転生したサンタクロースは希望を配る

うりぼう

第1話 死亡したようです

 しんしんと雪が降り積もる夜。


 僕の耳元では、激しく風を切る音が聞こえている。

 目を向ければ満天の夜空。


 それが恐ろしいほどの勢いで遠ざかって行く。


 みるみるうちに遠ざかる星々を眺める僕は、これから訪れるであろう死に覚悟を決める。


(ずいぶんとあっけなかったな……)


 不思議と恐怖はない。

 どこか諦めの境地といったところか。


 地上数千メートルから空中に放り出された僕は、地球の重力に引かれて落ちていく。

 

(ああ、畜生。やっと見習いを卒業したかと思えば、最初のクリスマスでこれかよ……)


 間もなく死を迎えるであろう僕の脳裏には、祖父と交わした会話が去来する。


「いいか、中には酒をかっ食らって運転をしているバカ者もいるから、くれぐれも気をつけるのじゃぞ」

「ハハハハッ!じいちゃん、さすがにそんなヤツいるわけないって」

「いや、おるんじゃよ。特にロシアのヤツなんぞは、寒いからって年がら年中ウオッカをあおっておるからな」

「いやいや、ロシアって……どんだけ越境してくるんだって話だよ」


 朝方にそんな会話をしていた僕は、今まさにソリに強い衝撃を受けて大空に投げ出されたばかりだった。

 まさかのソリどうしの衝突事故だ。


Блин!しまったぁ!


 日本語ではない叫び声が耳に届く。

 

 空に放り出された瞬間、一瞬だけ目に入った相手の姿に僕は怒りを覚える。

 

(あの野郎!左手に酒瓶を持ってやがった!!!)


 まさか、じいちゃんとの会話が死亡フラグになるなんて……。


 まっ逆さまに地上に落ちる僕。

 ふと視線を左に向ければ、そこには幼い頃から共に育った相棒、トナカイの【フロン】の姿。

 だけど彼女は、ぶつけられた衝撃で意識を失っているようだ。

 何度も声をかけているが、ピクリとも動かない。


 このままだと、彼女もまた大地に叩きつけられる運命だろう。


(フロン、ごめんよ。僕が注意力に欠けていたばっかりに……)


 僕は心の中でそう詫びると、来るべき運命を受け入れようと心を決める。


(ああ、これで終わりか……。子供たちにプレゼントを届けられなかったよ……)


 星々に向かって手を伸ばすも、空を飛ぶ能力を持たない僕には為すすべもない。


(じいちゃん、怒るかなぁ……)


 こうして志半ばで生命を失うことが悔しい。

 思わず涙が溢れてくる。


(ああ主よ、願わくば、来世でこそは人々にプレゼントを配らせて下さい)


 どうやら地面が迫って来たようだ。


(子どもたちを悲しませちゃうなぁ……)


「ごめんよ……」


 それが僕の最後の言葉であった。



 こうして、世界に108人しかいないサンタクロースのひとりである僕は、飲酒運転のソリとの衝突であっけなくその生命を散らしたのであった。



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