9月 TOKYO STORY
第23話、ガラスの先の常識
「なんやちん?」「何しとるがん?」
「この前、雑誌でとったイケメン調べとる」
「ほんなんか?見せて、見せて!」
雑誌には横須賀のアメリカンな街並みを、90年代oldiesの服装で歩く男性の後ろ姿。
タンクトップで右胸にはドラゴンのタトゥーを見せる、その少し面長な横顔は、店先で渡されたソフトクリームを前に、歯を見せて笑っている。
「まんでいい男やねー」「やよねー。ほやけど、この人、建築家さんぞいね」「ほんなんか!?」「神さま、不公平やわ」「おいね」「この人、バトミントン部の先輩に似てない?」「ちご」「なしたてて!?」「これだから恋する乙女は」
2人の少女が夢中のこの見開き写真では、ペンキ無しの木製ベンチに座った彼がソフトクリームを食べていた。
季節を分ける祝日における、家族の会話が聞こえてくる。
「おかーさん、これ何?」「え?ああ、これ?なんだっけ、おとーさん?」「んあ?どれどれ、ちょっと貸してみんしゃい」
【平成XX年財団法人ADGJMPTZ主催◯◯市図書館設計コンペティション】
壇上には複数人の受賞者が立っており、その真ん中にはトロフィーを持った、短髪だからか、まだ青年としか言えない男性が畏まった笑顔で写真に収まっていた。
「おかーさん、これ、今CM出てる建築家さんじゃない?」「あら、ほんまや」「そやったわ、これ、建築家さんが初めて取ったコンペや」「え?そんなん知らへんし」「おとーさん、市役所職員やから、写真撮ったんよ」「ほんなら、サインもろてきて」「あの頃ならイケたかもしれへんが、もう無理やね」「青田買いしないと」「売れてから言うても、詐欺師扱いじゃ」「それって当たり前じゃない?売れたから応援してるだけで、なんの役にも立ってないじゃん」「こりゃ、痛いとこ突かれたわ」
写真の中の男性は、若さ溢れた強い眼差しとハニカミな笑顔で記録されていた。
少年の生徒手帳の中には、小さなプラスチックカードが入っている。その写真がプリントされているカードの中で、小麦色した肌で健康そうな彼が、真剣な顔で設計図を引いていた。
「お前、男のくせに生徒手帳にアイドルカード入れてるのか」「僕の尊敬する人です」「今、流行りだからな」「この人は違います。本当に建築家なんです」「建築家にゃ見えないが」「もういいですよね」「ああ、まあそのアイドルさんだって社会人だ、遅刻はしないだろ。尊敬しているなら寝坊するなよ」「違います!人身事故でこの時間なんです!」
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