第39話

その18

かまどの周りに、岩や丸太を並べて腰掛を作り、朝食のスープとパンをかじりながら、ダンの話を聞く。今日からの計画である。

「オークなら60匹、オーガで40、ダークベアだと30匹、それだけ倒せば依頼達成だ。森の中の事なので、魔物をせん滅させる必要はない。あくまで増えすぎを減らすのが依頼の目的だ。

達成には、いちおう三日の期日を予定している。

で、とにかく数を倒すのが目的なので、相手がまとまって出てくれるならば、こちらもまとまっていた方が良いが、ばらけて居たら・・・

七人がかりで1匹づつオークを倒してもらちが明かん。

で、様子を見ながらグループを分けていく、最初は4人と3人の2グループ、3人のグループは俺とアズミたち、もっとばらけた方がよさそうな時はビートとネルトスのグループとカイルとラムダのグループに分かれてくれ、さらに別れた方がよさそうなら、俺がアズミたちと別れて一人になる。基本的に二人一組だ。俺は別、うん。

オーガ、オーク、1、2匹ならば二人で問題ないと思うが、4匹以上の時は、それからダークベアと出会ったときは仲間を呼んでくれ。

長丁場だ、無理はするな。数が少なくとも疲れた時も仲間を頼れ。

以上、何にか聞きたい事はあるか?」

「ええと、仲間を呼ぶって、でかい声を出すんですか? あんまり遠くまで聞こえない気がしますけど。」

「おう、大事なことを忘れていた。呼子を配る。仲間の位置を知りたいときは長くピーだ。

仲間を呼び寄せる時は短くピッ、ピッ、ピッと連続で吹いてくれ。

他には?」

「・・・・・・。」

「じゃ、飯食ったら出発だ。」

村としては大きめの村だが、30分も歩けば森は深くなり、もはや魔物の領域になる。

やはり、森の浅い部分では出る魔物も少なく、出る魔物も弱いものが多い。と、言う事は、はじめグループを分散させて、奥に行くほど集中させた方が良いと言う事になる。

とりあえず3グループに分かれて、森の奥へ、方向の目印になるのはひときわ高くそびえる山の峰である。名前は・・・聞くのを忘れてしまった。

依頼にカウントされるのはオークレベルの魔物からであるが、ホーンラビットはともかく、ゴブリンやコボルトでも出てくれば倒さざるを得ない。三人で少し間隔をあけて、サクサク倒しながら進む。

今更ながらに感じることだが、この1、2週間で剣の腕が上がっている。魔力による身体強化と言うより、神経そのものの信号伝達のスピードが上がっているような気がする。

たしか、人間の神経の信号伝達速度って音速の三分の一程度で、思ったよりもけっこう遅かったような気がしたが、それが魔力強化によりスピードアップされたかもしれない。

なにしろ、ゴブリンやコボルトはともかく、俺よりもガタイのでかいオークでさえ、わざと隙を作りながら、切りかかってくるのではないか、と感さえじてしまう。

「前より動きが良くなってるな。カズ、ちょっと彼奴の相手をしてみろ。」

「ウィース。」

その辺の事はダンも感じたようで、はじめに出たオーガは俺に任される。

三年前、初めてオーガに相対した時はその大きさにド肝を抜かれ、振り回す金棒の風を切る音でさえ恐怖で、ただひたすら木立を盾に逃げ回っていたはずだが、今となってみると、その力まかせの大雑把な動きの、いったいどこが怖かったか、思い出すことすら難しい。

あまり舐めて掛かって、隙を作るような真似をしてはいけないと、自戒しつつ、滑らかにオーガの間合いに入ると、切りかかってくるオーガの剣を鞭のように体をしならせて躱しつつ、一瞬で”高橋長信改"の間合いに距離を詰める。

サッと振る刀はほとんど力は入っていないものの、オーガの手首と足首が一瞬で切り離されて、地響きを立てて倒れたオーガの首も一振りで切り離されていく。

”強くなった。” 客観的に見て、自惚れでなく、いや、自惚れはもちろん有るが、自惚れを差し引いても文句なく強くなったと言えるはずである。何と言うか、アズミの剣に似てきているような気がする。

「おー、カズ、腕を上げたな。魔力身体強化の成果か?」

「魔力を込めながら筋トレしてみたら、筋肉や神経の錆が落ちたような感じで、動きやすくなりました。本当のところは何が起きたかわかりませんけど。」

「カズゥ、カズの刀、貸して。」

ダンと話していると、アズミから声が掛かる。刃渡りの長い刀を振る練習をしていたが、実際に使って見るつもりになったようだ。

アズミは素振りを何回か繰り返してから、ぶっとい錆だらけの大剣を振り回すオーガに向かって行く。振り下ろすオーガの剣に吸い込まれるように距離を詰めると、パッパッとアズミの刀が煌めき、オーガの右手右足首が切り飛ばされる。

