魔王からのラヴ・レター

@nobu1534

第1話

部屋から出て来たねねが縁側に座り込み、ガックリと肩を落とした。


そして力無く空を見上げると、大きく溜め息をついた。


(はぁー・・・

 またやってしまった・・・)


そんな言葉を心で呟くと、更に大きな溜め息が出てしまった。


・・・いつものことだった。


ここ数日同じことを繰り返しては、こうしてすぐに後悔することが続いている。


そんな自分に、正直ねねはウンザリしていたのだった。


その原因はというと・・・


ずばり、夫・藤吉郎の女狂いによる夫婦喧嘩にあったのだ。


ねねと藤吉郎は永禄四年の八月に晴れて結婚、夫婦となった。


当時としては珍しい恋愛結婚で、どちらかと言えばねねの方が藤吉郎に熱を上げていたようだ。


ただ、ねねが養子となった浅野家はれっきとした武家の家柄。


そのため明らかに格下だった藤吉郎を忌み嫌い、実母を含めた何人かはこの結婚に大反対であった。


それでも、ねねの想いは変わらなかった。


実母達を強引に押し切り、大恋愛の末に藤吉郎と結ばれたのである。


それから以降、二人はまさに二人三脚でこの乱世の時代を駆け抜けて来た。


ねねは陽となり影となり、常に夫を第一に思い支えていった。


藤吉郎もまた愛妻のために命懸けで奮闘し、その結果順調に出世を重ねていったのだった。


そして、遂にー。


天正元年、主君・織田信長より旧浅井領であった今浜を賜り見事城持ち大名に上り詰めたのである。


二人は泣いて喜び、大いなる幸せを分かち合った。


ところが・・・


一国一城の主になった途端、藤吉郎による生来の女狂いという悪しき病気が噴出していったのだ。


それまでも何度かねねの目を盗み他の女に手を出す事はあったものの、別段軽い遊びに過ぎなかったため大事に至ることはなかった。


しかし、城主になるとそれが一変。


もはや手に負えぬほどに、次から次へと侍女や下働きの女を手籠にしていき抱いていったのである。


初めは、ねねも仕方ないと思っていた。


大名たる者、子宝に恵まれなくては家が繁栄しないからだ。


だが夫が毎晩他の女を抱いていることに妻として、そして何よりも女として次第に耐えられなくなっていったのだった。


(私があの人の子を産んでいたら・・・)


何度この言葉を呟いたであろうか。


時には自身の体を呪い、悔しさに人知れず泣き崩れたことさえあった。


しかし、現実はかくも酷い仕打ちをねねに与えたのだ。


そんな妻の苦悩を知ってか知らずか、藤吉郎の女狂いは益々をもって手が付けられない状態になっていった。


二人の間にいつしか喧嘩が絶えなくなった。


言いたくはなくても、どうしてもねねの口からは愚痴が溢れてしまった。


ねねは見た目にもはっきりと分かるほどに追い詰められていたのである。


その矢先、ねねの自尊心をズタズタにする事件が勃発したのであった。


『なっ・・・何ですって!?』


その一言にねねは愕然とし、言葉を失ってしまった。


何と、藤吉郎はねねが最も信頼を置く侍女・藤乃にまで手を付けてしまったのである。


(もはや、許す事は出来ない・・・)


さすがに、我慢も限界だった。


怒り心頭のねねはこれをもってある事を決意し、即時決行に及んだ。


それは藤吉郎の意表をついた前代未聞の大作戦であり、そしてねねの人生に於いても大きな転機となる驚くべき出来事になるのである。

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