第40話

その19

ムンバの村には割と早めに帰り着いたので、さっそくアズミと村はずれに行って、無属性魔法の使い方のテストをする。

魔物に対しては結構効果があるのはわかった。だが対人戦ではどうか? それに逆に我々に向かって使われたらどう対処するか? もう一つは何も正直に生活魔法のまま使わなくても、生活魔法に見せかけてバングルやタブレットから発動した方が効率が良い。ではどうするか?

取り合えずアズミに受けてもらう。

魔法技は火を使うのは危険なので、水で代用する。水だって顔に当たれば、視覚が利かなくなるので、そこそこ有効だと思う。

お互いに八相に構え、

「たー!!」

気合もろとも水鉄砲をアズミの顔めがけて飛ばし、刀は袈裟切りに振る。しかし、アズミはすかさず回り込むように飛び退って、避けて見せた。

「やー、これ、結構ヤバイわ。来るのわかってても、距離が近すぎる。ぎりぎりで避けられたけど、初見でやられたらこれ絶対食らっていたわ。」 

「この技に付け込まれるような弱点はありそうか?」

「多分、大きな欠点はないんじゃないかな? 1発避けて、次の魔力がたまる前に反撃っていうのは有るけど、避けながら反撃するのは難しい。

後は、魔力を爆食いしそうなことかな?」

「ほんとに魔力は爆食いなんだ。昨日から魔力をケチる練習をしているけど、5発撃つと魔力がすっからかんなんだよな。後の事を考えると、3発が限度のようだ。」

「バングルにこの魔法登録しておく? ちょっと火魔法と言うのがめんどくさいけど。」

「めんどくさいって言っても、チョチョッとシュミレーションを走らせれば済むんだろ?」

「ん~、色々あるのよ。短時間とは言え、バーナーみたいに炎を吹き出すのは、可燃性のガスか、液体状の可燃物を霧吹きで吹きだすか・・・・だけど、単純なのは可燃性のガスを吹き出す奴、ただ、調整できるのはガスの圧力と噴出孔、ノズルの形状ぐらいしか弄れないのよね。で、2mぐらい噴射すると、炎がばらけすぎるかも?

自由度が高いのは霧吹きタイプかな? 不燃性のガスで燃料を霧状に噴出して、ノズルの形状やガスの圧力、霧粒子の大きさとかで吹きだす炎の形を決めれば、あとは不燃性ガスに混ぜる酸素の量を徐々に増やしていけば、希望の火炎は再現できると思う。どちらにしろ、とにかくいろいろな燃料で試さなければならない。」

「う~、これを人間の脳細胞でイメージするのは無理だろう。燃料の分子構造に、ノズルの形状に、不燃性ガスって、窒素かな? それの噴出速度や拡散や、酸素濃度と分子構造のイメージとか、やっぱりバングルに魔道具化してくれ。」

「やっぱりそうなるよね。あと、こちらが受けに回ったときの対処だけれど、何しろ目の前でいきなり魔法を発動されるので、来るタイミングが判っていて、ぎりぎり避けられるってぐらい。できれば魔力を貯めている段階でこちらから仕掛けて潰して行きたい。」

「そうなると、事前に相手が何をやってるか判らないといけないか? 魔力探知で身体強化の時と魔力の使い方の違いが判るかな? 」

「それは試してみて、練習あるのみじゃない。」

と、言う事で、身体強化の時の魔力の動き方の違いとか、無属性魔法を打つ時の魔力のため具合とか、タイミングとか、色々サラッとやってみた結果、魔力探知を使って練習すれば、何とかなりそうと言う事で落ち着いた。

だいたい生活魔法でこんな事をできるのは、俺もアズミも魔力量ではトップクラスだから出来ることで、たいていの一般の人では魔力を集めるのに時間や集中力を使いすぎて、むしろ剣の動きの妨げになるはずだ。

夕食は昨日と同じ石造りのかまどの周りに集まる。このムンバは村としてはそこそこ大きめなので、よろず屋みたいな商店が2件ほどある。野菜と軟らかいパンはそこをはしごして買って、肉は昼間に捕まえたホーンラビットで、ちゃんとしたスープとシチューまで作って、ささやかながら酒まで飲めた。

シチューは前世の日本で仕入れたレシピ、俺とアズミで作った。酒が飲めたせいもあって、なかなかの評判良かった。だいたい依頼で遠出している最中にこんなにのんびり食事を作っていることは珍しいらしい。

「みんな、ちょっと聞いてくれ。」

ほぼ、食事が終わるころダンが声をかける。

「ええと、今日駆除した魔物の数だ。オークが20、オーガが13、ダークベアが3だ。ポイントとして数えると、オークが1匹1ポイントで20匹で20ポイント、オーガが1匹1,5ポイント、13匹で19,5ポイント、ダークベアが1匹2ポイント、3匹で6ポイント、合計で45,5ポイントだ。

