第36話
お待たせいたしました。その15,やっと書き終えました。やはり私は書くのが遅いです。無理に早くしようとすると話がごちゃごちゃになります。
読んで下さった方にはご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。
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その15
今朝はやめにギルドに向かった。アジトにまだ残っていた50個ほどの魔石の処理と、ギルドの依頼を受けるためである。
”蒼天の銀翼”との次の合同依頼はまだ3日ほど先であるが、ギルドの依頼をなるべくこなしておかないとランクが上がらない。
せめてCまで上げて、もう少しまともな依頼を受けて、何とか小金を貯めこんで、来年には魔法学校にも行ってみたい。
いつも通り“カランコロン”となるドアを開けて、受付の美人のお姉さんに魔石を引き取ってもらう。
「あっ、アズミ、この前の依頼から、ちょっと、来なかったわね。」
初めてのころの塩対応から比べると、随分とあたりが良くなったが、声を掛けられるのはアズミである。仕方がない、こちらとしても美人さんにお愛想言われるのは慣れないので照れ臭いし。
「ところで、俺たちが受けられる依頼ですけど…。」
「ごめんなさいね、D になりたてだと、今は薬草採集しかないわ。オーガを倒したとは聞いたけど、魔物の駆除はもう一度ダンさんと組んだ時の話を聞いてからと言うことで。」
「ええと、地図とか有りますか? 薬草とか、魔物とか出そうなところが知りたいのですが。」
アズミが声をかける。
「近郊の地図は銅貨5枚です。薬草、魔物生息地は2階の書庫に書付が有りますから、勝手に調べてください。でも、文書や本の持ち出しは禁止です。よろしく!」
アズミと2階の書庫に上がって、薬草の分布と魔物の生息域を調べて、地図に落とし込む。今日受ける依頼は薬草の採集、同じ場所か、近場にワイルドウルフがいるところがねらい目。昨日までの合宿の成果をワイルドウルフで試したい。
「沙霧草か・・・。」
確かポーションの原料の一つだそうだ。ワイルドウルフの生息地の近くでとれる薬草となると、それになる。
ボードに貼ってある依頼の紙をはがして、受付に持って行くと、ちょうど”金龍のアギト”のマクロスが来ていた。
「どうも、先日はお世話になりました。」
うん、挨拶は大事、俺、一応年下だし、冒険者の後輩だし。
「おう、あ、うん。」
随分煮え切れない返事が返って来たが、そりゃそうなるわな。
「アズミもお世話になりました。アズミもあれから特訓しまして、もうワンランク強くなったんで、良かったらまたご教授願えますか?」
「うるせえ! バカ!!」
さすがに口八丁のマクロスも言葉が見つからないようで、さっさと逃げていった。
先日はひどい言われようだったので、このぐらいの皮肉なら許されるっていうか、この程度だったら、大人しいもんだよな。
「へえ、アズミちゃん、コーチする人を探しているのか?」
全然見た事も話した事もない人がいきなり話しかけてきた。この人、アズミを知ってるのか?
「いや、あれ、マクロスとはちょっと揉めた事が有りまして、今の話しは皮肉を言ってただけです。」
「そうよ、アズミちゃん、結構強いらしいから、ジャックじゃ無理じゃないかな?」
受付のビビアンさんの援護射撃が入る。
「へーえ、あんなちっこいのが強いのか?」
「この前、”蒼天の銀翼”のダンさんもうっかりしてると1本取られそうと言ってましたから、そのあと、ダンさんに教わったことを特訓して、もうちょっと強くなったので、多分ダンさんぐらいの腕がないと厳しいと思いますよ。」
「うそ~、アズミちゃんてそんなに強いの? 今度ヒマな時に教えてもらえないかな? 」
今度は別の若めの冒険者が口を入れてくる。まずい、これはまずい、グズな俺だけが絡まれるのかと思っていたら、アズミの方がもっと目立っていて、アズミの方がもっと絡まれ体質だったようだ。
さて? どうする?
