長年来の友人
「で。相談って何だ?あの少年の大切な人の捜索の手伝いか?」
「いいえ。そうではなくて、」
透明人間になってしまった彼女を見つけ出してほしい。
最強のエスパーが少年から頼まれてから、一週間後の事だった。
最強のエスパーからテレパシーで相談があるので来てほしいと伝えられた長年来の友人は、切迫した状況ではないと前もって言われていたので、一人用の宇宙船でこの小さな星に来たわけだが。
ゆらゆらきこきこ。
ウッドデッキに置かれたロッキングチェアに深く腰をかけて前後に小さく揺らしていた長年来の友人は、珍しく言葉を濁す最強のエスパーを急かすでもなく、気長に言葉の続きを待った。
待って、待って、待ち続けて。
とっぷりと陽が沈んで、夜が訪れた。
少年はまだ岩大根の収穫を続けていた。
「もしかしたら、あの子が見つけ出したい彼女が、私かもしれないんです」
「何か目的があって、変身能力を使い、少年に近づいた。が。何が目的で近づいたのか、何故少年と会っていた記憶がないのか、わからない、か?」
「テレパスですか?」
「顔に書いている」
「あなたには何でもお見通しですか」
「ばか言え。何でもお見通しなら苦労しないっての」
「はは」
長年来の友人も一笑してのち、事の深刻さに気付いても、柔和な笑みを消しはしなかった。
「あの少年の能力か。末恐ろしいな。最強のエスパーの記憶を消しちまうなんて」
「だからこそ、私は近づいたんだと思います。あの子を勧誘して育てるために。けれど、その前に、私があの子に操作されてしまった」
「ははっ。よかったな。最強のおまえを超えるエスパーが現れて」
「まあ、よかった、ですけど」
「少年は能力を操作できそうか?」
「半々。ですかね」
「操作できそうになかったらどうするんだ?少年を消しちまうか?」
能力を操作できず、暴走して、大地を、人を、生物を、星一個を、銀河一つを、消し去ったエスパーもいた。
そのエスパーを殺したエスパーも、いたのだ。
「選択肢の中に入っていますよ。ただ、そうならないように、私も力を尽くします。が。もしもの時は、周辺の避難誘導をお願いします」
「こんな辺鄙なところにあるってのに。避難誘導が必要ってか」
「はい」
ほんの僅かの間、二人の間にしじまが広まった。
「そうならないように。しますけど」
了承しては少年の元へと向かった長年来の友人の元気のいい声を聞きながら、最強のエスパーは家の中へと入った。
夕飯の支度を始めるのだ。
(2024.1.6)
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