第30話【ロバート・イーオー】
テーブルを挟んで睨み合う俺たち6名。椅子にふんずり返っている中年冒険者が相手のリーダー格なのは理解出来た。
彼はテンガロンハットを深々と被って視線を隠しているが、帽子の鍔から見える顔はニヒルだった。咥えた紙タバコがよく似合う。
埃っぽい顔肌に深いほうれい線。口元には髭剃りで剃り残したかのような無精髭にはポツリポツリと白髪も混ざっていた。更には首にはスカーフを三角折りにして巻いている。洋風ファンタジーには似合わない西部劇風である。しかし、上半身は分厚い装甲のハーフプレートであった。
店内を見回してみれば、似たような格好の者たちが多く見られた。装備しているのは甲冑なのにテンガロンハットを被っているのだ。おそらく中年冒険者の仲間なのだろう。グループで衣装を合わせているのだと思う。
すると中年冒険者が姿勢を戻すとテーブルの上に置いてあったグラスに手を伸ばす。グラスにはウイスキーのような色合いの酒が注がれていた。それを一気に飲みほしてから中年冒険者が述べる。
「座りなよ、魔法使い。遠慮は要らないぜ」
俺は言われるままにテーブル席に腰掛けた。男と向かい合う。すると中年冒険者がマジマジと俺の顔面を見つめてきた。空っぽの眼底を覗き込んでくる。
「その昔に骸骨の魔法使いが、この街に訪れたって話しがあったが、本当だったんだな。俺はてっきり子供騙しの戯言かと思っていたのによ」
俺は中年冒険者が話す内容を無視して自分が酒場に入っだ目的を音読アプリで語り出す。
『私ハ人々の外食事情ヲ調べたくッて酒場に立ち寄っタのだがね。何カ食べ物ヲ注文してモ構わないかナ』
中年冒険者が俺を睨みながら脅すように述べる。
「ここには人肉料理は無いぜ」
『食事ヲ取るのは私デはない。メイドのチルチルだ』
「この獣人は、人肉を食らうのか」
なんでそうなる。食らうわけがない。チルチルは蛮族と違うがな。可愛らしいキュートな獣人メイドだそ。こいつ、人の話を聞いていないのか、無駄に誤解をするんじゃあねえよ。話がややこしくなるだけじゃあないか。
俺は手を上げて店のマスターを呼び付けた。そしてチルチルになんでもよいから食べるものを注文しなさいと告げる。するとチルチルは店のマスターに肉料理を注文した。
その間も向かいの三人は俺たちを睨みつけている。その時にだ。チルチルが肩から下げている鞄が輝いた。おそらく新クエストの発生だろう。
椅子に腰掛けている俺がチルチルのほうを見ると彼女は鞄の中からウロボロスの書物を取り出して俺に差し出す。俺は受け取ったクエストブックを確認した。
【クエスト005】
ロバート・イーオーと契約を結べ。
成功報酬『障害物魔法・ボーンウォール』。
なるほど、今度は障害物魔法か。名前からして骨の壁を召喚して相手の進行や攻撃を妨害するまほうなのだろう。ファンタジーではしばしば見られる嫌がらせ的な魔法である。
問題は依頼内容だ。ロバートって誰だよ。その人物と契約を結べだと……、それって難しくないか。
もしかして、眼前のテンガロンハットオヤジがロバートさんなのかな。この状況では、その可能性が一番高いかもしれない。
俺は音読アプリを操作して訊いてみた。
『貴方ガロバート・イーオーさンですカ?』
俺の問に中年冒険者は目を見開いて驚いていた。今までにない反応である。すると咥えていた紙タバコをテーブル席に押し付けて火を消した。
その途端であった。チャイナ服の東洋人が跳ねた。中年冒険者の頭を超えて俺に飛び掛かってくる。
「チェェエエエエエ!!」
東洋人の飛び蹴り。それは奇襲である。
普段から暴力的な喧嘩に縁のなかった俺には奇襲が飛んでくるなんて想像にも出来なかった。だから驚きのあまりに体が硬直してしまう。体が避けるも防ぐも反応しなかった。椅子に腰掛けたまま無反応になってしまう。
だが、俺の頭の後ろから鋭い蹴りが伸びてくる。その蹴りが東洋人の蹴り足と激突した。
踵と踵が烈しく激突して鈍い音を鳴らす。途端、東洋人の足がグニャリと曲がる。脛の辺りから変形したのだ。
そのぶつかり合いで東洋人が打ち負けて後方に飛んでいき豪快に壁に激突する。頭でも壁に激突させたのか、東洋人はそれっきり動かなくなった。
俺の頭を超えて蹴りを繰り出したのはワカバだろう。こんなことをするのはワカバぐらいだ。それにあれだけ靭やかで細い足なのに力強いのはワカバぐらいだろう。間違いない。
続いて顔面にバタフライの入墨を入れている長身の男がテーブル席を回り込んで走ってくる。その手には腰から抜かれた鋭利なナイフが握られていた。それをワカバに向かって突き立ててくる。
それに対してワカバは手の中に隠していたダイエットバーを伸ばして応戦した。
瞬時に伸びたステンレス製の棒に入墨顔の男が驚くと、ダイエットバーが右手首を叩いてナイフを払う。
更に続くワカバの反撃。太腿を鞭のように叩いた直後に入墨顔の顎を横殴る。その二打で苦痛に歪む入墨顔の男がグラリとフラつく。その隙をついてワカバはダイエットバーで床を突いて軸を作ると体を縦回転にバク転を見せた。そこからのサマーソルトキック。
顎をアッパー気味に蹴り飛ばされた入墨男が大の字で倒れ込む。その口からは泡を吹いていた。白目も向いている。
ワカバの瞬殺劇。一瞬の間に細身のメイドが二人の男を伸してしまう。
「ちょりぃ〜す」
ワカバは満足げに微笑んでいた。俺が向こうの世界から食事を持ってきたときの何倍も嬉しそうに微笑んでやがる。やっぱりワカバはバイオレンスが大好きっ娘らしい。
その瞬殺劇を見ていた中年冒険者が席を立った。そして被っていたテンガロンハットを取って胸の前に添えながら述べる。
「俺がお探しのロバート・イーオーだ。骨の魔法使い殿、何用かな?」
言った直後にテンガロンハットの鍔がポロポロと落ちて刃が露出した。帽子の鍔の下に刃物を隠していたのだ。
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