「なにグズグズしてるの。さっさと行くわよ!」
アズミのアシストが割って入って、急いで逃げ出した。
沙霧草の群生地は北東2時間半の距離にある。ワイルドウルフのテリトリーはさらに1時間行った所にある。普通に歩いていては今日中に戻れなくなる。
北東に伸びる街道を魔力による身体強化で走り抜け、アドルの村の分かれ道をさらに北に走る。
身体強化の練習にはちょうどいいが、さすがにへばって、すぐに動く気にはなれない。草地にべったり座り込んで一息入れてから、奥の目立たないところに転移のためのポイントを設置する。
身体強化の練習はいいが、こんな状態で魔物が出てこられても動けない。とりあえず依頼が薬草採集で助かりました。
森の奥に進むと、山の懐に抱かれて小さな沼が見つかった。この沼の水はなぜか暖かく、山から下りてくる冷気と沼の温かい水が霧を作る。その霧が沙霧草を育てる。
沙霧草は株で生える。根を傷つけないよう、株のすべてを取りつくさないよう、一株の半分ほどを刈り取って、50本を一束にして、10束ほど作った。
それで今日の依頼は終了して、ワイルドウルフのテリトリーに向かう。1時間の距離は短いようで長い。この距離も走ると、ワイルドウルフとの戦いに影響が出そうで、仕方なしに歩くが、魔物を探す時間が削られそうで、それがもどかしい。
やっとワイルドウルフのテリトリーにつくと、そこはアジトの森と違って1mぐらいのブッシュがポツポツと点在する荒地であった。
「中途半端な灌木が中途半端に生えていて、何となくやり難いなあ。」
「うーん、時間がないから、今日はとりあえず、転移ポイントを設置しないと…。」
「見晴らしも良いような、悪いような、うまくワイルドウルフは見つかるかな?」
「明日からなら転移してこれるのでもう少し時間が取れるけど…」
結局レーダー魔術と自前の魔力の展開を併用して、5匹のワイルドウルフの群れを見つけるのでいっぱいだった。
「いつもとは違う戦い方だから、むしろ5匹ぐらいの方が都合がいいわ。
がんばってね。」
アズミの声援が入る。
ワイルドウルフの持ち味は集団の連係プレーである。連携して集団で襲ってくる魔物の群れを、いかにして取り囲まれないようにすり抜けながら、戦うか、その技の習得が狙いである。
そのすり抜け技の肝となるのが、前世的な肉体の強化と、今世的な魔力による肉体の強化による速度の強化、瞬間的爆発的な飛込、ダッシュである。
ワイルドウルフ5匹の集団の場合、正面からくるのは3匹、あとは右から1匹、左から1匹回り込んで獲物を取り囲んで倒そうとする。
こちらがさらに正面から向かっていくと、右と左のワイルドウルフはさらに回り込んで、右後ろ、左後ろに着こうとする、前方の3匹は右と左が少し間隔をあけ、前に出て、右前、左前に着こうとする。
完全な包囲陣形である。どのタイミングで、この陣形のどこを抜けるか、抜けた後陣形がどう変わるかの読みが肝となる。
包囲陣形ができる直前、猛ダッシュをかけて、左前の左をすり抜けながら刀を当てる。魔力をまとった”高橋長信改"の切れ味は凄まじく軽く刃を当てるだけで、体長2mもあろうかと思えるワイルドウルフの首が飛んでいく。
切り飛ばしたウルフを前から迫っていた魔物の盾にして、さらに左に回り込むと、左後ろに着こうとしていた個体に襲い掛かる。これを倒すと、残り3匹、こうなると、もはや群れとしての連係はばらけてしまって、手近のワイルドウルフから順番に屠っていけば、駆除は終わる。
やはり、5匹ではちょっと物足りない。
夕方が迫っているので、帰りは転移を使う。
翌日、さらに翌々日も同じ薬草の依頼を受けて、ワイルドウルフを屠った。確か3年前は3匹で一杯一杯だったはずだ。今だったら8匹ぐらいは行ける。つい、アズミと比べてしまって、全然強くなった気がしないが、愚図といわれる俺でも結構強くなっているのだ。
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