第96話 蛙と蛇、どっちが美味しい!?
MOAへの搭乗訓練へ移れるかどうかがかかっている重要な試験ーー総合技術評価試験まであと一週間。
そんな中、俺たち一部の訓練兵は、試験前の最後の休日を使い、美咲基地から少し離れた林でキャンプを行っていた。
どうしてそんなことになったかというと、"俺"が原因らしい。
いや、原因なんて言い方は失礼だ。
みんな、総評験を踏まえて、こういう野外活動を全くしたことがない俺のために、こうして事前体験を計画してくれたのだから、感謝しなければ。
「太さが同じロープなら本結びで継いでも大丈夫だけど、太さが違う時は、ひとえつぎで結び、ます!」
「ありがとう! もう一度やり方見せて!」
「わかりました! よく、みててください!」
ここでも橘さんはほぼ付きっきりで、何も知らない俺へ手取りとり、色々なことを教えてくれていた。
もちろん、そうしてくれているのは橘さんだけではなく、
「じゃあたばっち、ここで問題です。どうして大きな木の下は設営場所にあまり適さないのかな?」
「えっと……落雷の心配があるため……?」
「オッケー! で、このキャンプは一応総評験を想定したものだから……」
鮫島さんが丁寧に説明をしている最中、近くから鋭いピープ音が響き渡った。
「ちょっと、蒼ちゃんなにやってんの!?」
「わ、悪い! ワイヤーに足引っかけちまって!」
どうやら蒼太は布設していた警戒線のワイヤーを切ってしまい、警報を鳴らしてしまったようだ。
一応、これは訓練の一環でもあるため、蒼太はテントサイト周辺へ、警戒線を敷いていたのだった。
「もう、気をつけてよね! そのワイヤーがクレイモアのやつだったら1発でミンチなんだよ!」
「こ、こえぇこと言うなよ……気をつけます……」
ーーなにもかもが未経験な俺にとっては、不謹慎かもしれないが、何もかもが新鮮で楽しかった。
でも、嬉しいけど、ちょっと困っていることもあるわけで……
「田端くん、みーっけ!」
「おわっ!?」
突然、傍から音もなく佐々木さんが現れ、俺の腕にまとわりついてくる。
少し離れたところで鮫島さんと一緒にいる橘さんの視線が痛い。
「私たち、これから田端くんにとって、とっても勉強になることするからさ! 総評験でも役立つと思うし!」
総評験に絶対合格したい俺にとって、今の佐々木さんの言葉は最上級の殺し文句だった。
「わ、わかった! 行くからちょっと離れてくれない!?」
「良いから良いから、ほらほら!」
俺はそのまま茂みの奥へと連れ込まれている。
するとそこには、ナイフを持ってかがみ込んでいる加賀美さんと井出さんの姿が。
「サッキー、田端くんの確保おっつー!」
「田端くん、いらっしゃい!」
「ぎゃ!?」
思わず情けない悲鳴をあげてしまう俺。
なぜなら、井出さんの手には、うねうね動く蛇が握られていたためである。
「やっぱ田端くんってこういうの初めてなんだ。可愛いっ!」
「佐々木さん、あの蛇をもしかして……?」
「これからみんなで捌いて、食べるんだよん! 総評験対策として!」
「そ、そうなんだ。じゃあ、勉強させてもらおうかな……」
正直なところ、気の進まないところはある。
でもこうしたことも、この世界で生き残って行くには必要なことなのだ。
頑張ると決めた以上、こうしたことにも真剣に向き合わないと、と心に決める。
「じゃあ、始めるね! ここで躊躇うと蛇を苦しませることになるから思い切って、一撃でね!」
井出さんが蛇の頭をナイフで落とそうとしたその時のこと。
なぜか背後から、ゲコゲコといった奇妙な音が聞こえてくる。
「た、田端さん! こ、こっちも、緊急食の参考になると、思います!」
後ろにいた橘さんは抱えたバケツの中をこちらへ見せてきた。
中では迷彩色をした大きな生物が蠢いている。
「その、カエルってもしかして……?」
「蛇は小骨が多くて食べずらい、です! カエルの方が、食べやすくて美味しい、です!」
「そ、そうなんだ……」
「でもさーカエルって水場が近くにないと捕まんないじゃん? まず蛇食覚えておいた方がいいと思うんですけどー?」
と、佐々木さんは不満げに唇を尖らせる。
「で、でも! まずは美味しいやつ、からの方が、田端さんの参考になると思いますっ!」
臆せず橘さんが反論を述べる。
すると、佐々木さんの眉間に皺がよる。
「カエルが美味しいって、それって橘さんのただの感想だよね?」
「……なら、田端さんに決めてもらいます、か?」
「それいーじゃん! 乗った! 井出! 私が捌くから、蛇ちょうだい!」
「田端さん、それでいい、ですね!?」
橘さんの妙に強い語気に、俺は首を縦に降らざるを得なかったのだった。
にしても、女の子たちが、カエルが美味いか、蛇が美味いかで言い争うだなんて……やっぱりここはとても過酷な異世界なのだと思う。
「オイオイ! そんな可愛い顔して、カエルとか蛇とか、残念なこと言ってんじゃねーよ!」
茂みの向こうから聞き覚えるのある声と共に、大きな影が伸びてくる。
「っと! ルーキーじゃないか! 久しぶりだな!」
「こちらこそお久しぶりです、中尉殿!」
俺は美咲基地に配属された初日に仲良くなった米兵のジェイソン中尉へ敬礼を送るのだった。
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