第5話
その4
「和雄様、お早うございます。訓練のお時間です。」
昨日と同じ言葉で起こされる。このAI本当にボキャブラリー貧困症か?と思ったけど余計なことは言わないことにする。
起きようとすると、筋肉痛で思わずうめき声をあげてしまう。よろめいて涙目になっていたら、レディーがマッサージをしてくれた。
クリームか何か塗ってマッサージしてくれたのだが、鎮痛剤か何か入っているようで、痛みがだいぶ楽になった。
レディーのマッサージは超気持ちいいので文句はないのだが、美少女にマッサージなんて言うのは風俗みたいで微妙な心境になってしまう。ほんと美少女なんだよな~、中身はただのコンピューターなんだけど、これで襲い掛かったりしたらどう言う事になるのだろう。
あとで後悔する未来しか見えないので、大事なところが元気になったりしないように、一生懸命気を紛らわせたりしているけど、このグジャグジャな気分レディーに筒抜けじゃないかと思うと何とも複雑な気分になる。
それでも朝飯前の腹筋は昨日と同じ60回、なのに昨日よりつらく感じたのは仕方がないのだろう。
食後は相変わらずのローラーゴロゴロとうさぎ跳び、体力強化は一日にしてならず。
「つらい事ばかり続けても気合が下がってしまうので、アメをあげます。」と言われてヘルメットをかぶせられた。
バイクのフルフェイスのような奴だが、バイザーの部分を降ろすと完全に遮光されていてVRゴーグルになっていた。
高さが2mほどもある岩の前に椅子を置いて腰掛ける。
「和雄様、深呼吸してリラックス下さい。」
「もう1度、お願いします。」「もう1度~、もう1度~、力を抜いて~、リラックス~。」
「これから私が和雄様の身体をコントロールします。逆らわないように、リラックスう~。」
最初に指先が少ししびれるような感じがして、次が足の指、頭が少し重くなったと思ったら軽い痺れが全身に広がった。やがて丹田が熱くなり、その熱が全身に押し出されていく。また熱が生まれ、押し出されを繰り返しているうちに熱が塊になり、心臓が脈を打つように全身に流れ始めた。たぶんこれが魔力なのだと思う。
VRゴーグルに高圧の水の噴射のイメージが現れる。噴流する水の流れにためらうように魔力が付いたり離れたりしていたが、やがてだんだん馴染んできたのか噴流が魔力をまとっていく。噴流がクローズアップされて、噴出する水の流れや、一緒に噴出している砂粒までが鮮明に見える。砂粒に意識を向けるとさらにクローズアップされ、結晶構造、さらにアップして分子構造まで、「えっ、Mg3Al2Si3O12にMn3Al2Si3O12とFe3Al2Si3O12って、これガーネットだよな?」「それも3種類も…。」
唖然としていると、水の分子までが魔力にリンクされ、魔力に染まる。とたんに体内の魔力が圧力を増し、右手が持ち上げられ、掌が岩の方に向く。
「ウテーッ!!」
俺の口がかってに気合か号令かわからない声を発すると、”バシュ!!”という音とともに魔力が飛び出すのが分かった。
少し右腕がジンジンする。ヘルメットを脱いでみると、5mほど先の岩肌にまだ水煙が漂っている。近づいて見ると岩肌に直径1cmほどの穴が開いている。穴の深さを知ろうと、ちぎった草の茎を突っ込んでみたが結構深そうだった。
「深さは50cmぐらいあります。魔力操作に慣れれば、倍ぐらいは行けると思います。」
レディーはそう言うが、問題はイメージの緻密さである。
「水の分子構造まで見えていたぞ。ここまでやらないと魔法は使えないのか?少なくともガーネットは3種類もいらないと思うが・・・。」
「ガーネットの3種類はともかく、取りあえずこれはこれで行きます。」
「今回のテストで気が付いたのですが、タブレット端末に保存されたイメージに魔力をリンクさせれば、魔方陣を使うような形で魔法を使うことができるかもしれません。そうすれば和雄様でもかなりの魔法を使う事が出来ると思います。」
「それから、イメージの緻密さですが、緻密にするほど魔力の消費が抑えられます。」
逆に言えば、科学的知識にもとづかないあいまいなイメージになるほど魔力を爆食いして、しょぼい魔法しか使えないとの事だ。
しかし、レディーの使い魔の報告によると、この世界の人の中には、そこそこ強力な魔法を使う人もいるらしいので、この世界で使われている魔法は我々が行っているのとは、違う方法で発動されているらしい。
なぜなら、この世界における科学力では、と言うかそもそも科学と呼べるものが有るかが疑問であるが、とてもではないが科学的に正確な緻密なイメージなどできようもないからである。
しかし、それを調べるにはカラスたちでは無理なので、我々自身が直接人々の中に入って調べるしか無さそうである。
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