第7話 ソロモン72柱
「これに書かれているのは、72体の悪魔達だ。人間からは”ソロモン72柱”とも呼ばれている」
「ソロモンって何?」
「ソロモンというのは、ソロモン王のことだ。古代イスラエルの第3代の王。ソロモン72柱というのは、そいつに従っていた悪魔のことだ」
驚いた、悪魔でも誰かに従うなんてことあるんだ。
それを見透かしたかのようにして、アモンは話し始める。
「もちろん、ちゃんと従わずにサボった奴もいたぞ。でも、そういう奴だけじゃあない。優しい心を持つ悪魔だって、案外いるもんだぞ?」
アモンは付け足すようにして、「3ページを開いてみろ」と言った。私は言われるがままに、そのページを開く。
だけど、なんの文字か一切わからない。何語なのだろうか、これは。
「……あ、すみません、わかりませんよね。少し目を閉じてもらえますか?」
言われるがままに目を瞑ると、ウァサゴは私に近づき、そっと額に手を当てる。数秒、パアッと白く光った。そして、終わると同時に彼女は手を離し、私に目を開けるよう指示した。
「あれ、読める」
先程まで一文字も読めなかったのに、目を開けた途端、全ての文字が理解できた。まるで、日本語を読んでいるよう。
「ちょっとした術をかけました。一種の催眠術のようなものと思ってください」
「へえ……」
こういうのは、一体どういう原理で使えるのだろう。悪魔の力というのは、実に不思議である。
読めるようになったところで、私は言われたページに目を戻す。そこに書かれていたのは、私のすぐそばにいる
ウァサゴ:ゴエティアにおいて序列3番目の地獄の君主。
過去・現在・未来の出来事に詳しく、隠されたものを見つけたり、女性の愛を
召喚時にどのような姿で現れるかは不明である。
ウァサゴは「慈善な性格」である。
「慈善な性格」……。なるほど、それなら彼女が穏健派であることも、私を助けたことにも納得がいく。
「って、私のページ読ませたんですか?」
「一番身近にいる奴のことを知った方がいいだろう?」
ウァサゴは「そうですけど……」と口ごもる。少しばかり頬がピンクに染まっていて、なんだか気恥しそうだ。
「アモンのことも書かれてるの?」
「ああ、あるぞ。えっと、どこだったかな、ちょっと貸して貰えねえか」
本を渡すと、彼はページをパラパラと
「お、あったあった」
そう言って見せてきたページには、確かに『アモン』という文字が書かれていた。
アモン:ゴエティアにおいて序列7番目の大いなる公爵。召喚主に未来や過去の知識を教えたり、人同士の不和をもたらしたり、和解させたりする。
「へえ……」
「なんだ、反応軽いなあ」
「なんかごめん。ところで、この”序列”って何? 強さ?」
「いや、これはソロモン王が便利だと思った順だ」
予想外の言葉にポカンとする。
––––便利? 便利だと思った順? なんか、適当だな……。
確かに、ウァサゴの能力とか、色々便利そうではある。けど、それでいいのか悪魔たちよ…………。
「この本、借りても?」
「いいぞ。ただし、絶対に汚してくれるなよ」
アモンは念を押すようにして、私の顔の間近まで指を持ってきた。私は若干気圧されながらも、二回ほど頷いた。
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