第21話、BGM
「お前に会わせたい人がいる」
相変わらず、根暗な友人は唐突に私を物語の世界に巻き込んでいく。
「今度はなんだ?」
「お前のさ、あのコーヒー紅茶、意外と面白いなって思ってさ」
「あん?お前ら何やってたんだ?」
簡単に他の2人に説明すると、やはりゲラゲラと笑い始めた。
「真剣にバカをやるのが、マジ、お前のいいところ」
「洗ってないカップとか、新婚さんかよ」
イタズラを仕掛けようとしたことは黙っていた。だが、これだと俺がおかしな奴に思われる。言い直そうとした。
「いや、だから面白いんだ。教科書の中身が正しいかなんてわからないし、実際には機材とか色々進化しているんだから、別のアプローチができてもおかしくない。俺は疑ってなかった」
このバカは、イタズラしているような真剣な目でこちらをみてきた。
「ヘルシンキに今、叔父が来ているから、会ってみないか?叔父は新宿にある商工会議所の顔役の1人だ。お前の知りたいことの役に立つかもしれない」
リューベックからヘルシンキまでは、飛行機ならハンブルクから2時間、バルト海を横断するフェリーで30時間、コペンハーゲン経由の電車で26時間。
「なら、船で行く」
「は?一緒に飛行機でよくね?」
せっかくだ。バルト海横断なんてまずやらないのだから、話のタネには丁度いい。
「ぎゃはは。フラれてやんの」
「酔狂だな、ほんと。よっぽどこいつより変わりもんだ」
「コーヒー紅茶とか、片腹痛い」
「まあ、いいけどよ、来週末行けるか?」
「ああ、構わない」
コーヒーを飲みながら、蝋燭で軽く炙ったフランスパンを食べる。ここはバルト海貿易で賑わった港町。ノーベル文学賞の舞台でもあり、こいつはこの街にきた。
私はこの作品を読んでないが、歴史的な世界遺産の街であること、マジパンという食品で有名な街という二つの側面からこの街を選んだ。
石積みの歴史というマクロと、手のひらサイズのマジパンというミクロの対象で街が評価されているのが面白いと思った。
こいつらも行くのかと聞いたが、片方は論文執筆に、片方はライブハウスに、と相変わらず自由にするらしい。
こいつらとは必要以上に関わらない。だが、何かあれば助け合うし、暇があればナンパしに行く。そんな緩い連帯で結ばれていた。
「ここが1856年まで竜がいた海か」
透明度のない、暗い海に向かってひとりごちる。
ヨーロッパ最後のドラゴンは、バルト海にいた。そのドラゴンは灯台という文明の力に負けて、墜落してしまう。
太古から恐怖の対象であり、ある日、文明に負けたドラゴンは、今やワインにステッカー。アイコン化して人々の生活に再定着している。
『明日の待ち合わせについて』
そう、文字を叩いた。
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