あなたへの好きを誓います。
上城 莉々羽
プロローグ
5月。高校に入学して、1ヶ月が過ぎた。
高校生活は特に変わったことはなく、勉強に部活に、普通の高校生活を過ごしている。
私は中学の頃から始めたソフトテニス部に親友と共に入部し、今日も部活を終えたところだった。しかし、教室に課題のノートを忘れてしまった私は、親友に部室で待っているように伝え、取りに戻ることとなった。
誰もいない教室に入ると、静寂の中、私の足音と時計の針が進む音だけが耳に届く。自分の机の中から忘れ物を取り出し、椅子を元に戻した後、私はそのまま外を眺めた。
私の席は、窓側の1番前。窓側の席は、私のお気に入りだった。本当は窓側の1番後ろがよかったりするが、私の名字から考えてそれはない。
グラウンドを見渡すと、部活を終えた生徒達が多数いて、1人で帰ろうとする人、2人で帰ろうとする人、数人で帰ろうとする人、人それぞれだった。
外を眺めながら私は一つ、ため息をつく。
…その時だった。
「帰らないのか?」
声がしたと同時に、教室が明るくなった。
入り口の方を見ると、そこには隣の席の彼が立っていた。隣の席といっても、授業中に隣の人とプリントを交換して答え合わせをしたりする時など、必要最低限しか話したことはない。世間話などは一切したこともないため、彼のことはクールで、頭がよくて、勉強熱心で、本をよく読むということしか知らなかった。
そんな彼に声をかけられ、私は驚きを隠せなかった。
「あ、いや…、今から帰るところ」
私のその返答に彼は何も言わず、彼はこちらに向かって歩いてきていた。
どうやら彼も、教室に物を取りにきたようだった。しかしそれは、今日の課題とは関係のない教科の教科書で、忘れ物は忘れ物でも、私とは意味が違うようだった。
「部活帰り?」
「うん、そうだけど…、えっと、そっちは?」
「俺は部活やってないから。委員会の仕事で残ってただけ」
「そうなんだ…」
彼が部活に入っていないことも、今知った。
彼と2人きりの教室は、いつもの教室とは別の場所のように感じていた。
「それじゃあ」
「うん、またね」
そうして彼は、私に背を向けて歩き出した。
彼に声をかけられ、少しだけだが話をしたからなのか、明日は自分から「おはよう」と声をかけてみようかと、私は考えていた。
そんなことを考えながら、彼の背中だけをただ見つめていると、教室を出る一歩手前のところで、彼は立ち止まった。どうしたのだろうかと、私は疑問に思っていると、彼はこちらを振り返った。
「誕生日おめでとう」
彼はそれだけ言うと、教室を後にした。
今日は私の誕生日なのだが、彼にお祝いの言葉をもらえるなど、思ってもみなかったことだった。私の誕生日が今日だったことも分からないはずなのだが、教室で数人のクラスメイト達からお祝いの言葉をもらったために、彼もそれを聞いてくれていたのだろうか。
「誕生日おめでとう」と言ってくれた時、彼の口角が一瞬だけ、ほんの少し上がったようにも見えた。
お礼を言えなかったため、追いかけてお礼を言わないとと思う反面、私の足は動かずに、それができずにいた。
なぜなら、「誕生日おめでとう」と言ってくれた瞬間の彼のことが、頭から離れなかったからだ。
「……明日、お礼を言わないと」
教室にはそう呟いた私の声と、時計の針が進む音だけが残っていた。
私はこの時、まだ知らなかった。
彼のことを、どうしようもないくらいに好きになってしまうことを。そしてこれから先、楽しいことも辛いことも起きる中で、私の隣には彼がいつもいてくれることを。これから隣の席の彼への気持ちが、私の中でいっぱいになってしまうことを、私は知る由もなかった。
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