ヒロインを奪われる主人公に転生したのに逆に迫られている件
みょん
プロローグ
ずっと、自分の中に引っ掛かっていた物があった。
それが何であるかを気になりつつも、こうして高校生になるまでそれに気付けるようなことはなく時間は過ぎて行った。
しかし、俺はようやくそれを思い出せた。
「俺……主人公じゃねえか」
鏡に映る自分を見てそう呟く。
今までずっと見てきた顔なのに、こうして前世やこの世界のことを思い出したせいで随分と不思議な気分になってしまう。
「……
名前も記憶にある物と寸分違わない……間違いない。
「……マジかよ」
しばらく呆然と鏡に映る俺と見つめ合い、深くため息を吐いた。
一旦……一旦まずは情報を整理しよう!
部屋の中央に置かれた丸テーブルにノートを広げ、思い出せる限りのこととこの世界のことを書き出していく。
「まず、この世界は間違いなく“愛しのあの子は肉欲に溺れて”の世界……絶対に間違いない」
愛しのあの子は肉欲に溺れて――名前からして寝取られ物だということが分かる題名だ。
主人公の名前は住良木理人、俺の名前だ。
そして奪われるヒロインの名前は
「……………」
正直なことを言えば、こうしてノートに色々と書き出してみても現実味は全くと言っていいほどない。
だって転生だぞ……? そんなの実際にあるとは思わないじゃないか。
「……この世界が漫画の世界ってことは思い出せたのに、肝心のどうやって俺は死んだのかとかそういうことが思い出せねえ」
前世の家族はどうだったのか、友人関係はどうだったのか……その辺りのことが酷く曖昧だ。
って、思い出せないことはどうでも良い。
まずは現状のことを纏めないと!
「つっても命に関わったりするわけじゃないし、そこまで慌てる必要があるのかと言われたらう~んって感じだけど」
転生したことに関して驚きはもちろんあるけど、それ以上にこの世界で生きてきた十六年間という時間が俺を落ち着かせてくれる。
「……ふむ」
顎に手を当ててとある一枚の写真を眺める。
それは俺と幼馴染……菜月がピースをしながら写っている物で、この写真からも分かるようにヒロインである菜月とは仲良しだ。
かれこれ付き合いは幼稚園の頃から……本当に仲良くなったものだ。
お互いの家を行ったり来たりするのは当たり前だったし、勉強しようぜという軽い一言から家に泊まったりすることもあって、そういう意味では何も知らなかった昨日までの俺は十分に主人公生活を満喫していた。
「菜月……か」
菜月……贔屓目無しで見ても凄く綺麗な女の子で、こういう子と付き合えたら毎日が最高なんだろうなと思えるほどに魅力的な女の子。
「……よし、出来た」
何だかんだ、色々と考え事をしている間にも指は動いていた。
ノートにはこれから起こることと大まかな時間軸が記されており、俺の行動一つでこれが全て変わっていくんだと思うとある意味ドキドキする。
俺と……いや、一旦俺を理人に置き換えよう。
本来であれば理人と菜月はこれから数ヶ月以内に付き合うことになり、その後少しして菜月は弱みを握られる形でクラスメイトのチャラ男と体の関係を持ちそのまま……なんてこういう物語によくある流れだ。
「乱れる菜月ってめっちゃエロいんだよなぁ……」
確かに主人公目線に立つと心が痛い! だがしかし、流石エロ漫画だからこそとてもエロい!
