番外 クリスマス(2023)

部活が終わり、各々が身支度をしていた時のこと。花形は突然、言葉を発した。


「さあ、諸君。今日が何の日なのか。分かるかね?」

「………クリスマスでしょ。分かってますよ、部長殿。」


そう返事したのは、谷口だった。花形は堂々と言った。


「!その通りだぞ我が臣下、馨よ。クリスマス、それは神の降臨祭…すなわち、実質アタシの生誕祭とも言える。何せアタシはこの世界を統括する為に生を受けたのだからなぁ!!」

「うわぁ。キリスト教信者には聞かせられねえや。」


谷口の呟きを華麗にスルーしながら花形は続ける。


「…なのに、何故今日に限って、我が臣下以外の配下達も、我が演劇部を陰で支える実力者連中もいないのだ?」

「あーそれは……。」


谷口はその理由を知っている。


(クリスマスだからなぁ。皆忙しいってのもあるけど、あの人と基本的にプライベートで絡みたくないから部長が席を外した内に、逃げたんだろうなぁ。この目で見てたし。)


花形が、だんだんと挙動不審になっていく。


「おかしいぞ…何故なのだ。本当に誰もいないのか………またアタシ1人でこの日を過ごすのか?」

「…はぁ、仕方ない。」


谷口は花形に助け舟を出した。


「気持ちは分かるけど2人とも、流石に逃げるのは良くないと私は思うなぁ。」

「うっ。」

「…チッ。」


部室からこっそり出ようとする2人を谷口は止めた。


「お喜び下さい、我らが部長陛下。貴方のこの生誕祭に臣下である佐藤やまね、山崎聖亜が参加する様です。」

「った、谷口くん!?」

「おいお前、ふざけんなよ!!」


谷口は役者ぶって花形に礼をした。花形はその言葉に目を輝かせ、やまねの両手を握った。


「おお、それは本当か!?感謝する!!!!」

「あ、そのぉ……は、はいっ。」


やまねの性格を利用するのは正直心が痛いが、これで1人確保した。後は……


「俺は嫌…ムグッ!?」


谷口は山崎の口を塞ぎ、耳元で囁く。


「残念だね。折角、やまねちゃんの家でやるのに…………楓ちゃんと会えるチャンスだろ?」

「…っ。」


谷口は無言で手を離した。


「…行く気になったかい?」

「ハッ…正月まで、生き残れると思うなよ。」


山崎は花形の下に向かおうとして、谷口に手を掴まれる。


「山崎君、これやまねちゃんに渡しといて。」

「ん…ああ、またやるのか…アレを。」

「そそ、前回凄かったからね。」

「後で直接、やまねに渡せばいいだろ。」

「あーそれはねぇ。私、これから帰り道で捕まって監禁されなくちゃいけないんだ。だから無理☆」

「……?ついに頭が故障したか。」

「てな訳で、部長殿にヨロシク♪あと良いお年をー!」


そう言って谷口は手を離し、駆け足で部室から出て行った。山崎はため息をついた。話がついたのか、やまねと花形が歩いてくる。


「…では、向かうぞ!我が臣下にして同志、やまねよ。決して、アタシの拠点の年末の掃除がまだ出来ていない訳ではないからな!」

「!気にしないで下さい花形先輩。聖亜くんも行こう?」

「…ああ。行くか。」


三人は部室を出て、校舎を出て、校門を出た。

辺りはすっかり、日が暮れていた。山崎は谷口から貰った物をやまねに渡す。


「ああ、これ谷口からの……例のアレだ。」

「あー。またやるんだね…覚えなくっちゃ。」

「…ところで同志、やまね。家の者には言わなくても良かったのか?このアタシや臣下である聖亜が来る事を。」

「そこは大丈夫ですよ。分かってると思いますから。」

「…ん?そうなのか??」

「花形部長、やまねの家来るの初めてだから、緊張してるのか?」

「先輩に限ってそんな……そうですよね?」

「…ははっ。当たり前だ。このアタシを誰だと思ってる?」


(後輩の前なんだ。しっかりしないと、アタシ。)


そんな会話をしながら数十分後、やまねの家に到着した。やまねは鍵を取り出し、ドアを開けた。


「じゃあ、どうぞ。」

「邪魔するぞ……花形部長?」


花形はやまねの家を見て唖然としていた。


「これは…武家屋敷か?同志よ。」

「はい、先輩の家程ではありませんが…不満でしょうか?」

「ふ、ふふふ、いいぞ!これはこれで悪くない。風流という言葉がよく似合う。」


(アタシの家、マンションの一室なんだけど…何か誤解が生まれている気が……。)


誰にも悟られない様に不敵な笑みを浮かべながら、花形はやまねの家に入った。中はまるで時代が大正時代か明治時代で止まってるような、内装であった。


(黒電話だ…すごい、初めて見た。)


そうしてやまねに案内され、三人は居間に入った。中に入った時、花形はギョッとした。


「……。」


コタツに入って、無言でテレビを見ている老人がいたからだ。やまねが声をかける。


「ただいま帰りました。」

「…友人か。」

「はい、これから先輩の生誕祭を祝うんです。」

「そうか…オレは邪魔だな。」


老人はテレビを消し、コタツから出て杖を持って立ち上がり、山崎の方を見る。


「…栄介はまだ元気か。」

「……あのスパルタ親父なら、今でもピンピンして、今頃酒飲んでぐっすり寝てるよ。」

「かっ!そうか。」


今度は花形を見つめる。正直、雰囲気とか目つきとかがめちゃくちゃ怖い。だけど、


(ここで、怖れていてどうするんだ。)


しっかりと老人を見つめ返した。心臓がバクバクいっているのが分かる。


「…やまねから話は聞いている。」

「っ!はっ…このアタシ、花形羅佳奈の話を聞いているのか。ならば分かっている筈だ!」

「…演劇部に入ってから、やまねはとても楽しそうに部活動についてを話してくれる。」

「ちょっと、おじいちゃんっ!」

「フッ、当然だ。何せこのアタシが部長なのだからな!」

「やまねを頼む。そのまま、普通の日常を送らせてやって欲しい。」

「…?そうだな。アタシが見ている限りはそうしよう…だが同志、やまねが非日常を望むのなら、アタシは喜んでそれに協力するがね。」


瞬間、老人の杖が花形の喉に触れた。やまねや山崎が止めに入ろうとするが、それを花形は右手を出し静止させた。


「…何故、そう考えた?」

「ははっ、愚問だな…最初は誰かが勝手に決めるけど、結局は自身で人生を選択しなくちゃいけない。だって人間は最後はどんなに頑張っても死ぬ時は一人なのだから。でも横でそれを応援する事は誰だって出来る。このアタシでも。貴方でも。過保護に大事に育て過ぎると、何も分からない子が出来上がってしまう……そっちの方が残酷だとアタシはそう思うね。『可愛い子には旅をさせよ』って言いますし………それに、同志がやりたいと思った事を第三者が否定した位で、止まる訳がない事を保護者である貴方ならもうご存知だと、ワタシ的には、そう思っていましたがね。」

「………………そうか。」


老人は無言で杖を戻し、花形の横を通りすぎる間際に耳元で微かに聞こえた。


「その大見得、見事だった。」


居間から老人は出て行った。花形は即座にコタツに入った。


「フッ、今夜はよく冷える。そんな日のコタツはとても良い………諸君も入りたまえ。」

「えっ。はっ、はい。」

「…そうだな。」


さっきの事で少し動揺しながらも、二人もコタツに入る。花形の体がブルブルと震えている。


(はぁ〜〜怖い怖い怖い、緊張したぁ。死ぬかと思ったぁぁぁぁぁぁ。)


