第33話【ボーンウォール】

【クエスト005・完了】

ロバート・イーオーと契約を結べ。

成功報酬『障害物魔法・ボーンウォール』。

クエスト成功、貴方は報酬を獲得しました。


俺がウロボロスの書物を見てみればクエストが完了していた。防御魔法・ボーンウォールを獲得したらしいから後で実験してみよう。


まず今はロバート・イーオーの講義を聞いておくのが優先だ。彼は酒場の中で俺にギルドの仕組みを丁寧に講義してくれていた。だが、ロバートの話はちんぷんかんぷんである。何せ俺は会社でも無能扱いの駄目社員だったからな。馬鹿故に難しいことは理解不能なのだ。


そして、その実力が余すことなく発揮されていた。しかし、そんな無能な俺の代わりにチルチルが真剣に話を聞いていてくれる。これならば後々チルチルに訊いてから判断すれば良いだろう。マジ助かる。


「ギルドの仕組みは分かっていただけたかな、骨のアニキ」


俺はコクリっと頷いた。良くわからんかったが、とりあえず頷いておく。


そして、講義の話が一段落するとロバートが再び俺を冒険者ギルドに誘う。


「骨のアニキがうちに来てくれたら、速攻で幹部候補に俺が推薦するぜ。だからうちに来てくれよ!」


でもな〜。冒険者ギルドでしょう〜。俺は商人ギルドにも入りたいんだけどな〜。


そんな俺の考えを骨顔から読み取ったチルチルが発言する。


「御主人様は商人ギルドに入りたいのですが、冒険者ギルドと二股になると問題にはなりませんか?」


良くぞ訊いてくれた。チルチル偉い。


するとロバートが答える。


「安心してくれ。二つのギルドに加入することは禁止されていないし、掛け持ちをしている者も少なくない。ただ二つのギルドに加盟するってことは二倍の仕事をこなさなければならないのと一緒だからな。苦労も堪えなくなるぞ」


なるほどね。本職の他に復職を抱えるのと一緒なんだね。それはそれで大変そうだ。忙しすぎて俺の心が折れてしまうかも知れない。


まあ、俺の場合は時間が無限なのだ。仕事は時間を掛けても構わないから質を極めたほうが得策かも知れないな。ゆっくり焦らず確実に一歩一歩進んで行こう。


まずは足場硬めからかな。いつまでもショスター邸にお世話になり続けるのも如何なものだろう。自立して自分の住処を確立しなければならないだろうさ。そのためにも軍資金から稼がねばならないな。何せこの異世界では手持ちが乏しすぎる。


それにメイドを二人も抱えての生活だ。宿屋で一部屋借りるってわけにもいかないだろう。それなりの住宅が必要となってくる。


それよりも今はギルドの話のほうが優先か――。


俺はスマホの音読アプリに文章を打ち込んだ。それをロバートに聴かせる。


『商人ギルドを紹介シてもらいタいのだが、可能かナ?』


「ああ、もちろん可能だ。なんなら俺から紹介状を書いても構わないぜ」


それは有り難い。流石は兄弟だ。気が利くな。


「ならば明日にでも酒場に手紙を取りに来てもらえないか。朝までには用意しておくぜ。骨のアニキ」


俺はよろしく頼むと握手を交わして酒場を後にした。ショスター邸に帰る。


その帰り道で俺はボーンウォールの魔法を試してみた。使いかたの実験だ。


街からショスター邸の道中は長閑な道のりが一本続いている。この辺ならば人目にもつかないだろう。フィールド魔法を試すのにはちょうど良さそうだった。


ボーンウォールの魔法は念じるだけで出現した。射程距離は自分を中心に5メートルの範囲だった。地面から骨の壁が湧き上がってくる。その厚みは20センチ程度。幅は3メートルほどで高さは2メートル程度までだった。若干の操作で面積はコントロールできる。


何より特徴的なポイントは骨壁の表面に合った。ボーンウォールと言う名前だけあって壁の素材は骨である。しかも人骨だ。更にその人骨が動くのである。壁に練り込まれたスケルトンが骨手を伸ばして壁に近づく輩を掴んでくるのであった。まるで地獄の亡者のようである。


骨壁の強度を試そうとワカバに壁を蹴らせたがびくともしない。ダイエットバーで殴ってもスケルトンの骨が僅かに砕ける程度で壁全体が揺らぐことはなかった。これほどの強度ならば原チャリの突進ぐらいは軽く止められそうである。


そして、ボーンウォールを出していられるのは5分程度であった。制限時間を超えると骨粉と変わって散っていく。更に崩れ散った骨粉は微塵も残さず消えてなくなる。


まあ、魔法なのだから、そんなものだろう。


それから俺はショスター邸に到着すると客間のテーブルに座って考え込んでいた。何をしたら効率良く稼げるかを悩む。


窓から中庭を覗き見れば、まだショリーンお嬢様がメイドと一緒に遊んでいた。ベンチに座った二人が俺のプレゼントしたオルゴールで曲を楽しんでいる。どうやら気に入ってくれたらしい。良かった良かった。


そこから娯楽品の供給なんて良い商売なのではないかと考えた。この異世界の子供が見たこともないような玩具ならばいくらでも元いた世界の玩具屋に売っている。それを持ち込めば商品の補充には困らないだろう。


だが、お金を出すのは親なのだ。まずは親に俺が特別な商品を売っているってことをアピールしないとならないだろう。子供相手のネットワークよりも大人のネットワークのはうが広いのは必然だもんな。まずのターゲットは大人からだ。


そんなことを考えていたら部屋の扉がノックされる。屋敷の執事さんが昼食をどうするかと訊いてきたのだ。


どうやらショナサン伯爵も息子のショセフも仕事で出ているらしい。ならばと俺は食事を断った。


そもそも俺は食事を取らなくっても平気だからな。代わりに俺の分の昼食をチルチルに食べさせて上げようと思う。だから昼食を部屋に運んできてもらった。ワカバは街からの帰り道で道草をたらふく食べていたから要らないらしい。


それにしても本日二回目の昼食を食べるチルチル。案外とこの子は大飯喰らいなのかも知れない。平然と二食目を食べちゃったよ。



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