第13話【それから1週間〜初めての魔法〜】


 ウェーナの家に住ませて貰うことになってから1週間後、今日も俺たちは中庭で魔法の訓練をしている。


 この1週間の間、様々なこの世界の情報を知った。

 まず、今俺たちがいる大陸の名前は「ファスティ大陸」だということ。


 そして、今ウェーナの両親が魔法を教えに行っている中央大陸には、船を使わなければ行くことは出来ないということもな。


 ちなみにこの情報達は全て、みさとが町の人達の会話を盗み聞きして手に入れた物だ。

 正直なところこの驚異的な盗み聞きの力には、俺も凄く驚いだぜ。


 なんでもみさとはこの盗み聞きやカンニングだけで、偏差値60程の学校に入ったらしいからな。

 そりゃこれくらいのこと、朝飯前って訳だな。


 さて、先程言ったように今魔法の訓練をしている訳だが、1週間前の時とは違い、今はもう4人各自がそれぞれ自主練という形になっている。


 それをウェーナが見ていて、俺たちが助けて欲しい時に呼ぶという感じだ。


 (俺たちばかりにかまっていて大丈夫なのか?)と思ったこともあったが、どうやらこの時期は毎年教えてもらいたい人がいないらしく、暇だから問題無いんだと。


 それで、1週間毎日魔法の訓練を頑張っているのだが――俺は今も魔法を使えるようになっていない。


 いや、ウェーナから色々コツを聞いたりはしてみたんだが、やっぱりダメだ、コツを掴めない。

 そしてちなつも俺と同じ状況だ。


「あーダメだ、すまんウェーナ。教えて貰った感じにしてみたが全くだ。」

「またですか?全く、貴方とちなつさんは本当にセンスが無いですね。」


 俺はウェーナに声を掛けると、ウェーナは首だけ振り向いてため息をしながらそう言い、「みさとさん、くるみさん。少し待っていて下さい。」

 2人にそう声を掛けるとこっちへ歩いてくる。


 センスありありのみさととくるみはというと、今ウェーナに「サイコキネシス」を教えてもらっているっぽい。

 サイコキネシスって……それはむしろ魔法なのか?


「もうおそらく貴方が自分の力だけで魔力の玉を手に出すことは出来ないと思います。」

「じゃ、じゃあ俺は一生魔法を使うことが出来ないってのか……?」


 俺はピシャリと言い放たれた言葉に恐る恐る返すが、ウェーナは「そういう訳じゃないです。私は色んな人に魔法を教えているんですよ?これから最終手段を使います。」そう言うと、


「今から私がとうまさんの手のひらに魔力を送るので。それでまずは感覚を掴むところから始めましょう。」


 ウェーナの最終手段が始まった。


 ---


「じゃあ、始めます。」

「お、おう……」


 ウェーナはそう言うと俺の突き出した右手の手首を掴む。

 距離近いな、なんか緊張して来たぜ……


 すると、ウェーナが俺の手首を掴んですぐ、手の中に何かが入って来ているような感覚がした。


「なんか手の中に力が溜まって行ってる気がするぜ……!」

「当然です、私が魔力を入れているのですから。」


 初めて感じだ魔力の感覚に興奮する俺に冷たく返すウェーナ。

 彼女からしたら当然なのかもしれない。だが、俺からしたらこれは大きな一歩だ!


「すげぇすげぇ!力がどんどん溜まってくぞ……!」


 きっと手の中にはもう溢れそうなくらいの魔力が溜まっているのだろう。


 アニメや漫画で「力がどんどん湧いてくる」なんてセリフがあるが、それはまさにこんな感覚なんだろうな。


「よし、これくらいで十分でしょう。とうまさん、今です。」

「お、おう……!分かってる……!」


 こんなに魔力の感覚を掴んでるのはこれが初めてだ。

 ここで絶対成功させてやる!


 俺はウェーナが手首を離したところで目を瞑ると、手の中に溜まっている魔力を手のひらから出すイメージをする。


 ぐぬぬぬ……

 必死にイメージをするが――やはり上手く出来ている感覚が無い。

 ここまでしてもダメなのか……?


 しかし、そこでウェーナがいつも通りの淡々とした口調でこう言った。


「お、やっと出来ましたか。」


 ま、マジで!?

 俺は手に力を入れたまま恐る恐る目を開ける。

 すると手のひらの上には、透明な玉が浮かんでいた。


「で、出来た……!」


 俺にも出来たぞ……!28歳元ヒキニートだってやれば出来るんだ!

 だが、ここで安心しては行けない。まだ終わりでは無いのだ。


「じゃあとうまさん、そのまま頭の中にその魔力の玉がメラメラと燃えるイメージをして下さい。」

「おう」


 俺は手のひらの上に浮かぶ透明な魔力の塊を見つめながら、言われた通りにイメージをする。


 しかし、こんな時に限って余念というのは出てくる物だ。

 俺はそこでメラメラと燃える炎ではなく、先程のウェーナが自分の手首を握る場面を想像してしまった。


 すると、そんな考えはすぐに魔力に通じてしまい――


「はぁ……」


 透明な玉はドロドロのピンク色に変わり、瞬く間に消えてしまった。

 や、やっちまったよ……


「とうまさん、こんな時に限って何考えてたんですか?」

「べ、別にぃ……?」


 俺は無言の圧を掛けてくるウェーナから顔を背けて顎をポリポリと掻く。


 魔法を使えるようになるまでには、まだ時間が掛かりそうだった。

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