願い事

山広 悠

願い事

電車に乗っていたら、ガラの悪い輩が数人乗ってきた。

馬鹿の一つ覚えのように皆一様に髪を染め、フードを被っている。

その中の金髪の男なんかは、スケートボードを脇に抱え、顔にまでタトゥーが入っている。


絡まれると面倒なので、俺は寝たふりをして薄目を開けて観察していた。


馬鹿どもは優先席を陣取ると、座れずに困った顔をしているお婆さんを尻目に缶チューハイを飲みながら、大声で話し始めた。


内容は誰それの彼女と○○しただの、どの薬物が一番効くだの、駅前でバイクを盗んで乗り回しているだの、聞くに堪えないものばかりだった。


同じ車両に居合わせた3人の乗客もうつむきながら顔をしかめていたが、関わり合いを避け、誰一人注意する者はいなかった。


金髪がチューハイをわざと盛大に床にこぼし、茶髪がヘラヘラ笑いながら土足で座席に片足を乗せた時、俺は思わず

「死ねばいいのに……」

と呟いてしまっていた。


瞬間、男どもは話をやめて眉間にシワを寄せると、キョロキョロと辺りを見回し出した。

が、幸い席が離れていたこともあり、はっきりと聞こえはしなかったようで、「気のせいか……」と呟くと、また馬鹿話を再開させた。


その後も輩どもの傍若無人っぷりは続いたが、俺は次の駅で降りることもあって、もう黙っていた。



その時。


電車がものすごい音をたてて、急ブレーキをかけた。

と思ったら、次の瞬間にはみな空中へ放り出されていた。


スピードを出しすぎた電車が脱輪して横倒しになりかけていたのだった。


「死ねばいいのに」


期せずして俺の願いは叶うこととなった。


でも…。


俺自身ももう二度と願い事ができなくなってしまいそうだな……。

そういう意味じゃなかったんだけどな…。


空中を舞いながら俺はそんなことを考えていた。


それにしても、死ぬ前って本当にスローモーションになるんだね。

走馬灯は見られなかったけど。


変に冷静にそんなことも思っていた。


あ、ヤバい。

本当にもう駄目だ。

いよいよ天井にぶつかる!


覚悟を決めたその時、

すぐ近くにスケボーが浮いてるのが目に入った。


あの金髪が持っていたやつだ!

俺は急いでスケボーを手繰り寄せると空中で乗った。


次の瞬間。


ギャギャギャギャーーー!!!!


ものすごい音をたてて電車がクラッシュした。


間一髪。


クラッシュする直前に、俺はギリギリで窓から外に放り出されていた。


さらに幸運なことには、スケボーが激突時のクッションとなってくれ、足の骨折はしたものの、何とか一命を取りとめることができたようだ。


線路脇の草っぱらで、仰向けになって激しい痛みに耐えながら、

「願い事は慎重にしなくちゃな…」

そう呟いたところで、俺は意識を失った。


遠くにあの困った顔のお婆さんの姿も見えた気がした。


                    【了】



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願い事 山広 悠 @hashiruhito96

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