第6話
その5
アメとくれば次はムチである。レディーが木刀を2本持ってきて、思い切り打ちかかって来いと言う。「そりゃー無茶だ!!」木刀だぞ!木刀!真剣ではないと言え、金属バットと大差ない。まともに当たったら頭がかち割られて命がない。頭が西瓜割になって、血がドバーである。まさか人間なんて壊れたら造り直せばいいとか思ってるんじゃねえだろうな~。まあ、レディーなら出来そうだけど。
全力で嫌がったら、まともにジト目でにらまれた。”ダメ男”とか”根性なし”とか思っているのが駄々洩れである。
それでも木刀の代わりにウレタン製の棒を持ってきたので、それ以上文句は言えなくなってしまった。本当は文句はまだある。ぽんぽんと頭をたたいて見れば分かるが、けっこう痛い。中に心棒が入っているのである。これで思いっきりひっぱたかれたら、オレ様泣いちゃうぞ。やっぱりレディーは鬼だ。
レディーと俺はウレタン棒を持って向かい合う。俺から打ち掛かっていくが、もちろんボコられた。小手を取られた1本は理解できる。俺とほぼ同時のやや遅れてレディーが刀を振り、俺の刀が当たる寸前に足さばきでレディーが後ろに下がれば、俺の刀は空を切って、打って下さいの位置に俺の腕が来る。それは良い、しかし、俺が先に動き始めているのに、俺の刀が半分も届かないうちにレディーに面を取られるのはどうにも納得できない。
「和雄様はもともと刀を振るスピードが遅いうえに、余分な動作が多すぎます。」
まず、刀を振る前、踏み込もうとする時に”さあ行くぞ”みたいな小さく予備のモーションが入る。刀を振り始めるときも同様で、そのまま出てくるのではなく、いったんちょっと後ろに下がってから振り始める。振り下ろす時、肘が円の中心になって、左手の握り、右手の握り、剣先が直線状に並ばなければならないのに、剣先よりも両手の握りが先に来て剣先がおいかけるように振れてくる。余分なのは動作だけではなくて、力もまた入りすぎで、刀の軌跡が波を打ってしまう。まあ、言い始めたらきりがない。
「自身の欠点をはっきり自覚してもらうために、いきなり打ち合いをしてみましたが、これだけ欠点が多いと、かえって逆効果になりました。」「弱い者いじめになってしまって、申し訳ありません。」
レディーに謝られてしまった。謝られてしまうと、これはこれでおのれの出来の悪さが身に染みて、なかなかつらいものが有る。返す言葉も思いつかず、つい黙ってしまう。
「お疲れさまでした。」
風呂の後、レディーが可愛らしくにっこり笑ってマッサージをしてくれた。鬼かと思っていたけど、レディーって意外と良い奴かもしれない。中身はコンピューターだけど。
「今日は本当にご苦労様でした。矯正すべき点が多々ございますので、今日中にしっかり検討を重ねまして、明日からのトレーニングに組み込んでいくつもりでございます。」
“フン!スン!”なんて感じで、なんとなくレディーの鼻息が荒い、難しい課題を与えられてかえってレディーのやる気に火が付いたような気がする。かわいい女の子の機嫌がいいのは良いことである。おのれのダメ男ぶりはこの際考えないことにする。と、言うわけでレディーのレディーによるレディーのためのダメ男君改造計画が始まった。
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