自称天才、自称神と戦う②
「作戦会議は終わったかあ!? 〈紫電奔流〉!」
重力波で吹っ飛んでいたライが再び戻って来て、紫の電撃を放つ。
「おい本当にやっていいのか?」
クーロンは『アレ』を使っていいのかと悩み顔に不安が表れる。
ここでジニアが『アレ』発動までの一分を稼げなければ、それは彼女の死を意味するので残る戦力は一人。今のライにクーロン一人で戦えば勝率はゼロ。味方を一人犠牲にするかもしれないこの作戦は非常にリスキーだ。彼が悩む気持ちを理解しているネモフィラは「信じろ」と彼の肩に手を置く。
「あいつとの戦いは任せて。〈紫電奔流〉!」
迫り来る紫電にジニアは同じ紫電をぶつけた。
「〈
――さらに、一級には威力が劣る二級魔術を発動した。
ジニアが
自称神であるライの魔術は非常に強力なため、ジニアが使える一級魔術でも相殺は不可能。しかし二つの魔術をぶつければ相殺どころか競り勝つことも可能になる。
二級魔術〈剛落雷〉は上空に雷雲を生み出し、雷を落とす。魔術で生み出した雷なので自然のものより威力は劣るが、術者の意思で軌道を操ることが出来る。ジニアは真上に雷雲を生み出し、敵の紫電に向けて斜めに雷を落とした。
「……若さは可能性の多さ。信じよう」
一分稼げると信じたクーロンは小さな声で詠唱を始める。
やっと始めたかと笑みを浮かべたネモフィラはジニアの戦いを見守る。
電撃同士のぶつかり合いは、ライの放った紫電が先に途切れてジニアの電撃が競り勝つ。しかし衝突でエネルギーを殆ど使ったため、電撃はライに届くことなく空気に溶けた。
「……連続詠唱、か。その程度の小手先の技術で勝てるつもりか?」
「つもりだよ。〈
ライを中心として直径五メートルに闇の塊を生み出す。
何も見えなくなった彼は咄嗟に闇の外へ脱出するが――。
「〈
脱出した先には太陽のように眩い光が待ち構えていた。
予想外の強い光で再び彼の視界を奪ったジニアは魔力を高める。
「今だ、〈
大地が蠢く。ライの真下の地面に亀裂が走る。
地面から直方体の巨大な岩盤が二つ起き上がり、未だに何も見えていない彼を挟んだ。膨大な質量にプレスされたら生命に為す術はない。マッドスネークですら紙のような薄さに潰すのだ。
本来どうしようもない一撃。自称神だろうと死ぬ……とジニアは思っていた。
岩盤二つに徐々に亀裂が入り、広がり、岩盤が砕ける。
驚くべきことにライの体には軽い擦り傷が複数あるだけだった。
砕けた岩盤の一部が大量に雨のように降り注ぐ。
「〈
ジニアの魔術で竜巻が発生して、落下中の岩と共にライを呑み込む。
ただの風ならダメージはないが中には岩も飛んでいる。高速で飛び回る岩は中の生物を、まるでミキサーのように砕いて風が混ぜるだろう。殺し方としてはかなり残酷な方法となる。
「〈
高速で飛来する岩石の散弾を浴びながらもライは超級魔術を使用した。
効果は至ってシンプル。遥か上空に、無から巨大な岩を生み出すもの。
言葉にすれば簡単だが超級魔術は生易しくない。
空に出現した大岩は直径二十キロメートルを超えており、出現の余波か竜巻を霧散させて、周囲の雲を吹き飛ばす。まさに質量攻撃の極み。落下範囲から出たとしても、地上に落ちれば大地がひっくり返るように吹き飛ぶ。今更どこへ逃げても巨大岩が落ちれば確実に全員死ぬ。
「どうすれば、いや、超級魔術には超級魔術! コツは全然分かんないけど見様見真似で〈
空間が歪む程の重力波が空へと向かう。
落下していた巨大岩と岩石の山は重力で徐々に押し戻され、惑星の外にまで追いやられた。
上手く超級魔術が発動出来たのをジニアは嬉しく思うが、想像以上の魔力消費に驚く。ただの一級魔術を発動するより二十倍は疲れる。魔力量には自信があるジニアでも十回が限度だろう。
「……ライは」
「こっちだぜジニアちゃーん! 〈
遥か右方からライが飛んできて両手から灼熱の炎を噴き出す。
「〈
広範囲に広がる炎を止めるべく、巨大な氷塊が一瞬で道を塞ぐ。
氷の大陸を持ってきたように大きな氷塊だったが、非常に高熱な炎によってみるみる溶かされる。
「ぐ、ううう〈絶対零度〉ええええ!」
気合いを込めたジニアによって再び、先程より一回り小さな氷塊が炎を食い止める。
必死に防ごうとした結果、氷が全て溶けきる前に炎が消えた。残った氷は余熱で溶けた。
やったと喜んだ瞬間――胸を槍で刺されたような痛みがジニアを襲う。
「うぁ、ぐ、うう……こ、れは……?」