その様子を見てやまねは言った。


「あの、コタツの温度上げましょうか?」

「……頼むぞ。同志、やまね。」

「は?この温度でいいだろ??」

「ーーいえ、温度は上げた方が良いかと。私も内心、寒いと思っていました。」


花形の隣にサンタ服を着た白髪の女性が座っていた。内心、物凄く驚いたが、必死に堪える


「い、いつの間に……。」

「…楓さんお邪魔してるぜって…何だその格好。」

「っ!?姉さんその服ってもしや……。」

「前に谷口くんが来た時に頂いたものです。やまねの分もあります。部屋に置いてありますから、着てきなさい。」


そう言って楓は微笑んだ。

楓の言葉にやまねは戸惑っていた。


「いや…でも、」

「折角のクリスマスなのです。雰囲気作りは大事ですよね?」


それに、やまねが着ている姿が物凄く見たいですし…と小さく隣で呟いていた気がしたが、それを言うと何故か嫌な予感がしたので、花形は黙っておく事にした。


「…確かに、そうなんだけど……姉さん着てるし…」

「嫌…なのですか?」


楓がだんだんと悲しげな表情になっていく。

…やまねは根負けした。


「っ!分かったよ姉さん。着替えるよ、だから元気を出して、ね?」

「……良いのですか?」


途端に楓の表情が明るくなる。


「だから、ちょっと着替えてくるね。」

「…待ってますね。」


やまねは立ち上がって、居間から出て行った。

出て行ったのを確認すると、楓は花形の方を向いた。


「……貴女が演劇部部長の花形羅佳奈さんですね。私の弟がお世話になっています。私はやまねの姉の佐藤楓と申します。今日はここでクリスマスパーティー兼、貴女の誕生日パーティーをすると聞きまして、朝から色々と準備をしておりました。」

「…そうか、それは非常に有難い。感謝するぞ……楓殿。」


(あれっアタシ朝、同志にその事伝えたっけ?)


「…先の零士お爺様の件は申し訳ありませんでした。あの人は毎回初めて会った人をああやって試す癖があるのです。」

「そうだな、俺も初めて来た時にやられたからな…いつ見ても只者じゃねえよなぁ。昔何やってたんだろ?」

「あ、アタシは余裕だったぞ?何せいずれ世界を統括する者だからな!」

「そうなのですか…では私は一旦、台所へ行って料理を持ってきます。」


楓が立ち上がると、山崎も立ち上がった。


「お、俺も手伝うぜ。せめてそれくらいの事はさせてくれ。」

「…ありがとうございます。山崎くん。」

「貴女…いえ、花形さんは今日の主賓なのでしょう?ここで待っていて下さい。」

「大人しく待ってろよ、花形部長。」

「は、はは。そう言うと思ったぞ。気をつけて持ってくるのだぞ。」


2人は台所へと向かって行った。1人居間に取り残される。


(はぁ、手伝いたかったなぁ。)


コタツの机に突っ伏していると、そこにやまねが入ってくる。


「先輩。どうかしたんですか?」

「同志、やまねか…うん。似合うなそれ…次回の演劇でどうだ?臣下の馨に脚本を書く様に今度言っておこう。」

「いくら花形先輩の頼みでも……流石に怒りますよ?」


花形は机から起き上がった。


「はっ!冗談だぞ、同志よ。足がすごく露出していて寒いだろう?コタツの中に入るがよい。このアタシが許そう。」

「…そうですね、この服のスカートの丈が短くって。先輩のお言葉に甘えます。」


やまねがコタツに入ろうとしたタイミングで台所から山崎と楓が入ってくる。


「無理に私が持つ分まで持たなくても……」

「ああ?いいんだよ…楓さんは体弱いんだからな。これは…そうだ!鍛錬みたいなもんだ。」

「ふふっ。そうですか……あら?」


楓はじっとやまねを見つめる。山崎は食事をコタツの上に置いた。クリスマスで食べる様な物ばかりで食欲がそそる。


「…ね、姉さん?」

「……先に食べていてもいいですよ。私の分は残さなくてもいいです。」

「おい、せめて何かは食べろよ。折角作ったんだからよ。」

「そうだぞ、楓殿。ちゃんと食べないと体がもたないぞ。」

「…大丈夫ですよ。」


楓は心なしか恍惚とした表情をして言った。


「もう、お腹いっぱい……ですから。」

「「……?」」


そう言い残して、楓は居間から去っていった。

やまねと山崎は顔を見合わせる。


「…どうしたんだろう、姉さん。」

「そうだな。いつもの楓さんらしくなかったな……花形部長はどう思う?」

「あ、アタシかい?」


2人が花形を見つめてくる。さっきの小声で言っていたのを聞いている為、楓が言っていた事の意味は理解できていた。だが……。


(これを言えるかと言ったら話が別だ。)


今後の関係に亀裂が出来るかもしれない…唐突に笑いが込み上げてくる。


「…は、はははは、ははははははははは!!!!!!」

「「…っ!?」」


(何を考えてるんだアタシは……くだらない。)


