FIRSTSNOW(첫눈/チョンヌン)

西門 檀

第1話 

 『君を抱きしめたい――どれだけの月日が僕の心を育んできたのか――』


 テレビジョンの画面いっぱいに、彼らが躍り歌っている。

 念願の日本デビューを果たしたK-POP5人グループ、CRYSTAL。

 今、私がいるのはそんな彼らの楽屋だった。

 そして、私は日本活動時のみの専属のメイク누나さんだ。


아~ 우리는 열심히 했어!あ〜俺たちは一生懸命やった

잘했다!よくやった

 そう言いながら歌番組の収録から帰ってきたのは、リーダーの한스ハンス

 彼に続いて、他の四名もこの楽屋に入ってきた。


 ちなみに、私は韓国語ができない。

「どうぞ、おしぼりです~」

 汗もかいていることだろうから、私は熱々にしたおしぼりを彼らに手渡す。

감사합니다ありがとうございます

와우. 감사합니다わぁ、ありがとうございます

샤워가 없기 때문에 수건이 기쁘다.シャワーがないのでタオルが嬉しいです

 何を話しているのかさっぱり……だけど、平均年齢二十歳だけあって、きっと今一番美しいお肌を持つ少年たちだ。

 ちなみに私は二十五歳、メイクアップアーティスト歴四年の市原花いちはらはな。この不況真っ只中の日本で、やっと最近このお仕事を紹介してもらった。日本活動時のみ、なのであまり喜んでもいられないけど。

 そんな事を考えていると、メンバーで一番若い十六歳のランという子が私に声をかけてきた。

아……누나?あ……お姉さん

「え? あ、私?」

 彼は私にコクコクと頷く。

「오늘의 메이크업을 멋지게 해 주셔서 감사합니다今日のメイク、素敵にしてくれてありがとう

 何を言っているのかはわからないけど、目の前の美しい少年が私にお礼を言っていることだけはわかる。

 破壊力のある笑顔を向けられて、私は一気に顔が熱くなる。

 それを悟られないように、手元のメイクブラシを片付けながら伏し目がちに顔を上げた。

「……ごめんなさい。私、韓国語わからないんだけど、お礼言ってくれたんだよね? どういたしまして」

「ドウイタシマシテ?」

「あ、you're welcome? かな?」

 意味が通じたのか、彼はパッと花が開いたようにニコニコしながらリーダーのもとへと走っていった。


「可愛いなぁ」

 そんなことをついポロッと言ってしまったところに、彼らのマネージャーの水田さんの登場。すらっとしたスーツ姿で、背も高い彼はなかなかのやり手マネージャーと名高い。


수고하셨습니다.お疲れ様でした、 이제 요코하마에 갑니다.さて、今から横浜に行きます。 다음은… … 촬영입니다次は……撮影です

 CRYSTALのメンバーたちにそう言うと、彼は私に近づいてきた。

「市原さん、彼らと意思疎通を図らないでください。韓国語ができないっていうので、あなたにしたんですから」

 そう低めの声で告げられる。

「……そうでしたね。すみません」

 水田さんの言う通り、これから売り出すアイドルにスキャンダルはNGだ。身近な世話をする女性のほとんどは、既婚者かおばさんだったりするそうだ。

 私はメイクの腕を認められて……はいるが、独身で彼らとも年が近い。韓国語を話せない、習う気はないということで、この仕事がもらえている。


「次の撮影の衣装とメイク案、メンバー別にまとめておきましたから」

 水田さんはそう言うと、私にバインダーに挟んである資料を渡してくれた。

「ありがとうございます」

「あとは、現場で説明しますね」

「はい」


 私たちは楽屋内の私物や荷物をまとめると、テレビ局前に停められたバンで横浜に向かった。もちろん、彼らと私の乗る車は別だ。

 


 

 

 



 

 




 

 

 






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