スーッと、アズミの刀が上段に持ち上げられると、位置を合わせて首を差し出すようにオーガが倒れこんでくる。振り上げられた刀が、白く煌めいて、スッと振り下ろされるとオーガの首が飛んだ。

「うーん、これは・・・・、アズミの奴、俺より強いんじゃねえか?」

ダンがうなる。アズミの剣は・・・・美しい、滑らかで美しい。オーガが唸り、暴れ、アズミ自身も気合を発しているのになお、静けさを感じるぐらい滑らかに刀を使う。

「おう、アズミ、ちょっとの間にずいぶん腕を上げたな。」

「はーい、私、頑張りました。」

どや顔でそれほどでかくもない胸を張ってみせる。

「頑張りましたって、俺の方がずーっと、頑張ってるんですけど。」

俺が思わず愚痴を垂れると、

「はい、はい、はい、カズ君は頑張った。何しろあのヘタレがここまで強くなったんだから、文句なく頑張った。アズミの前では霞んでしまうのが本当に残念だ。」

「そうよ、才能の欠片もないのに、人並み程度にはなったんだから、これはもう立派なもんよ。あたしの手助けが良かったんだからね。」

ダンとアズミに慰められるけど、いや、アズミには威張られてる。これ全然慰めになってないじゃん。余計落ち込んじゃうぞ。

「まあ、なんつうか、余計落ち込ませてしまったが、正直言ってカズも結構強いぞ。剣の扱いだけ言えば、B級の下の方には入るだろう。Bと言えば一応上級者だからな。」

まあな、俺も一応そんな気がする。アズミと比べると霞んでしまうけど。

「これなら、お前ら二人で十分だな。」

と、言う事でダンが一人で離れていくことになった。

昼飯までにアズミとカズでオークを4匹、オーガを3匹倒し、ダークベアが出たので、打ち合わせ通りに呼子を吹いた。

ダークベアはオーガよりもやや大きく、ブラッディーベアをひと回り小ぶりにした感じで、体がでかい分ダメージが通りにくいのと、力が強いので間違ってパンチをもらうと、こちらは即致命傷になってしまうが、スピードはオーガクラスなので、落ち着いて相手をすれば、特に問題はなかった。

仲間が来るまで二人でベアの相手をすることになるが、ダークベアの正面に立って、注意を引くのは俺の役である。ついでに昨日試した生活魔法を使って見る。

殴り掛かってくるベアの腕をかいくぐり、ベアの顔に炎を吹き付けながら腕に刃を立てる。至近距離から顔にいきなり炎を浴びせられたベアは、腕を切られた以上に怒り狂って、暴れまわったので、俺は慌てて距離を取るが、アズミはしっかりダメージを与え続けていて、足に3回も切り付けていた。

遅ればせながら、俺ももう1発ベアに切りつけると、すぐにカイルとラムダが来た。が、その時にはとどめを刺すだけになっていた。

ダークベアの焼け焦げた顔を見て、

「おい、火魔法を使ったのか?」

カイルに聞かれたが、もちろん無属性の生活魔法である。流石に無属性の魔法だと威力が小さく、顔が焼けていると言っても焦げているのは毛だけで、見直して見ると、やはりショボい。

みんな集まって来たので、昼食はここで取ることになった。

その辺の藪に潜って山菜を集める。ちょっとだけ色合いを付けて干し肉のスープの出来上がり、後はいつも通りの堅い黒パンである。

「カズが何か面白れーことやったって聞いたんだが…」

まあ、当然聞かれるよな。

「無属性の火魔法をベアの顔にぶつけてやりました。」

「ほう、でも無属性だと、ほとんど攻撃には使えないと思うが。」

「この前、ラムダとカイルの魔法を見て、刀と同時にぶつければ、牽制ぐらいにはなるんじゃないかと思って・・・・、俺もアズミも属性は持ってないんですが、魔力だけは結構あるんですよねぇ。使わないともったいないかな~と。」

「でも、しょせん生活魔法だろう? 効果あるのか? 」

「めちゃ嫌がって暴れるので、思わず距離を取りました。」

「私はお陰でやり易かったですねぇ。全然こっちには振り向きもしなかったので、やりたい放題でした。」

「ふーん、そんなもんかなあ。」

「まあ、目の玉をじかに炙られなければ、大したダメージにはならないと思いますが、顔に火をつけられるのは、なかなか嫌みたいで、手を切られるより暴れてました。」

「ふーん、現物見ないとわからんか・・・、村に戻ったら見せてくれないか。」

「はい。いいですよ。」

”蒼天の銀翼”も順調に魔物を狩っていたので、昼飯の後は大回りしてエリアを変え、魔物を狩りながら村に戻ることになりました。

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