⑤
一葉は俺のことが好きなのにいなくなった。それも多分、突発的ではあるにしろ自分の意志でだ。仕事まで辞めているんだから本気だ。借金を押し付けられてやばい奴に追いかけられているとか、そういうよからぬことに巻き込まれているんじゃないか。それか、大きな病にでも掛かって、迷惑をかけないように消えたとか。病院や金融を始め、考え得る限りの場所には出向いて必死に話を聞いた。二日半掛けたが、無駄足だった。もう土曜日になっていた。
がむしゃらに動き回っても成果は得られないことを学んだ俺は、ダイニングに寝転がり、一葉を思っていた。元々一葉は慎重だ。よく考えて動く。火曜日の夜から水曜日の朝にかけて出て行くのを決めたんだとしても、きっかけは直前ではなく、もっと前だったのではないか。そもそも平日には仕事があって、何かが起こることは仕事由来以外少ないはず。土日の足取りを追った方がいい気がしてきた。
失踪直前の日曜日、一葉は友達と遊びに行くと言って出かけた。土曜日とその前の土日は一葉と過ごしたから、俺が知らない何かが起こったとしたらその日では? そう考え始めたら居ても立ってもいられなくなった。がばっと起き上がって、行動を開始する。
一葉の友達。一番の仲良しは美優だ。でもあの日は、美優といたわけじゃない。美優なら俺も知っているから、美優と遊びに行くと言う。地元に行くと言っていたから、多分小中高の友達のはずだ。俺はもう一度一葉の部屋で家探しをした。小中高のアルバムを引っ張り出して、一葉と仲良さげに写っている人間を探す。顔だけじゃなく名前まで分かるから大変ありがたい。該当者を見つけたら、あとはSNSのアカウントを見つければいい。一葉は顔が広いから全員に連絡を取るのは難しいが、社会人になってからも遊びに行くほど関わりが深いなら、学生時代も仲が良かったはずだ。
俺の推理は正しかった。
『その日なら、一葉と遊びましたよ』
織原恵美。中高同じで、なおかつ、同じ吹奏楽部だった人だ。一件目の連絡で大当たりを引けた。
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