今日はアタシの誕生日なんだ。今日はアタシが主役になれる日なんだ…いや違うか。


「…アタシはこの世界を統括する者だ。よって毎日が主役なのだったな………やれやれ、忘れていたよ。当たり前過ぎて。」

「…は?」

「…先輩?」


怪訝そうな表情で見つめられる。だがどうでもよかった。


「…同志、やまねよ、楓殿はいつも何処にいる?」

「えっと…道場か、自室にいる事が多いです。」

「フッ……おそらく道場だな。案内してくれないか、食事を持ってな。アタシも手伝うぞ。」

「花形部長…あんたこれから何をするんだ?」


山崎の質問に、荷物を持ちながら花形は笑みを浮かべ、言い放った。


「簡単だ、アタシはあの4人でこの食事が食べたいのだよ。そう決めた以上、勝手な行動はこのアタシが許さない……さあ、征くぞ。食事を持ちたまえ、我が臣下にして精鋭、聖亜よ。」

「…仕方ないな。乗ってやるよ…花形部長。」


ため息をつきながら、山崎は食事を持った。

3人はやまねの案内で道場へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


道場の扉が開く音で、目を開ける。誰かが入ってきたらしい。


「やあ、今日は月が綺麗だ…そうは思わないかね?楓殿。」

「…どうかしましたか?」


花形はレジャーシートを広げ、そこにやまねと山崎が食事を置いた。


「瞑想の邪魔をして悪いね…でもアタシは団欒の中で食事をするのが好きでね。1人でも誰かが欠けると、興醒めしてしまう性格なんだよ。」

「…要件は?」

「一緒に食事をして欲しい。でも、楓殿は、一度は食べないと言った以上、意地でも食べようとしないのだろう?」


楓は無言で花形を見つめる。


「…話を続けよう。そこでアタシと一つゲームをしないか?」

「……ゲームですか?」

「そうだねぇ。ここは道場だ、剣で決めるってのはどうだい?」

「っおい、花形部長、それは……」

「無理ですっ!いくら先輩でも流石に…」


楓は少し目を見開いた。


「……正気、ですか?」

「至って正気だ。アタシは勝てる気しかしないな……木刀や鎧は何処だい?」

「先輩、木刀は後ろの棚にあります。」

「同志、やまね…鎧は?」


やまねは申し訳なさそうに言った。


「……花形先輩、うちの流派は鎧って付けないんです。」

「分かった…それでも問題はないな。」


花形は木刀を取ってきて楓から少し離れた所に立った。楓は横に置いてある木刀を持ち、その場で立ち上がる。


「…ルールはどうしますか?」

「あくまで殺し合いはしない方向で、一太刀浴びせた方の勝ちでいいんじゃないか?」

「…それだと余りにも花形さんが不利では?それで私が勝ったとして、難癖をつけられても困ります。」

「…では楓殿を一歩でも動かせれば、アタシの勝ちっていうのはどうかね?」


楓は一瞬沈黙した後、こう答えた。


「…分かりました。それで行きましょう。」

「よし、では試合開始だ。」


花形は手を差し出した。


「…何のつもりですか?」

「握手なんだが……試合なんだ、武士道精神は大事だろ?」

「それもそうですね。」


そう言って、楓は花形と握手した。途端に笑い出す。


「…はは。アタシの勝ちだ。」

「……えっ?」

「先輩?」


楓とやまねは困惑していた。山崎は少しドン引きしながら言った。


「…部長と楓さんが握手する前に『試合開始』って言ってるから…」

「っ!そういう事!?」

「見よ!これが頭脳プレイだ、臣下諸君。楓殿は体が弱いと聞く。故にこういう形で決着をつけさせてもらった。」

「これは、谷口よりもひでえや。」

「………。」


楓は唖然としていたが、口を開いた。


「…勝負は勝負……負けは負けです…食事にしましょうか?」

「ははっ!そう来なくっちゃ。」


道場で4人、少し冷めた料理を食べる。皆で食べるからか全然不味くはなかった。そして時間は過ぎていき……花形は時計を見る。


「ほう。もうこんな時間か……帰らねば。」


(マズイ、このままだと両親に怒られちゃう。)


