第33話 最初に出会った場所
「マリルさん、本当にありがとうございました」
「マリルのお婆ちゃん、またねー」
「私の方こそ、素敵な贈り物をありがとうございました。今度旅人さんたちがいらっしゃる頃には、外側の世界の手がかりを見つけてみせますから。ぜひ楽しみにしていてください」
地図を受け取った後、俺たちはマリルさんと別れの挨拶を交わす。
とても良いものをいただいたし、何よりマリルさんに届け物をしたことで喜んでもらえて良かった。
俺たちは雪景色や料理を楽しんだ後、道中の食糧を調達し、鉱山都市ゴーサムを後にする。
「ふう。マリルさんとも出会えたし、いい場所だったな、ゴーサムは」
「そーだね。寒いのはちょっとアレだけど」
「ははは。メロは大変そうだったなぁ」
「というか今もまだ寒いんだけどね。早くあったかい場所に行きたい」
そんな談笑をしながら俺たちは山を下っていった。
雪景色が少なくなるにつれてメロも元気が出てきたらしい。
ゴーサムにいた時よりも尻尾を振る頻度が増えていた。
「あるじ、次の目的地は王都なんだっけ?」
「ああ。三大都市もあと一つだな」
この旅を始めて、当面の目標にしてきたルシアーナ大陸の三大都市巡り。
それも残すところあと一つとなっていた。
「王都にはアルシード王もそうだし、お世話になった人が大勢いるからな。直接会ってお礼が言いたいところだ」
「そーいえばあるじ、いつも言ってたね」
「ああ。俺が魔王討伐の旅に出る時の始まりの場所だからな。色んな思い入れがあるよ」
そう声に出して実感する。
いよいよ三大都市最後の場所なんだなと。
とはいえ、旅の終わりという喪失感や哀愁感みたいなものは無い。
むしろそういうものなら魔王を討伐した直後の方があったと思う。
(三大都市以外にも巡ってみたい場所はあるし、他の大陸にも行ってみたいからな。それに、マリルさんの話では外側の世界も何か手がかりを掴めるかもって話だし。まだまだ行きたい場所がたくさんだ)
思えば色んな場所を巡ってきたものだが、俺はまだまだ旅を続けたいと思っていた。
「ふふ。あるじ、楽しそう」
考えが顔に出ていただろうか。
マリルさんから貰った地図を広げていた俺に向けて、メロが笑いかける。
(思えば、俺がメロと最初に出会ったのも、王都ヴァイゼルの近くだったな……。確か、王都近くにある『ツタール森林』の湖畔……)
「……」
「あるじ? どしたの?」
「なあメロ。王都に行くにも一日で行くにはちょっと距離があるし、久々に野外でキャンプでもしないか?」
「おー、いいね。メロ、きゃんぷ好き」
「なら決まりだな。ゴーサムで買ってきた食糧もあるし、今日は俺がメシを作るぞ」
告げるとメロの獣耳がピクピクと動く。
いつも通り、分かりやすい反応だった。
「ちなみにどこできゃんぷするの?」
「ああ。それはだな――」
***
「おー! 懐かしいね、あるじ」
しばらく草原を歩いて。
俺はメロと初めて出会ったツタール森林の湖畔にやって来ていた。
この旅を始めてすぐに訪れたロズオーリ湖に比べれば平凡といった感じの湖だが、それでも俺とメロにとっては思い出の場所だ。
爽やかな風に森の木々が揺れ、湖には小さな波が立つ。
何とも気持ちのいい風景がそこにはあった。
「もう5年前になるか……。ほんと、懐かしいな」
「あの時はメロもまだ子供だったねぇ」
「……それは今もだけどな」
俺と出会った時、メロは小さな子狼の状態だった。
魔物に襲われ傷を負っていたメロを見過ごせず、薬草を用意し手当てしてやったのだが、それからどうにも懐かれてしまい今のような関係になっている。
(そういえばメロが俺を『あるじ』って呼ぶようになったのもそのことがきっかけだったっけ……)
俺は昔のことを懐かしみながらバッグを下ろす。
「さて、陽が高いうちに野営の準備をしないとな。まずはテントを設置するか」
「がってんあるじ」
そうして、俺とメロは協力してキャンプの準備に取り掛かることにした。
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