第8話
その7
「和雄様、お早うございます。訓練のお時間です。」この挨拶を聞き始めてからたぶんひと月にはなる。この世界の時間とか日にちの経過を気にしていなかったのは失敗だと思う。おかげで転生してから何日経ったかかわからなくなってしまった。レディーは知っていると思がきくのが何となく癪に障る。
毎日の訓練はだいぶルーチン化してきた。朝食前に腹筋をやって、朝食後一休みしてからランニング、うさぎ跳び、ローラー引きで足腰を鍛える。
連続して出来るほど体力はないので、あいまあいまに魔力操作と、魔法発動のトレーニング、あと瞑想もやる。
それが終わると武術の訓練になる。使用するのは刀、今のところ木刀を振り回しているが、日本刀になる予定である。
私の前世が日本人で日本刀に対する思い入れがあるのも事実であるが、異世界に渡った後の生活に配慮が十分でなかった。つまり武器まで考えが及ばなかった。しかし、日本の武術ならばむかし見たユーチューブのデーターが残っているので、刀の使い方とか、技の解説とか知る事が出来る。
と言うか親父がいくらか日本刀のファンだったので、分子レベルまで調べ上げてコピーしたもが幾つかある。と、言う訳で武器は日本刀一択になってしまった。
今は上段からの切り下し、袈裟切りで切り下し、切り上げ、全身鎧をまとって鎧に体を動かしてもらう。1度手本で動かしてもらった後は今度は自分で動きをなぞってみる。
上段からの切り下しだけでも刀の扱いは結構複雑で、構えの時、力は入れずほぼ支えている程度、始動は左手、ついで右手、頭頂から45度下がったあたりで、肘、握り手、剣先がほぼ直線になり、肘を中心に剣先が円弧を書いて振り下ろされていく。刀が地面と水平、肘がヘソの位置あたりまで降りたところで、右手をかぶせるように使い、膝をわずかに屈伸させて、刀をぴたりと止める。
刀を上下に振るだけでもこれ程めんどくさい。鎧と自分の意志とで体を交互に動かして、力加減や動きを自分の体に馴染ませていく。それでもひと月も繰り返せばだいたい様になってきたので、最近は型の練習も始めている。
ところで、この全身鎧だが、見た目は大げさでうざい感じだが、使ってみると意外と使い勝手がいい。軽いのもそうだが間違ってひっぱたかれても全然痛くない。
「レディー、この鎧いいなあ。」
自分の頭を木刀でゴンゴンしながら言ったら、
「ンでしょ、へへへ、複合素材のサンドイッチ構造ですわよ。」
とか言って腰に手を当てて鼻息を荒くする。思わず視線をずらして笑いをこらえて居たら、
「隙あり!!」
と木刀で頭を殴られた。”いきなり何てことすんだ!”ちょっとばかりイラっとする。レディーも鎧を付けていることを良い事に”キャーキャー”言いながらの追い掛けっこになり、木刀でドツキごっこをしてしまった。
まあ、運動能力ではとてもレディーに叶わない、でもさすがに体重体力では俺の方が勝る。殴られても痛くないのを良い事に切りかかってくるのを避けずに体当たりをかまして、馬乗りになってボコったら、
「そんなの反則です!」
さすがに思い切りふくれっ面をされた。いや、鎧や服をはぎ取っちゃったり、チューしたりはしてないよ。全然そんな気にならなかったとは言わないけど。レディーの奴、仕返しに、
「今日からメニューを追加します。」
とか言って、ふろ上がりのマッサージの前に柔軟体操を追加した。前屈なんかで俺が痛がって”ひーひー”言ってるのをニコニコしながらギューギュー背中を押してくる。たまにレディーの胸が押し付けられてくるのはうれしいけど、でもやっぱりレディーの奴は鬼だ。
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