「…やまね、花形さんを送って下さい。」

「えっ!?こ、この服で?」

「私とお揃いです。恥ずかしくはありませんよ。私はこれから山崎くんの鍛錬に付き合いますので。そうでしょう?」

「おっ、いいのかよ?楓さん。さっきの見て、ちょっと不完全燃焼でよ。」

「私も少し腹ごなしの運動がしたかったので丁度いいですね。もしも、不審者が出たら悲鳴を上げて下さい…すぐに対象を沈黙させますので。」


そう言って、山崎と楓は互いに木刀を持った。次の瞬間、山崎が楓に突っ込んでいき、木刀がぶつかる音が道場に響きわたる。


「…チィッ。まだまだぁ!!!」

「……。」

「っ、うおっ!?」


山崎が道場の壁に激突する。楓は初期位置から全く動いていない。


「もう、終わり…ですか?」

「…はぁ、体痛てえがまだやれるっ!!!!」

「……私も少し、運動しますね。」


今度は楓が山崎に接近して木刀を打ち込む。そこから、目で追えない程の速度で攻防が続いて……


「……花形先輩っ!!」

「っ……あっ。」


どうやら魅入ってしまっていたらしい。


「よし、帰らねば!行くぞ、同志よ!!」

「はい!行きましょう。先輩!!」


やまねと花形は木刀が響き渡る道場を後にして帰路につく。辺りは雪が降っていた。注目を浴びながらも駅まであの格好でやまねは送ってくれた。


「道中、気をつけて帰るのだぞ。同志、やまねよ。」

「僕の事よりも、先輩の方が大事です!両親に怒られないといいですね。」

「フッ、間に合わせるとも!!」

「あっ、待って下さい、先輩っ!」


花形は足を止めた。


「…ん、何だ同志?」

「改めて花形先輩、お誕生日おめでとうございます。」


やまねは持っていた大きな紙袋を花形に渡した。


「僕も含めた演劇部のみんなや被服部、手芸部、映像研、後生徒会からのプレゼントです。」

「お、おおお!!…帰ったら必ず開けるよ。」


少し恥ずかしがってやまねは言った。


「後…メリークリスマス…ですっ♪」

「ははっ、メリークリスマスだ。」


そう言って、花形はスクールバックから3つの箱を取り出して渡した。


「サンタよりも至高な世界の統括する者からのプレゼントだ。」


返答を聞かずに、やまねにカッコつけながら花形は命がけで家に帰る。でもこの時点で分かっていた。


(電車の時間的に、どう頑張ってもアウトだ……これ。)


案の定、家に帰ったら両親に叱られた。

その後自室に戻ってゆっくりと心の仮面を外し、ベットの上で、紙袋から色々と取り出す。


「まずは、8月に映像研の協力で撮った奴が入ったUSBメモリーか…これは明日みよう。で、これは……ほう。いつか私が被服部や手芸部に依頼しておいた、アタシの改造制服Ver.2か。まさか部活仲が最悪な奴らが共同で作ってくるとは……ん、このロゴは…そうか。卒業しているのに相変わらず律儀だな、あの部長は。次は…げっ、部費の請求書…あの生徒会長め。まさかあの時、会議サボってたのがバレていたのか!?今度会った時に相談しようそうしよう。」


そうして残ったのは演劇部のみとなった。

大事に少しずつ開けていく。


「さて、どんなのが出てくるか。おっ、これは大道具担当の皆からか……手鏡か。この前割ったからな……まあだからといって15枚は必要…いや、あるか。よく見ると柄が全て違う。」


「これは…照明、音響担当か。おお!アタシが好きな曲ばかりではないか!…ん?手紙が、

『光熱費ヨロ〜♪by玉木彩』…っあのギャルめ。まあ良いだろう。アタシは心が広いからな。」


「で、広報、衣装担当…衣装は……うん、次のアタシの改造制服の候補か。どれもいい出来だ…で問題は広報か……うわっ、何だこれは…『佐藤やまねの隠し撮りコレクション3』っ!

あのサル共め、冬休みが終わったら覚えておけよ…それはそれとして……ふむ。一応これはアタシが責任をもって保管しよう。」


「舞台美術担当は………おっおう。相変わらず、全く意味が分からない絵を描くなぁ、あの画伯は。何故、奴は美術部に入らなかったんだろうか?まあ良いだろう。これは舞台監督と制作の…はっ!これは今後一年間の舞台スケジュール表!?…早っ。後これは文書…?少し読んでみるか………ご、ごめんなさいっ。」


「で、脚本か。一人しかいないから実質、我が臣下、馨のプレゼントか。どれどれっと。西洋菓子?…っ!?しかもこれって凄く高い奴なんじゃ……は、はは。大事に食べようっと。」


