22 悪魔の逆鱗

 争いを嫌い、ブランカの平和と安寧を守ることを第一に考えてきたキルギスは、特に隣国とはいい関係を続けてきた。そんな折、幼少期から知っていた隣国の国王から婚姻の申し出があった。


 お前の娘を嫁に欲しい。互いの国の為に、力を合わせよう。


 その政略結婚は、互いの国の平和の象徴ともなる大切なものだ。

 いい縁談だったが、娘は特に向こうの国の王子に興味はなかった。それでも、民の為ならと受けようとしてくれた。しかし、その縁談の根っこには、国力を増強し、他国へ侵攻していくという野望が絡んでいることを知り、キルギスは縁談を断った。戦火に民を巻き込みたくはない。


 それが結果として、交易に影響を及ぼした。

 隣国との交易があったからこそ大きく繁栄することができたブランカは、その暮らしを自国で補うことが出来ず、次第に衰え、吸い上げられていった。

 攻め入られこそしないものの、その暮らしは民を苦しめ続けた。

 結果として民を苦しめ、気付いた時には戦う力すら失った王は、自分を責めた。


 そこに、悪魔が入り込んできた。


「ボクがあんたを全ての重責から解放してやる。あんたは眠り、長い夢を見る。いいや、今までが悪い夢だったんだ。これからは、ボクの中で、いい夢を見るといい」


 悪魔はキルギスの望んだ夢を見せ続け、代わりに王となって国で好き勝手に生きた。


「私は、自分の責任から逃げたのだ。王としての義務を放棄し、悪魔と契約した」

「聞いただろ。これはその王が望んだ結果だ。ボクを責めるのはお門違いだ!」

「黙れ! 王をたぶらかした悪魔の分際で」ユリウスは抵抗した。

「悪魔は何がしたいんだよ」


 銀二が聞くと、ジャスティは呆気に取られた。


「……なに?」

「王様になって、何がしたかったんだよ」


 悪魔に乗っ取られたジャスティは戸惑うように眉を顰めた。


「なにって」

「俺には、王様になったって好き勝手できたようには思えないんだよな。だってよ、王様になったって、もうその時には国は衰退し始めてたってことだろ? そんな国で、何ができんだ? お前さ、王様が死んじゃったり、王様の周りからみんながいなくなっちゃったら、どうするつもりだったの?」


 ジャスティ――悪魔の手に力が入り、剣が震えた。


「お前なんかに」


「もしかしてお前、寂しかったんじゃねえの?」


 その言葉を聞いた途端、ジャスティは強い殺気を放ち、銀二に飛び掛った。

 

 やっべ――。


 酔ってべらべら喋りすぎたな。悪い癖だ。

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