第12話、空をかける浪漫
小さなウズラの肉をほぐしながら、パンに乗せて食べていると、窓の外の緑が眩しい。
石を漆喰で塗り固めた建物は、石の部分が煙で燻されて薄いクリーム色になっていて、その外の緑と野ばら、太陽と、建物内の影のビビット感を背景とした、ところどころ擦り切れたピンクのテーブルクロスの上にあるウズラとパンと野菜スープという茶色い食べ物は、どこか現実的ではない気がした。
なんだろう、今食べている食べ物が「聖餐」に見えたんだ。なんでこんなところで「これ」を僕は「今」食べているんだろう?
「本日のランチ、イカ墨のリゾットです」
研修から戻って、無事に日本で働き始めた。スタンダードメニューはそのままに、日替わりなどは塩味をベースにうまみを引き出す引き算なバスク料理を意識した料理作り。
俺はスペイン料理を作りながら、休日は食べ歩きをして、よりよい料理や流行りの店の研究に費やしていた。いつか、自分の店を持つ。そう、決めていた。
そんなある日のこと。共有PCの勤怠画面を開いたら、こんな告知がポップアップされた。
『社内コンペ開催!入賞者は2年間国外で修行できます!』
ドクン
いきたい。あの太陽の下で、働いてみたい。
先輩に連絡して、今のトレンドを確認して試作を繰り返した。
今のトレンドは「家では作れない」「持ち帰り可能」「パーティ映え」「食べやすい」だった。俺は、ベースに魚の形のエスプーマにした白身魚を作成し、一口サイズの小さな塩味のパイを並べたレシピを作った。
「スイミー」の大きな魚と一緒だ。小さなパイはホタテやサーモンなどを詰め込んだ。エスプーマでパイが湿らないように、泡の表面は軽くあぶった。
持ち帰りの場合はベースを白身魚を混ぜたメレンゲにして、焼き上げるようにした。店の味とは違うところがこのレシピの売りだった。
まずはレシピを会社に提出し、次に実際に審査員に作った。そして、この一言を貰えた。
「3位おめでとう」
見事勝った俺は、会社の伝手を使って、バスク第4の都市サン・セバスティアンで働き始めた。
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