「役者は……二つしか入ってないじゃないか。

まあ、仕方ない。文化祭でごたごたしてたのもあるからな。で、まずは無難に我が同志のから見てみるか。うん。ヘアブラシか普通だな…何だ?これだとまるで同志がおかしいみたいじゃないか。今までのがおかしかったんだ、そうだよな?よし、我が臣下にして精鋭である聖亜のは重っ!?何だこれそのまま開けるか…………だ、ダンベル?………た、耐えろアタシ。これは、アレだ。遠回しに鍛えた方がいいとかそんな感じに違いない。」


花形は大きくため息をついた。


「つ、疲れた。これで以上…あれ?まだ入ってる。」


二つの木箱と一枚の封筒が入っていた。


「まず箱を開けよう。よく見ると名前が書いてあるな、佐藤楓と佐藤零士って…えっ!?どのタイミングで入れたの…?まあ、それは置いておこう……問題はどっちから開けるかだな。」


とりあえず、お爺さんの方から開けることにした。


「…中身って、はっ?……短刀!?本物じゃん。これ大丈夫なヤツなの、なんか持って歩いてたら銃刀法とかで捕まらないコレ!?紙が入ってる。『護身用に取っとけ。』…あっ、はい。しまっとこう。で、楓殿のか。どれ……木箱の中から鉛色の箱が!?しかも、ダイヤル式か。おっ、なんか紙が入ってる。『パスワードは、私が死ぬ日。』え…はい?えっ、ちょっと待って。意味が分からないって……今度会った時に教えてもらおう。」


頭が混乱しながらも、封筒を開けた。


「これって、今日のパーティーの時写真じゃないか……全く、誰が撮ったんだか。」


改めて、パーティーの事を思い出す。


「……本当、アタシに相応しいないくらい、凄い臣下達いや、親友だよね。歳は二年離れてるけど。」


写真に水滴が付く。


「っは?……泣いているのか、アタシは。」


ーーでもこれは決して、悲しくて泣いている訳ではない。


「…ははっ。嬉しいんだな、アタシは。」


昔はこういう事は全く無かったから。


「……プレゼント、見てくれたかな?」


花形は布団に転がり、三人に思いを馳せる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……深夜、やまねは1人、縁側を歩く。


