くちづけの花嫁
しきみ彰
《上》
序章 双子の妹、夢を視る
あふれんばかりに咲くむせ返るような藤の甘い香りを嗅いだとき、
だってこれは、普段から彼女がよく視ている夢だからだ。
ふわりと、柔らかな風に巻き上げられて黒髪が揺れる。
「ねえ」
声に引かれて後ろを振り返れば、そこには見目麗しい人がいた。
美しい銀色の長髪が風に流されて煌めき、柔らかく細められていた金色の瞳がこちらをじいっと見つめている。
大輪の白彼岸花が浮かび上がる白い着流しに漆黒の羽織を肩にかけた姿は、それはそれは美しかった。
そんな彼が片手に持った煙管から、ゆるゆると糸のような煙がたちのぼり、空へとゆっくり溶けていく。
そんな現実離れした美しさから目が離せないでいると、彼がにこりと微笑んだ。
「僕の名前を呼んで?」
「……え?」
彼が、琴乃に向かって手を伸ばす。彼が、光の粒となって消えていく。
「何かあれば、必ず守るから」
「あ、の……」
「だから」
それらすべてが雪のように儚く溶けていく前に、彼の指先がかすかに琴乃の唇に触れ――彼女は確かに、彼の名を聞いた。
「僕の名前は、
何かあったときはどうか、僕の名前を呼んで――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます