優しさの先へ

ラグランジュ

第1話 思い出の海へ

 小さい頃、家族で夏になれば海に。裕福ではなかったので、安い民宿に泊まって。


 楽しかった。ただ楽しかった。旅行というだけで眠れない。高まる高揚で。


 感謝して、感謝して、今思えば子供を旅行に連れて行くのは準備や体調管理が大変だったはず。


 あの夏の海はどこだったんだろう?鮮明に海の周辺の様子は覚えている。


 どうしても行ってみたいが、地名や場所が解らない。なんせ、たくさん行った海の一つだから。両親も覚えてないらしい。当たり前だね。


 そんなことを考えて、冬の公園のベンチに座って、思い出を楽しんでいると、目の前のベンチに座ってる、おじいさんが何やら困ってる。


聞いてみよう。それにしても寒い…


【おじいさん、何か困ってますか?】


おじいさんは、


【ああ、すみません…小銭落としてしまって、屈むのも腰が痛くて…】


そういうことか…


【探しますよ…足元付近ですね】


……あっ、100円と50円……これかな?……


おじいさんにお金を見せて、


【150円ありましたよ。このお金でしょうか?】


おじいさんは、


【ありがたい…ありがとう。それで自販機でホットコーヒー☕を買おうと思っていたんだ】


かなり腰痛そうだな…代わりに買ってこよう。


【代わりに買ってきますよ。何か指定ありますか?微糖とか、無糖とか】


【ご親切に…ありがとう。何から何まで。無糖をお願いしたいんだが…】


【解りました。無糖ですね】


……自販機……あった。かなり遠いな。


 無糖か。俺も小銭持ってたよな?温かいの買おうっと。俺も。


 おじいさんの小銭…これって、ほそぼそと年金で生活としているお金だよな。使わせたくないよ。


よし!!これでいこう。


【おじいさん、はい、コーヒー☕と150円お返しします】


【???はて、コーヒー☕を買うのに使ったんじゃ?】


【実は俺もコーヒー☕買ったらね、ルーレット当たって。だから、おじいさんの150円使わなかったよ。それに、俺、2本も飲めないし】


おじいさんは、コーヒー☕と150円を手に取り、


【あなたのラッキーを分けて貰って、すまないねー。でも、本来なら買いに行ってもらって当たったなら、私の150円を使って当たったことにすれば良かったんじゃないかな?】


……考えもしなかった……


【まぁ、いいじゃないですか?とにかくおじいさんは、俺が当たったから、ラッキーのおすそ分けってことで】


【なるほど…そうか…お前さんなら任せてもいいかな?間違いなく有意義に…あなただったのか…】


【おじいさん、どうしたんですか?】


【これを…是非受け取ってほしい】


【何ですか?これは…クリスタル、水晶🔮】


 受け取った瞬間…目を開けられないほどの光に包まれた…


気がつくと…どこだ?ここは?




……………………………………………………………




眩しいな、ここは。それに暑い。


【大丈夫ですか?】


誰かが、話しかけてくれてる。ちょっと待って。


クラクラして、少しの間…


【あのー、何か飲み物持ってきましょうか?】


【すみません、お願いします…】




……………………………………………………………




【はい、麦茶ですが、熱中症にはいいんじゃないんでしょうか?】


 熱中症?俺、熱中症になってたの?夏はとっくに過ぎたけど、ここは真夏のように暑い。確か、おじいさんと公園にいたけど、どこ行ったのかな?


【すみません、いただきます】ゴクゴク…ふ〜、


落ち着いた。えーと、海?海岸?どこ? 


ん?


目の前に、一人の女性が、おおっ!!綺麗〜


女性は、俺に、


【この暑さで、その格好は、エキストラさん?どこかで撮影してるんですか?】


 それは、あなたのことですよ。この季節にタンクトップとミニスカートって。でも、確かに暑い。


【えーと、まずは、飲み物ありがとうございます。そして、ここは海ですよね?暑いんですが今日の天気予報はこんなでしたっけ?】


【大丈夫じゃないですね?ライフセーバー呼んで…】


【ちょっとちょっと、ライフセーバー?夏?冬ですよね?


【ふふっ、面白い人…意識はあるようですね。大丈夫かな、そんな冗談言えるなら。はい、とにかく脱いて脱いて!!そんな格好ではまた倒れますよ】


 えー、いきなり脱がすの?ボロボロの👕見られちゃうじゃん!!あーあ、見られちゃった…


【この季節せめて、👕になってくださいね】


【すみません!教えて下さい。私はここで倒れていたんですよね?その前どこにいましたか?】


女性は?キョトンとして、


【それってナゾナゾ?】


ナゾナゾじゃなーーーーーい!!