「……やっぱりここにいた。谷口くん。」

「おっ、バレたか。やまねちゃんの家の庭園、いつ見ても綺麗だからね。ついつい魅入ってしまうのさ。」


灯籠の淡い光で照らされる庭園を見ながら、谷口が縁側に座っていた。


「どこに行ってたの?」

「まぁ、座りなよ。」


やまねは谷口の隣に座った。


「…あの人はちゃんと楽しんでくれていたかい?」

「うん。それは勿論。それと写真撮ってるの、気づいてたからね。」

「あれっ。それもバレてたか。遠くから撮ってたんだけどなぁ。」

「姉さんが寝る時にそう言ってたから、僕はその時は気づいてなかったよ。」

「相変わらず、鋭いねぇ…楓ちゃんは。」


やまねは持っていた箱を谷口に渡す。


「ん、これって……」

「花形先輩からのプレゼントだよ。聖亜くんにも渡したよ…僕も貰ったんだ。」

「…そっか。ここで開けていいかい?」

「いいよ。」


やまねに見られながら、谷口は箱を開ける。中には紙が一枚入っているだけだった。その内容を読み、谷口は笑った。


「…これ、やまねちゃんと山崎君にも同じ物が入ってあったのかい?」

「うん、そうだね。」


ーーー『永久に我が臣下としていられる券』


「こういう所は本当に不器用だよね。我らが部長様は。」

「…そうだよね。」

「……ちなみに、山崎君はどういう反応をしていたんだい?」

「確か…『は?何当たり前の事を書いてあるんだあの部長は、せめて物とかくれよ』って。」

「…あはは、山崎君らしいや。」


顔を見合わせて、互いに笑った。

徐にやまねは上着を脱いだ。


「えっ…ちょっ…やまねちゃん、何どうしたの!?もしかして私の事が、」

「違うよ、谷口くん……ほら。」


上着の下にはサンタ服を着ていた。谷口は安堵した表情を浮かべた。


「お、驚かさないでくれよ。私が監禁されるよりも焦ったわ。」

「…折角谷口くんから貰ったものなのに近くで見せないのは何だか失礼かなって思って…。」

「ああ…そういう事。じゃあ見せて貰おうか。」


やまねの格好をじっと見つめる。10分が経過した。


「…もういいかな?」

「………。」


スカートの丈を短くする為に、あえてサイズを小さくしたが…ふっ。中々にいい。ピッタリではないか。


「た、谷口くん?目が怖いよ。」

「………。」


すね毛が未だに生えていない生足が見ていてとてもいい。これはもはや、至高の芸術作品だ。


「えっ……と。」

「……。」


ーー本当はやまねちゃんは女子なのではないか?こんなにサンタ服が似合うなんて、もうそれは男という性別を超越している。


「ちょっ…押し倒さないで……!」

「……はぁ、はぁ。」


確かめなければ、私の全てをもって今日こそ、やまねちゃんの全てを暴いて見せる。まず、その赤らめた頬を舐め、


「……ブッ!?!?」


腹を蹴られたと思った途端、庭園の池に顔面から落ちる。


「ね、姉さんっ!?」

「ブハッ!はっ、何が……」

「…不審者かと思いましたが、貴方でしたか。谷口くん…いえ、私の弟を襲うゴミ虫くん…でしたっけ?」


楓は冷たい目をしながら、谷口の方へと歩いてくる。


「いや、その違うんだ、楓ちゃん。これはあの、監禁されてたから性欲が暴発した結果と言いますか……。」

「そうですか、言い訳はあの世でして来て下さい………さようなら。」


(ヤバい!?これ本気で殺される……っ!?)


即座に谷口は土下座を展開する。楓は少し寝そうにあくびをした。


「……本来なら、そうするのですが。私は今凄く眠たいので、ゴミ虫くんの処理をするのがとても面倒です。よって後は貴方に任せます。」

「……いいぜ楓さん。その役、引き受けた。」


楓はそのまま自室へと帰っていき、どこからか山崎が現れる。


「聖亜くん!?もう帰ったんじゃ……」

「あー、忘れ物取りに来たんだ。鍵は楓さんが開けてくれてな……俺は嬉しいぜ。そのおかげでお前を本気でボコせる機会が生まれたんだからなぁ!!」

「ゲボッッッ!?!?私の究極形態がぁ!」

「土下座を究極形態とか言う奴初めて見たわ。おらおらっ……どこまで耐えれるかなぁ??」

「嫌っ!やまねちゃんっ。た、助けて…」


やまねはジト目で見ていた。


「…ごめんなさい。少し谷口くんは痛い目に遭った方がいいと思う。」

「…っっ!?やまねちゃん!!さっきの事まだ根に持ってるの?ねえごめんってぇ!?!?」

「はははっ!楽しくなって来たぁぁ!!」


30分程、谷口は山崎にボコされた。


「はぁぁぁ…スカッとしたぜ。今日はいい夢が見られそうだ。」

「…私をこんなにして、よく言えたね。」

「次、谷口に襲われそうになったら言ってくれよ。今度は息の根、止めてやるからよ。」

「…えっと、ありがとうね。聖亜くん。」


山崎は去って行った。ボロボロでびしょびしょの体を引きずって何とかやまねの隣に座った。

すでにやまねは上着を着ていた。


「はぁ、酷い目にあったよ。」

「僕も、ごめん。次からは谷口くんの前で服は脱がない様にするね。」


谷口はポケットからスマホを取り出す。


「防水で良かったぁ…そろそろ時間かな。」

「?どうしたの。」

「ごめんね…やまねちゃん。実は今ちょっと私、監禁されててね。ちょっと抜け出して来てたんだ。だからまた行かなくっちゃ。」

「そうなんだ…。新年には帰って来れそう?」

「悔しいけど、やまねちゃんの晴れ着姿は見れそうに無いなぁ……また来年って事で。」

「もう、晴れ着なんか着ないって。」

「絶対着たら似合うね。私はそう断言してあげるよ。」


谷口は立ち上がった。やまねは紙を渡す。


「はい、忘れ物。持って帰ってね。」

「そうだね……じゃあ、行ってくるよ。」

「いってらっしゃい。頑張ってね!」


やまねは手を振っていた。


(多分、なんかの冗談だと思ってるんだろうなぁ。でもいっか。)


谷口も手を振り返し、やまねの家を出た。少し歩いていると、金髪赤眼のおかっぱの少女が仁王立ちしていた。


「……時間よ、タニグチ。」

「へいへい、戻りますよっと。」

「ジェットチャーターを手配しているわ。そこまで行きましょう?」

「はぁ、面倒だなぁ。」

「っ!いいから行くのっ。」


そんな会話をしながら、2人は夜の闇に消えていった。
























 














































































































































































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る