第9話
その8
「和雄様、お早うございます。訓練のお時間です。」
相変わらずのモーニングコールで目を覚ます。武術の訓練がある程度すすんだので、弱い魔物相手の実戦を踏まえて、抜刀と納刀の練習用の模造刀と真剣を造ってもらう。
模造刀は真剣の形をしたただの鉄の塊だが、真剣の方は”鉄砲切り”の二つ名を持つ高橋長信の分子レベルからのデッドコピーである。本当は国宝級が欲しかったが、親父のような無名の門外漢には国宝級のデーター取得はさすがに無理だったようだ。
攻撃用の魔法についてはウォーターカッターとレザービーム、レザービームはやたらに使うと森に火災を起こす危険が有るので、直接攻撃は対空用、地上攻撃は目つぶし用で威力を下げてある。大型の魔物は多分簡単には倒せないので、足を止めるためように“アリ地獄”と”液状化”を用意した。対象とその周囲全体の地面を高周波で振動させながら無数の空気か水を噴き上げ、底なし沼状態にして動けなくする魔法である。
ウォーターカッターであるが、はじめ使った時は水とガーネットの砂を使ったがガーネットではとてもではないが分子構造が複雑すぎてイメージが追い付かない。ならばダイヤモンドなら炭素原子の塊なので行けるかと思ったのだが、それでも原子量が12もある。要するに原子核の核子が12個もある。
12個もの核子をイメージするのがなかなか大変で、レディーにVRゴーグル用のイメージを作ってもらって、必死になって脳細胞に炭素原子のイメージとダイヤモンド結晶のイメージを刷り込ませて、ようやっと物になった。
出来るようになって今更なのだが、氷で弾丸を造って飛ばした方が簡単だったかもしれない。0℃の氷では柔らかすぎるだろうが、マイナス70℃まで冷やせば硬度は6、鉄の中でも硬いぐらいの硬度になる。硬度=強度ではないが普通の魔物相手の普段使いならばこれで十分だろう。
何よりレディーに頼らない自力発動の魔法を持っていたい。レディーに頼んでマイナス70℃の氷の分子状態と結晶構造のイメージを造ってもらう事にする。
魔法について色々やっていて気が付いたのだが、この世界って結構ヤバイんじゃねぇ、と言うのも魔法というのは科学的知識に対してかなり性弱なのだ。
レディーの力を借りればウラン235を造って原爆を造ることも、金や銀を量産して貨幣価値をグジャグジャにすることも簡単に出来そうなのだ。
もっと酷いのがダイヤモンドで、防御用の壁をいろいろな成分を含んだ土や岩で作るよりも炭素分子一種類だけのダイヤで作った方が魔法的にはずっと楽なのだ。この世界に生きる以上魔法の使用は必須だが、うかつに科学的知識やアプローチを垂れ流すとこの世界の仕組みを根底から崩しかねない。
とりあえずレディーの使い魔に、この世界で使われている魔法の情報を集めてもらって、できるだけおかしな魔法を使わないように注意する必要が有るが、ネズミとカラスでは情報集めが、なかなか難しそうである。
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