暗闇の中、モンスターに襲われでもしたら終わりだ。
男は意を決して洋館の中へ入った。中はうす暗く、火も
入ってすぐに手持ち燭台と使いかけのロウソクを見つけた。明かりも確保、これで夜になっても安心だろう。
それから男は恐る恐る慎重に洋館内を進み始めた。どこかベッドのある部屋でもないだろうか。そんなことを思いながら壁際にある最初の一室へ踏み入る。
そこは部屋いっぱいにモンスターの群れが待ち構えていた!
男は驚いた。しかし、同時に素早い動作で扉を閉め直すと、中からモンスターが出てこないよう背中で扉を押さえ付けた。そうして一時の猶予を得てから考える。
あの大量のモンスターは一体何なんだ。まさかこの洋館はモンスターの巣だったのか。色々な考えが頭の中を
しかし、それからすぐに更なる疑問が湧き上がった。
中にいたモンスターの暴れる音が聞こえてこない。普通なら扉を叩くなり何かしら音がしてもおかしくない。これはどうにも変だ。
男は慎重に扉から離れた。一歩、二歩、三歩。部屋の中からは物音一つ聞こえてこない。
やはり何かがおかしい。男は手の汗を上着の裾で拭い、再び扉のノブを回した。
そこは部屋いっぱいにモンスターの群れが待ち構えていた!
先ほどと全く同じ光景が広がる。けれどもモンスターは一体として動き出すことは無かった。それもそのはず、男が近寄ってじっくり見てみると、それはモンスターの剥製だったのだ。
まじまじと観察してしまう。この館の主が
「ドタバタと音がするから来てみれば、……君は誰かな。私の屋敷に何か用でも?」
不意に後ろから声を掛けられ、男はドキリとして振り返る。そこには一人の女性が立っていた。赤黒く薄汚れたエプロンを着て、手には大きな出刃包丁が握られていた。
途端に男は両手を上げて敵意の無いことを示し、口を開いた。
「も、森に迷って……、勝手に入ったことは謝る!」
男が早口に告げると、女性はひそめていた眉を柔らかなものにした。
「おや、迷い人かい。それにまだ子供じゃないか。大変だったね。ふむ……、それなら部屋も空いてるし、一晩くらいなら泊っていっても構わないよ」
「い、良い……のか? どう見ても俺は不審者だし」
「悪事を働くつもりの人間ならそんなこと言わないよ」
「それは、そうだけど」
「それにもうじき夜が来る。ここがダンジョンだってことは分かってるのかい?」
「……一応、分かってる」
「分かってたら一人でノコノコ来るような場所じゃないはずだけどね」
女性は値踏みするような視線を男へと向けた。頭の先からつま先まで眺めて、最後に瞳を見つめた。男は何をされているのか分からず、ただただ静かに立ち尽くす。
彼女の見た目は男よりも少しだけ年上に見えた。男は今年15になったばかりだ。となると、彼女は18、19とかだろうか。そんな若さでこのダンジョンに一人で暮らしているわけもないと思うが……。とにかく不思議な雰囲気を
「ところで、お互い自己紹介がまだだったね。私はアリー。君の名前は?」
「俺は、……カイン」
アリーは長い金髪を一本の大きな三つ編みにして腰へ流していた。
ふと、同じように髪を編み込んでいた母を思い出す。そして、ここまで
カインは誤魔化すように服の裾で目を擦ると照れ隠しに笑った。
「あれ、おかしいな。ゴミが入ったみたいで、涙が、止まらないや」
「付いてきなさい。部屋へ案内してあげる」
アリーは何も尋ねてこなかった。
ただ付いて来いとだけ言って、上階にある空き部屋へ案内してくれた。そして、落ち着いたら下へ降りてくるようにと伝えて離れていった。
カインにとっては、その距離間が今はありがたかった。心細い気持ちや叫び出したい気持ちを布団に顔を
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