SNSで宣伝されていた時点でとても好評だったし、実際に発売されてからもイラストの良さも相まって大変な人気作だった。
「そもそも書いてた漫画家さんも有名だったし、その人が仲の良いすげえイラストレーターさんなんかも描いててバズってたもんな」
本当に凄かったなと思い出していると、部屋の向こうから誰かの走る音が聞こえてきた。
その足音は階段を上り、最終的にここへと近付き……そしてバタンと音を立てて扉が開いた。
「やっほ~! 遊びに来たよ理人!」
「菜月……うおっ!?」
振り向こうとした瞬間、背中に人間一人分の重みが加わった。
それと同時に圧倒的なまでの大きさと柔らかさを孕んだ膨らみが押し当てられ、即座にそれが何であるかを俺の脳が答えを叩き出す――OPPAI。
「ってあれ? 何書いてるの?」
「っ!!」
これを見られるのはマズい、そう思って即座にノートをぶん投げた。
「ちょ、ちょっとそんなに見られたくなかったの?」
「ま、まあな……」
「気になるなぁ?」
見せてよと俺に抱き着いたまま、体を揺らす菜月。
俺はいい加減離れてくれと言わんばかりに、優しく彼女の腕を解くようにして離れてもらう。
「……んで、いきなり来てどうしたよ菜月」
振り返った先、菜月はニコッと微笑んでいた。
背中に届くほどの長い亜麻色の髪を揺らし、優し気な印象を窺わせる綺麗な顔立ちで俺を見つめる彼女……少しだけ下に視線を向ければ、服の上からでも分かるほどの豊満な膨らみがこんにちはしている。
(やべえくらいの美少女だとは思ってたけど……改めて思うわこんなに可愛いのかよって)
流石漫画の世界……こんな美少女そうそう居ないぞ。
でもそれだけこんなに可愛くてぽわぽわして、男女の距離感を感じさせない美少女だからこそヒロインなんだろうなとも思える。
「忘れたの? 今日、遊びに行くって言ったじゃんか」
「……あ」
そう言われて全て思い出した。
今日は土曜日ということで、特に何もやることがなくて暇だと言ったら菜月が家に来るって言ったんだった。
ぷくっと頬を膨らませた菜月を見た俺は、つい年下の女の子みたいだと苦笑した。
「ごめんごめん、つい忘れてたよ」
「……? それは良いけど」
「どうした?」
何やら菜月が首を傾げている……そう思っていると、彼女はこんなことを口にした。
「えっと……理人だよね? なんか雰囲気変わった?」
その言葉にドキッとしたが、どうにか表情に出さないよう努めながらそんなことないだろと言い返す。
菜月はそうだよねと言いつつも、どこか違和感は感じているらしい。
「う~ん……ちょっと大人っぽくなった? 顔はいつも見る顔なんだけどさ。あれれ……?」
「あ~気のせいだろ。俺はいつもこうだ」
そうは言っても、菜月はとにかく気になるようだ。
いつもの距離感を実現するように、一歩こちらに踏み込んだ菜月……だったけれど、器用に何もない場所だというのに体勢を崩した。
「おっと」
即座に菜月を抱き留め、必要がないと分かっていてもどこも痛めてないかを確認する。
「菜月、お前はいっつも少し慌てすぎだ。もう二年になるんだから落ち着きを持とうぜ」
「……………」
「……なんだよ」
「……なんだか、本当に大人っぽいかも」
だって二周目だからな。
そんなやり取りがあったからなのか、いつもと菜月の様子が違った……まあ今までの俺と違うのだから、それを変に思い彼女が離れていっても寂しいが構わないとさえ思えたのはたぶん……俺が俺になったからだろう。
そんなこんなで、俺は転生してしまった――寝取られジャンルのエロ漫画主人公へと。
▼▽
さて、ここで一つ情報を一つ整理しよう。
主人公の俺、そしてヒロインの菜月が居るということは間に入る男が存在する。
そんな男の名前は
欲しい女が居れば脅してでも手に入れる……そんなクズに菜月は寝取られるのだが、ぶっちゃけこれは考えても意味がないんじゃないかって思ってる。
「……………」
菜月は幼馴染として大切な女の子だ。
絶対にどうでも良いだなんて思えないし、今まで仲良くしてくれた女の子でもある……けど……ねぇ?
「住良木? どうしたの?」
「……ごめん」
「なんでいきなり謝るんだよ」
目の前で美人な金髪ギャルが立っている。
彼女は同級生でありクラスメイトの女子……名前は神崎咲夜。
(……今更すぎるけどどうなってんの?)
菜月を寝取る役目を負っている神崎咲夜が美少女ギャルなんだもん。
【あとがき】
カクコン用です。
よろしくお願いします。
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