「当然でしょうよジニアちゃーん。連続詠唱は体に大きな負担が掛かるんだから、使いすぎは良くないぞ? ふふ、悔しがることはない。この僕に、この神に、五十秒でも戦えたことを誇りに思いなよ。でも負けは負けだ。さよならジニアちゃん」
急接近してきたライにジニアは対応出来ない。
胸の、心臓の奥の痛みがあまりにも強烈で呼吸すら出来ない。
「〈
生き残るために魔術を発動することなくジニアは、蛇のように伸びた赤い炎に呑まれた。
肌が焼かれ、髪が焼かれ、肉体の内側までこんがり焼き上がる。やがて肉体は炭と化し、骨だけを残して風に運ばれる。悲鳴すら上がらない短時間の出来事だった。
「うんうん、やっぱり火葬には二級程度の魔術が丁度良いね」
ライは「さて」と呟き、ネモフィラとクーロンの方向へ振り向く。
「次は君達の番だ。お望みの葬られ方はなんだい? 火葬? それとも土葬?」
ゆっくりと歩いて近付くライを見て、ネモフィラは力の入れすぎで握り拳を震わせる。
「……オレが何かしなくても勝利は確定した。けどよ、あいつに立ち向かいもしないで決着ってのは気分悪くなるぜ。大切な友達を殺されてよお、待つだけなんてオレには出来ねえええ!」
「〈火炎流〉」
走って敵に向かうネモフィラも炎の蛇に呑み込まれ、肉体が焼けていく。
「へっ、丁度、一分だ、ぜ」
火力は変わらず人間では耐えられない。ネモフィラもジニアと同じ最期を迎える。
一人になってしまったクーロンは二人分の骨を視界に入れて目を細めた。
「さあクーロン、最後にアンタだ。どうやって死にたい?」
「ライ、死ぬのは貴様だ。〈
クーロンが発動させた魔術の名を聞いた瞬間、ライの表情は険しくなった。
必死に魔術を阻止しようとライは接敵するが既に遅い。
クーロンの体は浮かび上がり、眩い光に包まれた。
* * *
ジニアとネモフィラは聖神泉のある野原で衝撃の事実を聞いた。
仲間だと思っていたライが不老薬を求める組織の一員だったのである。
「……え? ライが……オルン、チアド?」
「急展開かよどうなってんだよ。なあおい!」
「ああうんごめんね僕はオルンチアドの一員なんだよ。三百二十年でマッドスネークや組織構成員との戦いを見て、使えそうだったから同行しただけ。残念だけど今は君達に構う暇がない。どっか行っててくれ」
「……そんな、嘘でしょライ。私達を騙してなんかないよね!?」
必死に呼びかけるジニアに対して「うるさ」と呟いたライは彼女を殴り飛ばす。
突然の暴力に彼女は対応出来ず、ネモフィラも不意を突かれて蹴り飛ばされた。
「新たな部下ではないようだな」
「部下は死んじゃったし、人員補充出来たら良かったけどねえ」
野原に倒れたネモフィラの脳内で情報が整理されていく。
ネモフィラが理解したライの正体は完全に悪そのもの。
今まで共に旅をして疑惑を消しかけていたネモフィラは、自分の考えが外れるように願いながら叫ぶ。
「……お前、そうか。スパイダーの部下としてクスリシ村を襲撃し、その後スパイダーからマクカゾワールの資料を盗んだのは……マッドスネークの抜け殻を求めて、ジニアと森で戦った魔術師ってのはお前だな!?」
「おっとさっすがネモちゃんあったま良い。正解正解。因みに、実際にジニアちゃんと戦ったからこそ君達の同行を許可したんだよ。上手く利用すれば不老薬を作る手間が省けたり、ボスのクーロンを始末出来るかもと思ってさ。でも残念だよ。全員纏めて僕が始末しなきゃならないなんてね」
ライには友情がなく、あったのは打算のみ。
敵と知らず馴れ合っていたジニアとネモフィラは悔しく思う。
膨れ上がる怒りで歯を食いしばり、震える拳を握り、敵の打倒を考えた瞬間。
自分以外を出し抜くためにライが聖神泉へと走り出す。
「〈
「させん。〈
ライが発動するよりも早く誰かが魔術を発動した。
炎が一直線に伸びてライを呑み込み、彼は燃える苦痛に身を捩らせながら悲鳴を上げた。
「ぐぎゃあああああああ!? う、ぐう、バカなああ……夢の実現まで、あと、一歩だった、のに」
抜け駆けしようとした罰なのか、ライは骨を残して灰になってしまった。
ジニアとネモフィラ、そしてクーロンは愕然とする。
裏切り者が始末されたからではない。
驚いた原因は〈火炎流〉を使った魔術師の姿。
膝辺りまで伸びた長い黒髪、ゆったりとした白いローブ、顔立ちも服装も何もかもクーロンと瓜二つな青年が空中に居たのである。
「「く、クーロンが二人いいいいい!?」」
ジニアとネモフィラの悲鳴に近い叫びが野原に響き渡った。
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