観察日記9


 7月2日。時刻は16:00。


 俺がトラックに撥ねられて死んだ日。


 そして、もうそろそろ俺が死んだ時間。


 多分……、俺は今日消えるだろう。


 何かよく分からないが本能的に、もうそろそろだ、という感覚がある。


 この訳のわからん生活も終わりを迎えるというわけだ。




 何気なく、窓から外を覗いた。


 哀しいかな、人生最後の日だというのに天気は最高によく、町全体が夕焼けの茜色に染まっている。


 このまま消えるのも名残惜しい。


 いや、そんな願いも贅沢か。


 俺は本来、トラックに撥ねられてすぐに死ぬはずだった。


 こうして意識を保てているだけ奇跡というもの。




 この部屋の主、紗和は普段通り朝に家を出て行った。


 彼女にとっては何気ない一日。


 特別なことは何もない。






 俺がただ、消えるだけ。










 徐々に体全体が軽くなる感覚がする。




 この世に未練がないと言えば嘘になる。




 一度くらい死ぬほどモテてみたかったし、彼女だってほしかった。


 それに……自分のことを病的なまでに好いている人が、この世には存在しているということを初めて知った。


 というか……紗和は特殊な気がする。


 にわかに同じ人種とは信じがたい。




 誰か一人のためにあそこまで狂えるものなのか?


 そして、その対象が俺でいいのか?




 いまいちよくわからん。








 よくわからなかったけど。






 少しは、うれしかった。








 俺が死んだと分かったら、きっと悲しむだろうな。










 もし。








 があるのなら。








 紗和に……。










 …………。












 ―――――――――――――――――――――――――――――








「よいしょっと」




 ベッドにダイブし、リュックをおろす。




 今日も今日とて慎太郎君が最高だった。


 もうなんていうか、今日の慎太郎君は可愛かった!!


 昼にお好み焼き(弁当)を食べていた!!




 ふつう食べる!?


 弁当にお好み焼きってチョイスする!?




 慎太郎君のソースまみれの口を思い出して愛しさが込み上げてくる。


 これは記録をしなければ……。




 あたしはおもむろにリュックから「慎太郎loveloveノートVo.11」を取り出し、今日の出来事を記録っ!!


 これは日々募る慎太郎君への愛情を書き込んだ秘密のノート!!


 誰かに見られたら終わる。あと死ぬ。




 このノートのページが埋まっていくたび、新しいノートになるたび、あたしは慎太郎君への思いが強くなっていくのを感じる……!!




 ガリガリとシャーペンをノートに走らせるのが、何よりの快感っ!!






「次はどんな慎太郎君を見れるかな……」






 明日が来るのが本当に楽しみだな。








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