第20話 京都の大学に通いたかったな

 先日、通勤途中に聴いているラジオに万城目学まきめまなぶさんが出演していました。内容は、先日、第170回直木賞を受賞した『八月の御所グラウンド』についてでした。万城目さんの声をはじめて聴くと同時に――


 ――そうか。万城目学かあ。


と妙に得心したのでした。なにに得心したのかというと、おもしろいと分かっていながらも、あまり手にとってこなかったなあという意味です。万城目学さんもついに直木賞作家ですか。おめでとうございます。


 もちろん、個人的にはまったく知らない人なのですが、万城目さんのデビュー作『鴨川ホルモー』を読んだときの衝撃は忘れられません。京都を舞台に、式神を使役して争う謎の競技「ホルモー」を戦う大学生たちの、なんやようわからん物語が『鴨川ホルモー』です。喉越しが良く読みやすい文体と、なんやようわからんけれど、怪訝しくて可笑しい雰囲気が素晴らしい上に、京都で学生生活を送る若者たちの日常描写が極上に良いんです。


 ――京都の大学生になりたい!


 当時、すでにアラサーを超えていたわたしは残念でなりませんでした。地元の大学じゃなくて、浪人してでも京都の大学に通えばよかった……真剣に後悔しましたねー。東京にもたくさん大学はあるのでしょうが、『鴨川ホルモー』で味わった感覚は、東京では感じられないと思う。やっぱ京都の大学でないと。


『八月の御所グラウンド』は、わたしが夢中になった『鴨川ホルモー』と同じく京都を舞台に学生が、謎の野球大会に参加する物語です。おもしろくないわけがない。万城目学さんの小説は、ホルモー以降、『鹿男あをによし』、『プリンセストヨトミ』、『偉大なるしゅららぼん』と読みましたが、やはり京都を舞台にした小説が一番おもしろいと感じました。万城目さんは京都でいい学生時代を過ごしたんだろうなと思います。


『八月の御所グラウンド』には二篇の小説が収録されています。「十二月の都大路上下カケル」は駅伝を走る高校一年生の、「八月の御所グラウンド」は野球に駆り出された大学四年生の、それぞれ思うに任せられないけれど……得るところもある青春ストーリーです。繰り返しになりますが、喉越しの良さは抜群です。怖くない伝奇要素もあり不思議です。なにより、「京都いいな」と考えている人は強力におすすめしたい。


 もし生まれ変われるなら、こんどは京都の大学に通うぞ〜!


『八月の御所グラウンド』(万城目学 文藝春秋)

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