第17話、よい品、よい考え
202X年11月某日 21時49分
僕は今、かなり酔っています。
「できないことをできるようにしたい」って課長は言うけど、会社である以上、それなりに忖度とか上下関係はあるし、こういった「出会いと別れ」もあります。
「課長、イケメンでしたね」
「その過去形は寂しいな」
課長、来年1月から東京にある製品企画本部に栄転になります。今日はここ名古屋の手羽先の店で少し早めの送迎会をしました。
「来年から東京ですね」
「なー。東京もど真ん中の虎ノ門」
「豆大福、毎日食べれますね」
「近くに岡埜栄泉があるんだよ。ほんとはモーニング代わりにしたいけど、朝、開いてない」←朝から食べるんだ・・・。
送迎会、ここまでになるとは予想してなかったんですけどね、僕。やっぱイケメンってだけあって人望あるんだ、課長←だいぶ失礼。
いろんな人が課長に会いたくて参加してくれましたし、参加が難しい人はデジタル色紙サービスを利用して言葉を寄せてくれました。
「それにしてもあの写真はないよな」
「あれ、女性陣から大人気でしたね」
経理部の課長が持ってきた入社直後の工場実習中の課長の写真。
写真には当時25歳の課長が、上半身裸にジャケットだけ羽織って、モデルみたいなポーズ決めて、左胸には翼マークのシールとか貼っていた。
「これ、なんで持ってんだよ!!」
「こういう場にこそ、だろう。エビデンスはきちんと提示しないと」
きらん!ってメガネが光って、いい笑顔です。写真の裏側には日付に状況がわかるように箇条書きが記載されています。
・工場実習3ヶ月目、初めての賞与で賭け麻雀。
・3万の負けの代わりにポージング写真。
・近所のカレー屋に行く。
・アンフィスバエナか伏犠か。
「あの、このアンフィスバエナってなんですか?」
「え、あ、ああ。双頭の蛇だよ。現実にもいるんだ、頭が2つの蛇」
「ベトちゃんとドクちゃんって知らねーか、若いの」
「え、ああ聞いたことあります」
「あなたはそういう言い方するから。あのね、頭が2つあるでしょ。だから2人の方向が同じ方向に向かっていないと、すぐに怪我したりして死んでしまうんだ」
「ああ、部長談話か。「価値観の合わせ方」、まあ「ものの見方」ってやつだな。今は社長とか上が現場に来ることが当たり前になったけど、俺達が入社した頃なんかそんなことはなくって驚いた」
「これがいいこと」「これが大切」ということを「現地現物」で伝えに来てくれたんだ、という3人はいいですが、話が繋がってないんですよねー。
「まあ、だから、入口の選択肢は複数あっていい。ただ喧嘩して、出口となる解を見つけるためにも同じ方向向いてないと、って話だな」
「でも、このシールだと向き合ってませんか?」
「そう、これさ、伏犠って知ってる?」
「うわ、でた、三国志マニア」←違ってました。
酔っ払いの長かった話を纏めると、同じ方向を見るのと、相手を見つめるのは同じくらい大切で、要するにみんなで認識を合わせて、未来を作ろう!って話でした。←2行で終わる30分。
「選ぶのはお客様。お客様の選択肢を如何に狭めないか、同業他社さん達含めて移動の自由に資する我々が「自由」を失ったらおしまいだよ。緊張と協調、競争相手って日本全体で見れば仲間だし、全産業でみたら全世界の我々は仲間。緊張感は必要だけど敵ではないよ。経理部と設計部だって緊張感はあるけど敵じゃないでしょ?」
「設計部と生産技術部もより良い製品を作りたいって方向は一緒だから喧嘩するんだ」
「あ、今、いいこと言ったって思ったでしょ?」←ポコスカ始まりました。
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