観察日記8
7月1日。
いよいよ、俺も終わりらしい。
目に見えてそれがわかる。
なぜならば………。
「体が透けてきている……!」
こんなに分かりやすい成仏ってあるのか……!?
なんか知らんけど、体の所々が光っているような気もする。
分かりやすいし、心の準備もできるけど、ちょっと不安にもなってきた。
俺はこれからどうなるんだ?
死んだ魂とも呼べる存在となった俺は、これからどこへと向かうのか?
まぁ、死んですぐに行き着いた先は、この部屋だったわけだけど………。
「ふふふふふふふふふふふ」
眼前には気持ちの悪い笑みを浮かべている紗和。
もう俺にとっては見慣れたものだし、何なら今では顔から細かい感情も読み取れるようになってしまった。
ちなみに、今の紗和の感情は、「めちゃくちゃ嬉しい」。
今日も学校で、何か“俺”関係の出来事があったのだと思う。
なんだろう。
廊下ですれ違っても嬉しいみたいだからな、この子。
「可愛かったなぁ……、慎くん」
呼び方が「慎くん」になっているのは気にしない。
コロコロ変わるから。
ちなみに昨日は「たっちゃん」だった。
野球を始めなきゃいけないと思った。
「何度見ても可愛い……」
うっとりと手元のスマホを見ながら、紗和は恍惚とした表情を浮かべている。
今度はどの俺を隠し撮りしたんだ……?
彼女の後ろからスマホの画面を覗き込むと、額が真っ赤になって、困った顔をしている俺が写っていた。
廊下で急いで撮ったのか、ちょっと画像がブレブレだ。
あぁ~、なんかそんな出来事があった気がする。
数学で突っ伏して寝ていたら、聖痕のように額が赤くなったこと。
「我慢できない、待ち受けにしよう!」
シュバババっ。
うお~、早っ。
待ち受け、そしてロック画面でさえも俺の写真になった。
この子は今日も変わらず、俺への愛を持っているようだった。
しかし、その恋が叶わないことを誰よりも知っているのは、その思い人である俺自身。
何というか……、さすがに申し訳ない気分になってくる。
俺の命も、おそらくあと数日(の予定)。
彼女にしてあげられることは、もうない。
というか、生前の俺、ちゃんと気づいてあげろよ。
こんなにも身近に、好きになってくれる人がいたのに。
楽しそうに、心の底から嬉しそうに笑っている紗和。
なぜだろうか、俺はもう死んでいる。
消えゆく存在であるはずなのに。
消えたくない、と思った。
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