【んー、困ったな~】


【その民宿で良ければ、少し休んていきませんか?私の両親が経営してるので、部屋は空いています】


訳わからないが、お願いしようかな?



 少しずつ落ち着き始め、何となく海を見渡すと、

何か記憶が呼び起こされるような、何故だろう?


 この海辺、海岸、風景、すべてにおいて…ここは、あの場所なのか?もう少し冷静に…冷静に…


 うん。ここは俺が、どうしても来たかった海だ。間違いなくここだ!!でも、何で?


突如として、こんな場所に来るってことは?


 あー、なるほどね。うんうん、タイムスリップとかタイムトラベルとかなんだね。じゃ、時間も異なるはずだね。カレンダーや、スマホの日付は…


 変わってない?どうして?今日公園でおじいさんにコーヒーを渡した日付だ。同じだ。だとすると、タイムトラベルとかではない。


 別世界に飛ばされたか?いずれにせよ、この手のことはよく解る。映画とか本とか好きで読んでいたからね。慌てることはない。


 それにしても、俺の記憶凄いな!!この海の記憶と何一つズレてない。何一つ…それも不思議だ。


 記憶力に自信を持とう。とりあえず帰るか。両親にもこの海のこと自慢しないとな。



【すみません〜お世話になりました。実家に帰るので…お金の支払いを…】


 ヤバっ、カードしか持ってない。こういうとこ現金のみとかあるんだよな。


誰かいるかな?


 先程の女性だ。ほんとに綺麗な人。見惚れてしまう。不思議だな〜照れるという感覚すら通り越して…目が離せない。


【もう大丈夫なんですか?】


【はい、ご親切にありがとうございました】


【何もしてませんので、お会計は不要ですよ】


【そんな、申し訳ないです…気持ちだけでも】


【じゃ、麦茶代の150円だけ】


【そんなんじゃ…でもカードしか…小銭!!少しあったかな?150円…これでいいんですか?】


【はい、今度は是非泊まりに来てくださいね】


【来ます!来ます!絶対に!】


女性はクスッと笑って、


【お気をつけてお帰りくださいね】


【はい。ありがとうございました】



 ふー、緊張〜、俺には釣り合わないな、素敵過ぎる。あの女性の彼氏…もしかして旦那さんいるのかな?羨ましいな。



 さぁ、海も見れたし、実家に帰ったらすぐに報告しないとね。



 電車を乗り継ぎ、実家へ。意外と遠かったな。各駅停車だからか…特急券買うほど余裕ないもんな。



【ただいま!!お袋!!あのさ、海見つかったよ!!それがさ、俺公園にいて…お袋?どうしたの?】


【あの、どちら様でしょうか?】


【何言って…それ、ドッキリ?つまんないよ】


【…少しお待ち下さい…】


 お袋?何のドッキリだよ。もう!!俺は海のこと伝えたいのに〜


親父だ。珍しく家にいたんだ!!


【親父、海見つかったよ。お袋はドッキリでもしようとして…親父?どうした?】


【あんた、誰だ?】


【もう、二人して…あのさ、海のこと…】


【とりあえず出ていってくれないか?】


親父?…何?


【しつこいと警察呼ぶぞ!!不法侵入で!!】


【ちょっと、俺だよ!!】


【早く出ていけ!!子供のいない家庭で詐欺はひっかからん!】


お、親父…お袋…


【お父さん、この人困ってるよ】


【困っていても、怪しい人物は家に上げるわけにはいかないぞ!!ほら、出ていけ!!!】


マジ…これ?ここ実家だよ、俺の。


とりあえず玄関出て、表札を。合ってるじゃん!!


 そもそも俺がお袋や親父の顔忘れることなんて、ないだろ…泣きたいよ…もう。


暫くしょぼんとしてると…


 お袋…出てきてくれた…その後ろで仁王立ちの親父が…



【あんた、お腹すいてるんじゃない?これ良かったら食べて。私はあんたが悪い人には見えないから】



【ありがとう…う…うっ、お袋…😭】



これドッキリじゃないの?長すぎるよ、こんなの。


おにぎり🍙温かい…泣けてくる。



俺どこ行ったの?








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