全裸男子小学生達が傘で股間を隠しながら近所に散りばめられた服を回収する話。

木元宗

第1話


 全裸になって、グラウンドから公園の道のりを歩いて遊ぼう。脱いだ服は道のりの各ポイントに設置してるから、それを全部見つけながら着てゴールするルールね。靴下一枚でも見つけられなかったらゲームオーバーだから。誰かに見つかった時の為に、開いた傘で身体を隠しながら歩こう。


 私達がまだ、子供用の傘で身体が隠れるぐらい小柄な小学生だった頃の夏休み、弟はそう切り出しました。


Q.普段からそうした遊びをしていたんですか?


A.そんな訳えだろ。


 夏休みって、始まった頃は楽しい事でいっぱいですけれど、消化していったら流石に退屈になって来るでしょう? 小学生だと余り遠くに出かける事も出来ないし。だから、取り合えず近所の公園に集まってみたけれど、思い付く限りの遊びは大体やったし何だかつまんないなって、ボーっとしてたんです。私と弟と、三人の幼馴染の五人で。折角せっかくの夏休みなのに何して遊ぼうか思い付かない。この危機的状況を打破する為に弟は、こんな遊びを思い付いたのでした。


 もしこれが普段の週末で、たまたま集まりやタイミングが悪くて時間を持て余しているだけであったなら、そんなのしないよと笑って流されている話でした。しかし当時の我々の想像力は既に限界。五人じゃドッジボールも野球も出来ないし、鬼ごっこもケイドロもパッとしない。自転車で知らない土地まで漕いで冒険するのも散々やったし、駄菓子屋さんに行きたい気分でも無い。ゲームは上手い子決まってるから結果が見えてて面白くない。


 なので今振り返ってもどうかしてると思うのですが、弟が捻り出したこの危険な遊びに、幼馴染達はウキウキになりました。五人の中で一番の年上かつ唯一の女子だった私は、やる訳が無いし幾ら何でもバレた時にとんでもなく怒られるからやめるよう訴えます。でもそれも退屈で死にそうな夏休みマジックにより、普段より相当あっさり折れてしまいました。何なら盛り上がっていく男子達に一人置いてけぼりみたいになって、「えー!? ずるい! うち男子やないから出来ひんやん!」と駄々をこねていました。死ね。過去の私。理論も謎過ぎる。


しゅうちゃんは女子やからゴールで待っといてな。あと誰か来たら知らせて」


 男子四人はニヤニヤ言いながら、早速スタート地点へ向かいます。女子という理由で仲間外れにされた遊びは後にも先にもこの一度だったので、何だかとても寂しい思い出でもあります。内容こんなしょうもないのに。


 この遊びのコースである「グラウンドから公園の道のり」とは、グーグルマップ曰く百五十メートル。公園とは今私達五人が集まっている公園の事で、グラウンドとは公園の奥に続いているのでほぼ直線です。グラウンドというだたっ広い土地を全裸で誰にも見つからないよう歩いて、その辺に散らかした服を着ながらゴールするという事ですね。不可能ですね。然も弟の奴がスタート地点をグラウンドからでは無く若干伸ばしまして、公園と繋がるグラウンドは、その更に奥に林道があるんです。グラウンドで遊ぶ子供達しかまず使わない寂しい道でして、この林道をスタート地点とし、グラウンドを通過して公園でゴールするという道のりになりました。


 歩く際にもルールがあります。全裸になって一人ずつ歩くのですが、前の人がゴールしてから、次の人が全裸になって歩き出すという順番でした。脱いだ服は順番待ちの男子がルート上に置いてからスタートなので、歩き出す子は自分の服がどこにどの順番であるのかは分かりません。隠すような置き方は禁止だったので(その変な正々堂々ホント何?)、目に付く場所に必ず置いてあったそうなんですけどね。私はグラウンドに続く道に背を向ける格好でブランコに乗り公園で待機だったので、全部の服を着て戻って来るスタート前と変わらない姿の彼らしか見えませんから、道中の詳細は不明ですが。


 しかし幸い、当時は他の友達もおらず、グラウンドも公園も林道も私達五人の貸し切り状態でした。でも、ごくごくたまーに草刈りらしき様子のおじいちゃんが林道に現れるので鉢合わせてもいいように(路上に服散らかした全裸野郎共にいい状況なんて来ねーよ)、男子の誰かが持って来た黄色い傘で(目立たせてどうすんだよ)、身体を隠す事になりました(隠し切れねーだろ)。進行方向に向けて開いた傘に隠れるように、中腰になって歩くんです。


 この遊びの醍醐味は、私達五人以外にバレないよう全裸で外を歩くというスリルですから、靴と靴下も脱いでどこかに設置されています。傘も取り合えず進行方向に向けているだけで、もし例のおじいちゃんが後ろから歩いて来たら終わりですね。突如林道に現れた、前方に黄色い傘を差しながら中腰で歩くケツ丸出しの男子小学生を前に、冷静でいられる人間とは存在するのでしょうか。


 傘で股間は露出してないからオーケーみたいな考えが男子四人にはあったようですが、股間は隠れていようと前方に差した傘に隠れるように中腰になって、誰か来ないか非常に警戒しながらへっぴり腰でのろのろ歩く全裸男子小学生という時点でアウトです。何も履いてない足と一向に袖が見えてこない腕で、異様に薄着だって即バレです。「もしかして服着てない?」って一瞬で覚られます。怖過こわすぎるだろ。もし今大人になった私がそんな男子小学生と出会ったらパニクるわ。一体何が起きてんだよ。


 当時の私は、幾ら退屈かつ仲間外れにされるのは嫌だからって、本気でこんな遊びに参加したいと駄々をこねていました。ずるいって。ずるくねーしやらなくて本当によかったよ。今回この昔話を文字にするに当たって当時の記憶を掘り起こしていますが、大人になってから振り返るとあの日の私達とは、最高に狂っていました。寒気がします。過去の私達の行いに。そしてこの遊びとは果たして、小学生だからと許される範囲に収まっていたのでしょうか。未だにこの五人の秘密です。


 とは言っても、私がこれ以上語れる事は多くないんですけどね。見てないから。でも、既にゴールした弟が次に歩き出した人を見つけたようで、「姉ちゃん見て!」とグラウンドを指したのです。

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