依頼達成にはオークで60匹分、つまり60ポイントで良いわけで、オークならあと15匹倒せばいい。つまり、早ければ明日の午前中で依頼は達成される。

で、話はその後の事だ。依頼を達成したら、すぐに帰るか? それともここに残って魔物の狩りを続けるか、だ。

もちろん、残って狩りを続けても依頼として料金の上乗せはない。余分な魔石は持って帰って常時討伐依頼や魔石の売り払いで収入にする。」

「ちょっと悩ましいところだな。カナに戻っても、おいしい依頼が有ればいいが・・・・。」

「カナの周りでは魔物が少ないからな、手堅くいくならこの場所で魔物を狩った方が良いかも・・・」

「カイルとビートはどう思う?」

「どちらでも良いが、あえて言えばこの場所かな?」

「カナのギルドではまだ魔石を欲しがっているし、この村でも魔物は少しでも減らしたいでしょう。どちらでも良ければ、ここで恩を売っておいた方がのちのち良いかもしれん。」

「うん、話は分かった。じゃあ、あと二日ここに残って魔物狩りをする。

で、問題になるのがアズミたちだが、アズミたちは荷物持ちけん見習いと言うくくりで付いてきている。要するに無給だ。このまま日数を増やしても何の利益もない。そこで、依頼以上の余った魔石はアズミとカズも含めた7人で等分する。」

「ああ、それで良い。」

「アズミ達は剣の腕も立つし、普通に稼げるので問題ないと思う。」

「と、言う事で決まりだな。」

「有難うございます。それとちょっと、尋ねたい事というか、相談したい事が有るんですけど。」

”いや~、何となくだけど俺の言い方って、間が抜けている…気がする。”

「なんだ?」

「”ええと、(やっぱり少し間が抜けている気がする。)出来たら来年、間に合わなかったら再来年にでも、王都に行って魔法学校に入ってみたいと思ってます。で、金も要るし、なるべく早くCランクに上がりたいんですが、カナの町は周りに魔物も少ないし、拠点を移した方が良いですかね?」

「んん、ちょっと微妙だな。お前たちは見た目からして絡まれ易いから、Dランクのままよそに行ったら絶対絡まれるぞ。」

「Dランクは初級扱いだからな。その初級者を好意で面倒みるという理屈も付くが、Cランクならば一応一人前のスタンスなので、大きなお世話と突っぱねられる。」

「まあ、Cランクに上がってから移動するのが理想なんだが・・・」

「俺たちのような”ご隠居クラブ”で冒険者ごっこして気楽に過ごすにはカナの町は良い所なんだがな・・・・。」

みんなの意見を聞いてみると、拠点を移すのはCに上がってからの方が良いらしい。

「おう、ダンよ、そろそろあれが有るんじゃね、スタンピードの招集が。」

カイルが声をかける。

「何ですか? そのスタンピードの招集っていうのは? 」

「そう言えばそろそろ時期か? カズは聞いた事がないのか。魔物が増えすぎると暴走を起こして、町や村に雪崩を打って襲い掛かってくることだ。」

「それって、かなりヤバいんじゃないですか?」

「ああ、かなりヤバい。普通はそうならないように、魔物が増えると駆除して数を減らすんだが、場所によってはそれができない所が有る。今話してるのもそういう所で、山や谷が険しく、うかつに入り込めない。

いっそスタンピードを待って、平野に出てきたところを迎え撃った方が損害が少ないと言う事で、平地と森の境界に防御壁と砦を築いて、スタンピードを迎え撃つという町が有る。」

「やっぱり結構ヤバイと言うか、綱渡りみたいに感じますが。」

「確かに保証はないんだが、今の所は割と湧き出す量も周期も安定していて、めちゃくちゃ危ない魔物が出る事もないので、上手くいってるようだ。」

「それで、そのスタンピードが俺となんか関係が有るんですか?」

「それだが、周期はだいたい2年に一回、そのためにずっと兵士を大量に抱えているわけにはいかない。冒険者も基本自由人で束縛はできない。で、スタンピードが近くなると、周りのギルドに冒険者の大募集の依頼をかけることになる。

後方支援はともかく、魔物と戦うのは基本Cランク以上と言う事になっているんだが、なるべく人数を集めるために、ギルドの推薦を受けた者は、DランクでもCランク扱いで戦える。

で、問題なしとみなされれば、Cにランクアップされる。」

「なんか、随分ご都合主義な感じがしますが、そんな事やっちゃって良いんですか?」

「一部懸念する声もあったんだがな、

貴族の末弟なんかガキの頃から、剣術を正式に習っている事が多いから、冒険者登録した時点ですでにCどころかBぐらいの腕を持っていたりする。

通常DからCに上がるには依頼の消化の他に1年の活動期間が必要だが、Bの腕が有るやつを1年間もDにして置くのもギルドとしてももったいない、で、ちょうどいい救済措置と言う事になった。」

「へえ~、貴族が冒険者になったりするんですか? 」

「貴族と言っても、爵位を継げるのは一人だけだ。その他の兄弟は騎士を目指すか兵隊になるかだが、跡目相続のごたごたや、格式ばった生活を嫌って、冒険者になろうとするやつは一定数居る。とくに低級貴族の末弟なんか、家を出てしまえばほぼ平民だ。」

「ふ~ん、そんなもんですか。」

「まっ、そういう事で、ギルマスには話しておこう。あと言い忘れたが、村にはオークの肉を渡すことになっている。カズとビートが収納を持っているんで、5匹づつ入れておいてくれ。」

「じゃ、解散。」


**********************************************************************************自分の話がどこに載っているか探してみましたが、見つかりませんでした。

こんなに見つけにくい私の話を見つけて読んでくださった方に敬意と感謝をささげます。



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